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第一章
晩餐会-17-
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俺は慌てて、
「も、もちろん! 鈴羽さんもお二人とも、とてもきれいです」
と言う。
「……敬三様も……とても似合っていますわ」
「時間をかけて選んだかいがありました……ご主人様……」
花蓮さんは少し顔を赤らめていて、鈴羽さんは顔を緩めている。
いずれにせよ二人ともとても嬉しそうに微笑している。
今日の会に何人の男が出席するかは不明だが、きっと俺を含めてかなりの幸せ者だろうとその二人の様子を見て、あらためて確信した。
「さあ……それでは行きましょうか。麻耶さんたちもそちらにいるようですし」
と、花蓮さんがそう言うとさも当然とばかりに、花蓮さんと鈴羽さんはそれぞれ俺の腕を取った。
そして、その腕を彼女たちの腕に絡めてくる。
俺はもういい年なのだか、悲しいことに異世界ではなくこの世界におけるこういう場の作法については無知である。
異世界に転移する前の20代前半そこそこの貧乏人だった俺は、当然こんな場に巡り合う機会はなかった。
だから、俺は花蓮さんと、鈴羽さんが、俺の体に密着して、腕を組んでくることについて、いささか疑問を感じながらも、彼女たちに委ねることにした。
なぜなら、彼女たちならば、当然こういう場における振る舞いは熟知しているはずだからだ。
いやまあ……この至福の時間をできる限り味わっていたいという想いも当然強かったが……。
そして、俺は花蓮さんと鈴羽さんを伴い、麻耶さんたちの前まで行ったのだが、麻耶さんたちはみな一様に呆れ顔を浮かべていた。
「花蓮、鈴羽……まさかあなたたちずっとそのままでいる気はないわよね?」
「それはその……そうですわね。相手の方々がいらっしゃったら仕方がないですけれど……離れますわ。ですが……今はわたくしたちしかいないので……このままで失礼いたしますわ」
「わたしたちの前でも遠慮してもらいたいものだけど……正直に言わせてもらうと……かなり不快よ」
麻耶さんはまじまじと俺等を見て、はっきりとそう言い放つ。
「非公式の会合……しかもわたしたちと相手方だけの少人数なのだから、わたしはずっとこのままでもいいと思いますけれど」
と、鈴羽さんはよくわからない理屈を並び立てて、麻耶さんに反論する。
「鈴羽……わたしたちの正気を疑われるから、それだけはさすがにやめてちょうだい。それに、たださえ二見は悪い意味で注目を浴びているのだから、二見のためにも変な振る舞いは控えた方がよいと思うけれどね」
麻耶さんからことさらに厳しい視線を向けられた鈴羽さんは、
「それは確かに……はあ……仕方がないですね」
と、しぶしぶながらもうなずく。
その後、場にはいっときの沈黙が訪れた。
両隣には花蓮さんと鈴羽さんがいて、俺のそばから離れようとしない。
もしかしたら俺の気のせいなのかもしれないが、花蓮さんと鈴羽さんは何故か麻耶さんたちにその様子を見せつけているように思えた。
俺は麻耶さんと綾音さんからさきほどからずっと険しい視線を向けられている。
美月さんは呆れながらも、その目はなぜか興味津々といった様子であった。
俺個人としては、居心地が良いのか悪いのか、判断がつきかねる状況下ではあった。
だが、両者の間には、なんとなく一瞬即発の雰囲気が漂っている気がした。
現に麻耶さんはあからさまに機嫌が悪くなり、きこえみよがしに大きなため息をついて、
「まったく……遅いわね……先方は……」
と、文句を言っている。
「お母様……まだ開始時刻まではだいぶありますけど」
と、美月さんがいつものように突っ込みを入れている。
「わかっているわ! そんなことは。ただ、こういう場合は少し早めに来るのがマナーというものなのよ!」
「お母様少し落ち着いてください。目の前で花蓮さんと鈴羽さんに二見さんを取られてイライラするのはわかりますが……」
「美月! あなたはさっきから何を——」
麻耶さんのイライラが頂点に達しようとした時に、遠くから車が止まる音がした。
「どうやら到着したようですね」
と、美月さんは麻耶さんの怒りをするりとかわして、どこふく風という様子で言う。
そして、しばらくして、広間に米国政府の関係者とおぼしき人達が現れた。
中年の男と若いメガネをかけた男、最後の一人は若い女性であった。
若い男は、広間に現れるなり、麻耶さんたちを見て、いさかさか大げさなリアクションとも思えるジェスチャーを浮かべていた。
「まさか! こんな美しい女性たちに出迎えられることになるとは思いませんでした!」
と、感嘆している。
その男は、外見上はそこらにいるメガネをかけた日本人の若い男……しかも控えめな雰囲気……に見えるから、どうもその振る舞いと言動には何か違和感を覚えざるを得ない。
「マスイ、その発言は相手によっては不快と思う女性もいるから最初に言う言葉として適切なものとは思えないけれど。それに、美女なら既にあなたの隣にもいるのだから、まずはその相手を褒めるべきじゃないかしら?」
「キャシー……僕は内面を含めて総合的に女性を見て、『美しい』と言っているんだ。外見だけで判断している訳じゃない。その意味では君は外見上は『美しい』かもしれないけれど……」
「それ以上は、口に出さない方があなたの身のためよ……」
