118 / 153
第一章
束の間の遊戯-12-
しおりを挟む
だから、こういう対応に慣れているのだろう。
実際のところ美月さんのような若い女性にこんな風に謝られて、嫌な顔をできる男は早々多くないだろう。
もっとも、美月さん本人にとってはそういう役回りを演じるのはストレスが溜まるとは思うが。
俺は昨日の美月さんが見せた怪しげな笑みを脳裏に浮かべる。
「あの……ご都合悪かったでしょうか?」
そう言って、申し訳なさそうに俺を見ている美月さんはどう見ても可憐な令嬢である。
果たしてどちらかが本当の彼女なのだろうか。
いや……そもそも二面性がない人間などいないし、相手や場所によって性格も変わるのは当然か。
美月さんの飛び抜けた美貌、超人気冒険者、令嬢、それらの要素によって、俺は必要以上に彼女を無意識に理想化しているのかもしれない。
それはさておき……美月さんの言う事にも一理ある。
昨日のようにアメリカ政府まで出てきたとなると、日本政府……というかダンジョン関連の役人にも話しを入れておいた方が良い気がする。
というよりも……こないだの戦車破壊について弁明しないと色々とマズイことになるだろう。
つまるところ、俺は、日本の兵士……いや自衛隊に喧嘩を売って、高額な兵器を破壊した人間で、その証拠映像もたっぷりある……という最悪の状況なのだし……。
色々と冷静に考えているとまた頭が痛くなってきた……。
「い、いや大丈夫です。それじゃあ……よろしくお願いします」
「ありがとうございます。では、わたしはここで待っていますので。準備ができたら声をかけてください」
そう言って、美月さんはまた一礼する。
俺は部屋に戻ると、急いで髪を直して、髭をそり、最低限の外行きの準備をして、再び廊下を出る。
そして、そのまま美月さんと一緒に屋敷の玄関の前に出る。
そこには、ホテルのような車寄せの空間があり、既に黒塗りの車が横付けされていた。
何か政府の公用車のような物々しさを感じるその車を前に、俺は一瞬戸惑ってしまう。
だが、美月さんは特に気にする様子もなく、その車の扉の横に立ち、
「どうされました? さあどうぞ」
と、車に乗るように促される。
俺はそのまま車の後部座席に乗り込むと、隣に美月さんが座る。
美月さんが運転手の人に声をかけると、そのまま車は発進する。
俺は、タクシー以外で運転手付きの車などに乗ったことがほぼ皆無のため、どうにも落ちつかない気持ちになる。
というより異世界に行く前も帰ってきた後もずっと俺は首都圏に住んでいるから、公共交通機関以外での移動にそもそも慣れていない。
馬車や魔法——ポータル——での移動には俺は馴染んでいるが、あれはまた別物だしな。
ふと、隣にいる美月さんを見るが、いつもどおりの日常という雰囲気を醸し出している。
美月さんにとっては、運転手付きでの車移動が当たり前なのだろう。
同じ時代、同じ場所……日本に住んでいても生活レベルによって、常識や価値観が異なるのはある意味で当然なのかもしれない。
異世界でも、同じ街に貴族や王族が豪奢な屋敷に住んでいて、平民……いや貧民たちは屋根もないボロ屋に住んでいた。
彼らはよほどのことがない限り、生涯関わり合うことなどないし、貴族たちは貧民たちのことを同じ人間とすら思っていなかった。
そう思えば、どんなに経済的な差があろうとも、対等に接してくれているこの世界……いやこの国の人間たちは大分異世界よりもマトモなのかもしれない。
少なくとも美月さんにしても麻耶さんにしても、もちろん花蓮さんだって、俺を見る時に蔑みの表情を見せたことはない。
そのことは俺にとっては驚きだった。
俺は美月さんの横顔をチラリと見ながら、過去の記憶をたどり寄せ、視界を外へ向ける。
まばらだった家屋は次第に密集度を増やしていき、多くの家々が飛び込んでくる。
俺は本来であれば馴染み深い光景であるはずのこの風景すら未だに違和感を覚えてしまう。
やはり異世界の常識から俺はまだ抜け出せていないのかもしれないな……。
その後、美月さんは特段話しかけてくる訳でもなかったため、俺は、なんともなしに変化する外の景色を眺めていた。
数十分ほど経ったころだろうか、不意に美月さんが何かを思い出したかのように話す。
「二見さん、母のことをどう思われていますか?」
実際のところ美月さんのような若い女性にこんな風に謝られて、嫌な顔をできる男は早々多くないだろう。
もっとも、美月さん本人にとってはそういう役回りを演じるのはストレスが溜まるとは思うが。
俺は昨日の美月さんが見せた怪しげな笑みを脳裏に浮かべる。
「あの……ご都合悪かったでしょうか?」
そう言って、申し訳なさそうに俺を見ている美月さんはどう見ても可憐な令嬢である。
果たしてどちらかが本当の彼女なのだろうか。
いや……そもそも二面性がない人間などいないし、相手や場所によって性格も変わるのは当然か。
