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第一章

束の間の遊戯-11-

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『美月と一緒にダンジョン対策庁にきなさい』



 メッセージにはそう書かれていた。

 

 俺は首をひねりながら、このメッセージの送り主を考えていた。

 

 と、部屋をノックする音が聞こえる。

 

 俺は、とりあえずケータイをテーブルに置き、服を羽織って、扉をあける。

 

 そこには美月さんが立っていた。



「おはようございます。二見さん」

 

 姿勢正しくペコリとそうお辞儀をする美月さんは、昨日のドレス姿からうって変わって、普段着姿であった。

 

 といっても、その姿——白のブラウスと黒のロングスカート——でも十分にフォーマルな場所に出席しても問題ないほどに気品ある佇まいであった。

 

 自分の家……しかも朝早くからこんなにきっちりとした格好をしているなんてさすがだな。

 

 と、俺が感心していると、



「あの……二見さん、準備はもうお済みですか?」

 

 と、美月さんは少しばかり怪訝な顔を浮かべて、俺を上から下まで見る。

 

 その視線で、俺は自分の今の姿を客観視する。



 俺は、美月さんとは対照的にあからさまに寝起きといった出で立ちをしている。



「えっと……準備とは?」



「母から話しがあったと思いますが、二見さんと一緒にダンジョン対策庁に行くように言われたのですが」

 

 と、美月さんはサラリとそう言った後、俺が戸惑っている顔を見てとり、



「まあ……母のことですから、話しはなかったかもしれませんが……」

 

 と、半ばあきらめた顔を浮かべている。

 

 俺は美月さんの話しを聞いて、先ほどのメッセージの送り主が誰であるかようやく気づいた。

 

 とはいえ……俺は麻耶さんと連絡先を交換した覚えはまるでないのだが。

 

 まあ……花蓮さんも俺の自宅をいつの間にか知っていたしな。

 

 ひょっとしたら、俺が冒険者登録をした時の情報が電話帳みたいに公開されているのだろうか。



 個人情報保護……という言葉はこの世界に戻ってきてから初めて知った摩訶不思議な概念だが、やはりまだ社会に浸透していないのだろう。

 

 25年前にはそんな言葉はほとんど使われていなかったし、まあ普通に考えて電話帳で住所と電話番号を公開しているくらいだしなあ。



 それに、俺のようなオッサンの電話番号や住所を保護しても仕方がないだろうし、それではいざという時に連絡を取れなくて、不便だしな。



「えっと……それはまあいいのですが、自分がなぜダンジョン対策庁に?」



「わたしもよく聞かされていないのですが、おそらく昨日の動画と今後の二見さんの扱いについての話し合いかと」



「はあ……」

 

 美月さんのやや戸惑い気味の様子を見ると、どうやら麻耶さんに半ば強引に話しを振られたのだろう。

 

 俺に対するさっきのメッセージも一方的な通達という感じであったし。



 麻耶さんにとっては自身が決定したことをただ伝えるというのが、他者との当たり前のコミュニケーションの取り方なのかもしれない。



 長年上の立場にいる人間には往々にしてそういうタイプが多いが、麻耶さんもそうなのだろう。

 

 とはいえ、一応俺の予定くらいは最低限確認してからにしてほしいものだが。

 

 確かに俺は無職、いや自由業だから基本的に毎日時間には余裕がある……まあ正直に言えば一日中フリータイムである。



 それでも一般的なマナーとしてこちらの都合を聞いてくれてもよいと思うのだが。



 美月さんは俺の表情に何かを感じたのか、



「母が勝手に決めてしまって大変申し訳ないのですが、二見さんにとっても悪い話しではないと思います。こないだの件にしても、昨日の動画にしても二見さんは今あまりにも注目を集めすぎています。今後二見さんがどうされるにしても我が国の行政に話しを通しておいた方が色々と動きやすいかと思います」

 

 と、スラスラとフォローの言葉を紡ぐ。

 

 美月さんのその様子に俺はあらためて感心していた。

 

 まだ20歳になったばかりの大学生くらいの年齢だろうに、なんというか非常に立ち振舞も対応も敏腕秘書みたいにしっかりとしている。

 

 美月さんはワンマン社長たる麻耶さんの暴走を止める秘書みたいな役割をずっと行ってきたのかもしれないな。
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