と、二人がこちらをそっちのけでいがみ合っているのを、俺を含めたみんなが怪訝な顔を浮かべてその二人を見ていた。
「も、もちろん! 鈴羽さんもお二人とも、とてもきれいです」
と言う。
「……敬三様も……とても似合っていますわ」
「時間をかけて選んだかいがありました……ご主人様……」
花蓮さんは少し顔を赤らめていて、鈴羽さんは顔を緩めている。
いずれにせよ二人ともとても嬉しそうに微笑している。
今日の会に何人の男が出席するかは不明だが、きっと俺を含めてかなりの幸せ者だろうとその二人の様子を見て、あらためて確信した。
「さあ……それでは行きましょうか。麻耶さんたちもそちらにいるようですし」
と、花蓮さんがそう言うとさも当然とばかりに、花蓮さんと鈴羽さんはそれぞれ俺の腕を取った。
そして、その腕を彼女たちの腕に絡めてくる。
俺はもういい年なのだか、悲しいことに異世界ではなくこの世界におけるこういう場の作法については無知である。
異世界に転移する前の20代前半そこそこの貧乏人だった俺は、当然こんな場に巡り合う機会はなかった。
だから、俺は花蓮さんと、鈴羽さんが、俺の体に密着して、腕を組んでくることについて、いささか疑問を感じながらも、彼女たちに委ねることにした。
なぜなら、彼女たちならば、当然こういう場における振る舞いは熟知しているはずだからだ。
いやまあ……この至福の時間をできる限り味わっていたいという想いも当然強かったが……。
そして、俺は花蓮さんと鈴羽さんを伴い、麻耶さんたちの前まで行ったのだが、麻耶さんたちはみな一様に呆れ顔を浮かべていた。
「花蓮、鈴羽……まさかあなたたちずっとそのままでいる気はないわよね?」
「それはその……そうですわね。相手の方々がいらっしゃったら仕方がないですけれど……離れますわ。ですが……今はわたくしたちしかいないので……このままで失礼いたしますわ」
「わたしたちの前でも遠慮してもらいたいものだけど……正直に言わせてもらうと……かなり不快よ」
麻耶さんはまじまじと俺等を見て、はっきりとそう言い放つ。
「非公式の会合……しかもわたしたちと相手方だけの少人数なのだから、わたしはずっとこのままでもいいと思いますけれど」
と、鈴羽さんはよくわからない理屈を並び立てて、麻耶さんに反論する。
「鈴羽……わたしたちの正気を疑われるから、それだけはさすがにやめてちょうだい。それに、たださえ二見は悪い意味で注目を浴びているのだから、二見のためにも変な振る舞いは控えた方がよいと思うけれどね」
麻耶さんからことさらに厳しい視線を向けられた鈴羽さんは、
「それは確かに……はあ……仕方がないですね」
と、しぶしぶながらもうなずく。
その後、場にはいっときの沈黙が訪れた。
両隣には花蓮さんと鈴羽さんがいて、俺のそばから離れようとしない。
もしかしたら俺の気のせいなのかもしれないが、花蓮さんと鈴羽さんは何故か麻耶さんたちにその様子を見せつけているように思えた。
俺は麻耶さんと綾音さんからさきほどからずっと険しい視線を向けられている。
美月さんは呆れながらも、その目はなぜか興味津々といった様子であった。
俺個人としては、居心地が良いのか悪いのか、判断がつきかねる状況下ではあった。
だが、両者の間には、なんとなく一瞬即発の雰囲気が漂っている気がした。
現に麻耶さんはあからさまに機嫌が悪くなり、きこえみよがしに大きなため息をついて、
「まったく……遅いわね……先方は……」
と、文句を言っている。
「お母様……まだ開始時刻まではだいぶありますけど」
と、美月さんがいつものように突っ込みを入れている。
「わかっているわ! そんなことは。ただ、こういう場合は少し早めに来るのがマナーというものなのよ!」
「お母様少し落ち着いてください。目の前で花蓮さんと鈴羽さんに二見さんを取られてイライラするのはわかりますが……」
「美月! あなたはさっきから何を——」
麻耶さんのイライラが頂点に達しようとした時に、遠くから車が止まる音がした。
「どうやら到着したようですね」
と、美月さんは麻耶さんの怒りをするりとかわして、どこふく風という様子で言う。
そして、しばらくして、広間に米国政府の関係者とおぼしき人達が現れた。
中年の男と若いメガネをかけた男、最後の一人は若い女性であった。
若い男は、広間に現れるなり、麻耶さんたちを見て、いさかさか大げさなリアクションとも思えるジェスチャーを浮かべていた。
「まさか! こんな美しい女性たちに出迎えられることになるとは思いませんでした!」
と、感嘆している。
その男は、外見上はそこらにいるメガネをかけた日本人の若い男……しかも控えめな雰囲気……に見えるから、どうもその振る舞いと言動には何か違和感を覚えざるを得ない。
「マスイ、その発言は相手によっては不快と思う女性もいるから最初に言う言葉として適切なものとは思えないけれど。それに、美女なら既にあなたの隣にもいるのだから、まずはその相手を褒めるべきじゃないかしら?」
「キャシー……僕は内面を含めて総合的に女性を見て、『美しい』と言っているんだ。外見だけで判断している訳じゃない。その意味では君は外見上は『美しい』かもしれないけれど……」
「それ以上は、口に出さない方があなたの身のためよ……」
と、二人がこちらをそっちのけでいがみ合っているのを、俺を含めたみんなが怪訝な顔を浮かべてその二人を見ていた。
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