異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

露国対外情報庁サイド-01-

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 麻耶の下腹部にある奴隷紋は明らかにその色を濃くしていた。



 やはり文献にあった通りだ。



 従属魔法は、自身の意思に基づくものだ。



 だから、その性質は自己暗示に近い。



 麻耶が、俺への忠誠を言葉に出せばだすほど、それは自身への暗示として、自分の意思として、言霊として麻耶に返ってくる。



 つまるところ時間とともに、従属魔法の効果は増していき、やがては麻耶の心は完全に俺のものとなるだろう。



 と、俺の耳元に『女』の声がした。



『さあ……時間よ……』



 あの『女』が頭に響く。



 ち……やはり一度で完全に暗示を解くのは無理か。



 そして、徐々に俺の視界が薄れていく。



 俺は、脳裏に浮かぶ裏切り者の『女』の顔を見ながら思考する。



 まあいい。



『力』は十分に見せつけてやった。



 遠くからずっと監視していた女が何者かは知らないが、俺のパフォーマンスを十分に見ただろう。



 いずれ……いやすぐにでも、この『力』に引きつけられた奴らが寄ってくるだろう。



 そうなれば、闘いや争いが起きるのは避けられない。



 つまり……俺の完全な目覚めは近いという訳だ。



 それまでは忌まわしいが、この暗示の元でいましばらく茶番劇に興じてやるとするか……。



 ついで、意識が急速に遠のいていく。



 俺は『女』の微笑む顔を見ながら、それを最後に意識を失った。




◆◆◆◆




 ダンジョン教会日本支部の爆発炎上事件から翌日。



 ロシア連邦。

 モスクワ。

 クレムリン周辺某所の一室にて。



 部屋は質素で、装飾や余分な家具というものはほとんど見当たらない。



 壁はシンプルな白で塗られているが、色褪せており、所々に小さな亀裂や汚れが見受けられる。



 これで壁に指導者の肖像画が飾ってあれば、連邦崩壊前にタイムスリップしたと思われてもおかしくないほどだ。



 部屋の中央には、磨り減った木製のテーブルと椅子がポツリと置いてある。



 このいささか古過ぎる机と椅子に座りながら、ただずむ一人の男。



 その男は、一人うなっていた。



 男の名前は、イヴァン。



 ロシア連邦対外情報庁所属の職員である。



 中肉中背のイヴァンは、その外見からはまるで特徴がないように見える。



 しかし、その細い目とやや猫背ということもあり、会う者に陰鬱なイメージを与えてしまう。



 それ故か、イヴァンは結局のところその外見の割には妙に悪目立ちしてしまう。



 それに、イヴァンの年齢は、50代半ばに差し掛かったばかりだというのに、下手をすれば老人と身間違えてしまうほど老けて見える。



 それは、連邦崩壊、未曾有の国内の混乱、経済崩壊、そしてダンジョン出現という、激動の時代を生き抜いてきた現れなのかもしれない。



 イヴァンの顔の皺の一つ一つはこうした事象を乗り越えてきた勲章のようなものだ。



 そう……何はともあれイヴァンはまだ生き抜いている。



 このクレムリンという魔窟……官僚組織で……。



 たとえ、所属する組織の名前が変わり、その信奉するイデオロギーが変わり、国の名前すら変わったとしても……。



 イヴァンもその度に自身の信条を変えてきた。



 イヴァンはコミュニスト(共産主義者)からキャピタリスト(資本主義者)、民主主義を信奉する男に……そして、今では独裁者を信奉する男になった。



 むろんそうしなければいまイヴァンはこの場所に残っていなかっただろう。



 イヴァンの本当の信条はただひとつ……生き残るということだ。



 そのためには表面上の信念などどうでもいい些細な問題だ。



 そんな抜け目のない老獪な男の顔にまた深い皺が刻まれようとしている。



 極東……日本から届いた不穏な報告。



 まさかこれほどの大事になるとはな……。



 事の発端は、数ヶ月前に発見された新たな日本のダンジョンであった。



 単なる新規のダンジョン発見ならば、そこまで話題にはならなかったのかもしれない。



 新たなダンジョンが発見されるのは数年ぶりのこととはいえ、世界中に既にダンジョンは数十はきかない数あるのだから。



 だが、そのダンジョンの場所が問題であった。



 ダンジョンが現れた場所は、ロシアと日本の国境地帯である南クリル諸島だったのだ。



 それは、日本名では北方領土と言う。



 そして、ダンジョンが出現したのは、日本の領土内——色丹島——であった。
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