異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

晩餐会-14-

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「敬三様、余計なお世話であることは百も承知ですし、わたくしなどでは、敬三様のお気持ちをおもんばかることはできないかもしれません。ですが……気分を変えるお手伝いくらいはできますわよ」



 と、花蓮さんはうつむいて、やや恥ずかしげな表情を浮かべながらも、その真剣な眼差しで俺を見つめてくる。



 花蓮さんのそうした気遣いに俺は心を打たれたが、同時にどうしようもなく自分のことを恥じる気持ちも生じた。



 自分より一回り以上年若い女性が、赤の他人の俺のためにここまで心をくだいてくれているのだ。



 かたやもう間もなく半世紀の年月を生きているいい年したオッサンである俺は自分のことばかり考えている。



 現に花蓮さんの気配りを先程までうっとうしく感じてさえいた。



 『四十にしてまよわず』という言葉があるが、俺はとっくに40歳を超えているのに未だに感情にかきまわされている。



 かたやまだ30歳にもなっていないであろう花蓮さんはいつも泰然としているし、他人を思いやる心の大きさがある。



 結局、人にとって年齢というのはあくまで参考程度のものであり、個々人の心構えの問題なのかもしれない。



 まったく穴があったら入りたいとは正に今のような心境を言うのだろう。



「花蓮さん……その色々とすいません。それに……ありがとうございます」



 俺は花蓮さんの前に立ち、直立不動でお辞儀をする。



 こんなことでどうにかなる訳ではないが、少なくともはっきりとわかる形で感謝の念は伝えておきたい。



 人の気持ちというやつはやはり言葉にしないとどうにもわからないし、伝わらない。



 これは異世界で俺が学んだ数多い手痛い経験の一つである。



「け、敬三様……そ、そんなあらたまっていただかなくとも……こ、こちらの方こそ恐縮でございますわ……」



 花蓮さんは、顔を赤らめて手をパタパタとしている。



 その仕草はとてつもなく可憐だった。



 俺は思わずその様子に見とれてしまい、このままだといつまでも魅入ってしまいそうであったから、無理やり咳払いをしてごまかす。



「ごほん……その色々と気づかいありがとうございます。お二人の服装を見ているだけで大分気がまぎれました。鈴羽さんにも大分ご心配をかけてしまったようで……そうだ、鈴羽さんにもお礼を言いたいのですが、鈴羽さんはどちらに?」



「えっ……い、いえ鈴羽は……これはわたくしがひとりで勝手に考えていたことですし、鈴羽は敬三様に服を選んでもらうのを喜んでいるだけかと——」



 と、そこにちょうどどこかに行っていた鈴羽さんが戻ってきた。



「ご主人様、その申し訳ないのですが、やはり先程の服ではどうもしっくりとこなくて、また見ていただけますか?」



 と、俺の方を実に楽しげに見つめてくる。



 その瞳は服を選ぶということに文字通り集中していて、とても何か他のことを考えている様子は全く感じられなかった。



 そう……人というのはその性格も個人差が大きい。



 そう言えば鈴羽さんははじめて会った時から、何か一つのことに集中すると突っ走る傾向があった気が——。



 まあ……たとえ鈴羽さんが無自覚であっても、俺の気分転換には確かになった訳だから、鈴羽さんにも感謝をしなければならない……。



 と、俺はそう思っていたのだが、すぐにその気持ちも大分薄らいでいった。



 というのも俺はこの後さらに追加で小一時間ほど、鈴羽さんの服選びに付き合うこ

とになったからだ……。



 なんやかんやと結局俺と花蓮さんたちの服選びでほぼ半日が潰れてしまった。



 そして、そうこうしている内に日は暮れて、晩餐会の開始時刻に近づいていった。



 幸いにも移動時間を心配する必要はない。



 今俺がいる場所……つまり麻耶さんの屋敷が開催場所なのだ。



 昼間に屋敷を一通り回り、会場となる大広間もチラリと覗いていたが、よく確認できなかった。



 というのも、大広間には美月さんが非常に忙しそうにしながら、準備のために集まったと思われるスタッフの人達相手に陣頭指揮を取っていたからだ。



 そして、美月さんは一瞬だけ俺の方……というよりは、鈴羽さんの方を見て、おおきなため息をついていた。



「はあ……まったく急にここを会場にするだなんて……準備をするわたしの身にもなってほしいものだわ……まあ……お母様の無茶な要求は今にはじまったことではないけれど、今回はいつも助けてくれる鈴羽さんも助けてくれそうにないのよね……」



 と、聞えよがし気味に大きな声で言うと、諦めきった顔で両手を広げて首を傾げる。



「これも二見さんが鈴羽さんを——」



 美月さんは、さらに、うらめし気味に俺の方を見てきたので、俺は若干の後ろめたさを感じながらも、あわててその場を離れたのであった。
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