美月さんの飛び抜けた美貌、超人気冒険者、令嬢、それらの要素によって、俺は必要以上に彼女を無意識に理想化しているのかもしれない。
それはさておき……美月さんの言う事にも一理ある。
昨日のようにアメリカ政府まで出てきたとなると、日本政府……というかダンジョン関連の役人にも話しを入れておいた方が良い気がする。
というよりも……こないだの戦車破壊について弁明しないと色々とマズイことになるだろう。
つまるところ、俺は、日本の兵士……いや自衛隊に喧嘩を売って、高額な兵器を破壊した人間で、その証拠映像もたっぷりある……という最悪の状況なのだし……。
色々と冷静に考えているとまた頭が痛くなってきた……。
「い、いや大丈夫です。それじゃあ……よろしくお願いします」
「ありがとうございます。では、わたしはここで待っていますので。準備ができたら声をかけてください」
そう言って、美月さんはまた一礼する。
俺は部屋に戻ると、急いで髪を直して、髭をそり、最低限の外行きの準備をして、再び廊下を出る。
そして、そのまま美月さんと一緒に屋敷の玄関の前に出る。
そこには、ホテルのような車寄せの空間があり、既に黒塗りの車が横付けされていた。
何か政府の公用車のような物々しさを感じるその車を前に、俺は一瞬戸惑ってしまう。
だが、美月さんは特に気にする様子もなく、その車の扉の横に立ち、
「どうされました? さあどうぞ」
と、車に乗るように促される。
俺はそのまま車の後部座席に乗り込むと、隣に美月さんが座る。
美月さんが運転手の人に声をかけると、そのまま車は発進する。
俺は、タクシー以外で運転手付きの車などに乗ったことがほぼ皆無のため、どうにも落ちつかない気持ちになる。
というより異世界に行く前も帰ってきた後もずっと俺は首都圏に住んでいるから、公共交通機関以外での移動にそもそも慣れていない。
馬車や魔法——ポータル——での移動には俺は馴染んでいるが、あれはまた別物だしな。
ふと、隣にいる美月さんを見るが、いつもどおりの日常という雰囲気を醸し出している。
美月さんにとっては、運転手付きでの車移動が当たり前なのだろう。
同じ時代、同じ場所……日本に住んでいても生活レベルによって、常識や価値観が異なるのはある意味で当然なのかもしれない。
異世界でも、同じ街に貴族や王族が豪奢な屋敷に住んでいて、平民……いや貧民たちは屋根もないボロ屋に住んでいた。
彼らはよほどのことがない限り、生涯関わり合うことなどないし、貴族たちは貧民たちのことを同じ人間とすら思っていなかった。
そう思えば、どんなに経済的な差があろうとも、対等に接してくれているこの世界……いやこの国の人間たちは大分異世界よりもマトモなのかもしれない。
少なくとも美月さんにしても麻耶さんにしても、もちろん花蓮さんだって、俺を見る時に蔑みの表情を見せたことはない。
そのことは俺にとっては驚きだった。
俺は美月さんの横顔をチラリと見ながら、過去の記憶をたどり寄せ、視界を外へ向ける。
まばらだった家屋は次第に密集度を増やしていき、多くの家々が飛び込んでくる。
俺は本来であれば馴染み深い光景であるはずのこの風景すら未だに違和感を覚えてしまう。
やはり異世界の常識から俺はまだ抜け出せていないのかもしれないな……。
その後、美月さんは特段話しかけてくる訳でもなかったため、俺は、なんともなしに変化する外の景色を眺めていた。
数十分ほど経ったころだろうか、不意に美月さんが何かを思い出したかのように話す。
「二見さん、母のことをどう思われていますか?」
54
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者現代へ帰る。でも、国ごと付いてきちゃいました。
Azanasi
ファンタジー
突然召喚された卒業間近の中学生、直人
召喚の途中で女神の元へ……女神から魔神の討伐を頼まれる。
断ればそのまま召喚されて帰るすべはないと女神は言い、討伐さえすれば元の世界の元の時間軸へ帰してくれると言う言葉を信じて異世界へ。
直人は魔神を討伐するが帰れない。実は魔神は元々そんなに力があるわけでもなくただのハリボテだった。そう、魔法で強く見せていただけだったのだが、女神ともなればそれくらい簡単に見抜けるはずなおだが見抜けなかった。女神としては責任問題だここでも女神は隠蔽を施す。
帰るまで数年かかると直人に伝える、直人は仕方なくも受け入れて現代の知識とお買い物スキルで国を発展させていく
ある時、何の前触れもなく待望していた帰還が突然がかなってしまう。
それには10年の歳月がかかっていた。おまけにあろうことか国ごと付いてきてしまったのだ。
現代社会に中世チックな羽毛の国が現れた。各国ともいろんな手を使って取り込もうとするが直人は抵抗しアルスタン王国の将来を模索して行くのだった。
■小説家になろうにも掲載
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる