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第一章

束の間の遊戯-12-

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 だから、こういう対応に慣れているのだろう。



 実際のところ美月さんのような若い女性にこんな風に謝られて、嫌な顔をできる男は早々多くないだろう。



 もっとも、美月さん本人にとってはそういう役回りを演じるのはストレスが溜まるとは思うが。



 俺は昨日の美月さんが見せた怪しげな笑みを脳裏に浮かべる。



「あの……ご都合悪かったでしょうか?」

 

 そう言って、申し訳なさそうに俺を見ている美月さんはどう見ても可憐な令嬢である。

 

 果たしてどちらかが本当の彼女なのだろうか。

 

 いや……そもそも二面性がない人間などいないし、相手や場所によって性格も変わるのは当然か。

 

 美月さんの飛び抜けた美貌、超人気冒険者、令嬢、それらの要素によって、俺は必要以上に彼女を無意識に理想化しているのかもしれない。

 

 それはさておき……美月さんの言う事にも一理ある。

 

 昨日のようにアメリカ政府まで出てきたとなると、日本政府……というかダンジョン関連の役人にも話しを入れておいた方が良い気がする。

 

 というよりも……こないだの戦車破壊について弁明しないと色々とマズイことになるだろう。

 

 つまるところ、俺は、日本の兵士……いや自衛隊に喧嘩を売って、高額な兵器を破壊した人間で、その証拠映像もたっぷりある……という最悪の状況なのだし……。

 

 色々と冷静に考えているとまた頭が痛くなってきた……。



「い、いや大丈夫です。それじゃあ……よろしくお願いします」



「ありがとうございます。では、わたしはここで待っていますので。準備ができたら声をかけてください」

 

 そう言って、美月さんはまた一礼する。

 

 俺は部屋に戻ると、急いで髪を直して、髭をそり、最低限の外行きの準備をして、再び廊下を出る。

 

 そして、そのまま美月さんと一緒に屋敷の玄関の前に出る。

 

 そこには、ホテルのような車寄せの空間があり、既に黒塗りの車が横付けされていた。  

 

 何か政府の公用車のような物々しさを感じるその車を前に、俺は一瞬戸惑ってしまう。

 

 だが、美月さんは特に気にする様子もなく、その車の扉の横に立ち、



「どうされました? さあどうぞ」

 

 と、車に乗るように促される。

 

 俺はそのまま車の後部座席に乗り込むと、隣に美月さんが座る。

 

 美月さんが運転手の人に声をかけると、そのまま車は発進する。

 

 俺は、タクシー以外で運転手付きの車などに乗ったことがほぼ皆無のため、どうにも落ちつかない気持ちになる。

 

 というより異世界に行く前も帰ってきた後もずっと俺は首都圏に住んでいるから、公共交通機関以外での移動にそもそも慣れていない。

 

 馬車や魔法——ポータル——での移動には俺は馴染んでいるが、あれはまた別物だしな。



 ふと、隣にいる美月さんを見るが、いつもどおりの日常という雰囲気を醸し出している。



 美月さんにとっては、運転手付きでの車移動が当たり前なのだろう。



 同じ時代、同じ場所……日本に住んでいても生活レベルによって、常識や価値観が異なるのはある意味で当然なのかもしれない。



 異世界でも、同じ街に貴族や王族が豪奢な屋敷に住んでいて、平民……いや貧民たちは屋根もないボロ屋に住んでいた。



 彼らはよほどのことがない限り、生涯関わり合うことなどないし、貴族たちは貧民たちのことを同じ人間とすら思っていなかった。



 そう思えば、どんなに経済的な差があろうとも、対等に接してくれているこの世界……いやこの国の人間たちは大分異世界よりもマトモなのかもしれない。



 少なくとも美月さんにしても麻耶さんにしても、もちろん花蓮さんだって、俺を見る時に蔑みの表情を見せたことはない。



 そのことは俺にとっては驚きだった。



 俺は美月さんの横顔をチラリと見ながら、過去の記憶をたどり寄せ、視界を外へ向ける。



 まばらだった家屋は次第に密集度を増やしていき、多くの家々が飛び込んでくる。



 俺は本来であれば馴染み深い光景であるはずのこの風景すら未だに違和感を覚えてしまう。



 やはり異世界の常識から俺はまだ抜け出せていないのかもしれないな……。



 その後、美月さんは特段話しかけてくる訳でもなかったため、俺は、なんともなしに変化する外の景色を眺めていた。



 数十分ほど経ったころだろうか、不意に美月さんが何かを思い出したかのように話す。



「二見さん、母のことをどう思われていますか?」
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