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第一章
英雄、目覚める-20-
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「麻耶さんの誤解が解けたのはよいのですが、『旦那様』とは聞き捨てなりませんわ。いったいどういう意味なんですの?」
俺が違和感を覚えるくらいに花蓮は眼光鋭い視線を麻耶に送っている。
花蓮が麻耶を見る目には殺気がこもっているといっても過言ではない。
「……わたしもその件については麻耶様の話しを聞きたいですね。『ご主人様』のことを『旦那様』とはいったい……」
と、隣にいる女——鈴羽だったか——もよくよく見ると、花蓮同様の剣幕で麻耶を見ている。
この二人は元々は麻耶の仲間だと思っていたのだが、違ったのか。
いや……そもそもこの鈴羽という女……俺のことを『ご主人様』と呼んでいる
が……。
俺がこの女に従属魔法をかけていたとは思えないが……。
暗示がかかっている時の記憶は曖昧とはいえ、奴隷紋も刻まれていないようだしな。
俺がそう訝しんでいると、麻耶がうろたえながら、
「か、花蓮、鈴羽……あ、あなたたちは誤解しているわ。わたしは、別にこの男……うう……ああ……だ、旦那様とはなんでもないのよ……旦那様はわたしの主……ご主人様なだけなのよ」
と、必死に説明する。
麻耶は懸命に説明しているつもりなのだろうが、事情を知らぬ者からすれば支離滅裂に思えるだろう。
現に花蓮も鈴羽も眉根を寄せて、さきほどよりもさらに険しい顔をして麻耶を睨んでいる。
「麻耶さんが男の方を『旦那様』と呼んでいるのをわたくしはじめて聞きましたわ……麻耶さんはいったい敬三様のことをどう思っているんですの?」
「わたしもその点は確認したいです。麻耶様はまさかご主人様のことを旦那様……夫として迎えたいということなのですか?」
「わ、わたしは……ち、違う……ふ、二見は、旦那様は……」
二人に言葉尻を追求されて、麻耶はあからさまにうろたえている。
と、ふと地面を見ると、眠りについていたはずの美月の体が動いている。
俺の魔法の効果が薄れてきているのか。
やはり、そろそろ俺も限界か……。
現に俺の脳裏には先ほどからあの忌まわしい『女』の顔がちらつきはじめている。
「うん……わたし……寝てしまっていたの……え!? お、お母様!!」
美月は驚きの声を上げる。
その声で、麻耶たちも美月の目覚めに気づき、顔を向ける。
「ああ……ダメよ……。み、美月……わたしのこんな姿……見ないで!」
麻耶は先ほどよりもさらに、動揺を強めている。
娘に今の姿を見られることは、麻耶にとっては、耐え難い屈辱なのだろう。
なにせ全裸で俺の足元にひれ伏して、土下座しているのだから……。
だが、美月にとっては、そんな母の姿よりも、麻耶の傷が治り、無事でいることの方が重要だったらしい。
「お母様……傷が治って……ああ! よかったわ!」
と、母の方にその体を寄せて、歓喜の涙を流している。
美月はしばらくそのままであったが、さすがに母のあられもない姿に気づいたらしい。
「お、お母様……その格好……そ、そっか……二見さんの回復魔法は……」
美月は、一瞬動揺し、少し顔を赤らめるが、すぐに何かに気付いたように、俺の方を見て、立ち上がる。
そして、
「あ、ありがとうございます。母を助けて頂いて……前回のことも含めて本当に二見さんには感謝をしてもしきれないくらいです」
と、ペコリと頭を下げる。
どうやら娘の方は母と違ってある程度はマシな性格をしているのだろうか。
いや……単にまだ若いから世間擦れしていないだけか。
やはり人というものは若い方が経験が浅いから、使う側にとっては都合がよいな。
そういう意味では麻耶よりも美月の方が従属魔法の対象としてふさわしかったのかもしれない。
俺は美月のその様子をしげしげとながめていた。
やがて美月は、母がずっと微動だにしない姿を訝しがり、
「お母様……どうされたのですか? いつまでもそんな格好で……」
「こ、これは……二見……だ、旦那様が……」
「え……だ、旦那様!?って……二見さんのことですか?」
「ち、違うの!! み、美月……これは——わたしは旦那様とは何も……」
麻耶は言葉を紡げばつむぐほど状況は悪化の一途を辿っていた。
ちょうどいい。
このまま麻耶自身に自分の立場を宣言してもらった方が都合がよいかもしれない。
「麻耶、娘も起きたことだし、お前の想いを話してやったらどうだ?」
「な、何を言って……ああ!! また……この感覚……わ、わたしは旦那様に命を助けられたの……そして、美月……あなたの命も……だ、だから、わたしはこれから生涯旦那様に忠誠を誓います!」
麻耶は何かのタガが外れたかのようにそう絶叫する。
そして、麻耶の顔は何かから解放されたかのように恍惚の表情すら浮かべている。
俺が違和感を覚えるくらいに花蓮は眼光鋭い視線を麻耶に送っている。
花蓮が麻耶を見る目には殺気がこもっているといっても過言ではない。
「……わたしもその件については麻耶様の話しを聞きたいですね。『ご主人様』のことを『旦那様』とはいったい……」
と、隣にいる女——鈴羽だったか——もよくよく見ると、花蓮同様の剣幕で麻耶を見ている。
この二人は元々は麻耶の仲間だと思っていたのだが、違ったのか。
いや……そもそもこの鈴羽という女……俺のことを『ご主人様』と呼んでいる
が……。
俺がこの女に従属魔法をかけていたとは思えないが……。
暗示がかかっている時の記憶は曖昧とはいえ、奴隷紋も刻まれていないようだしな。
俺がそう訝しんでいると、麻耶がうろたえながら、
「か、花蓮、鈴羽……あ、あなたたちは誤解しているわ。わたしは、別にこの男……うう……ああ……だ、旦那様とはなんでもないのよ……旦那様はわたしの主……ご主人様なだけなのよ」
と、必死に説明する。
麻耶は懸命に説明しているつもりなのだろうが、事情を知らぬ者からすれば支離滅裂に思えるだろう。
現に花蓮も鈴羽も眉根を寄せて、さきほどよりもさらに険しい顔をして麻耶を睨んでいる。
「麻耶さんが男の方を『旦那様』と呼んでいるのをわたくしはじめて聞きましたわ……麻耶さんはいったい敬三様のことをどう思っているんですの?」
「わたしもその点は確認したいです。麻耶様はまさかご主人様のことを旦那様……夫として迎えたいということなのですか?」
「わ、わたしは……ち、違う……ふ、二見は、旦那様は……」
二人に言葉尻を追求されて、麻耶はあからさまにうろたえている。
と、ふと地面を見ると、眠りについていたはずの美月の体が動いている。
俺の魔法の効果が薄れてきているのか。
やはり、そろそろ俺も限界か……。
現に俺の脳裏には先ほどからあの忌まわしい『女』の顔がちらつきはじめている。
「うん……わたし……寝てしまっていたの……え!? お、お母様!!」
美月は驚きの声を上げる。
その声で、麻耶たちも美月の目覚めに気づき、顔を向ける。
「ああ……ダメよ……。み、美月……わたしのこんな姿……見ないで!」
麻耶は先ほどよりもさらに、動揺を強めている。
娘に今の姿を見られることは、麻耶にとっては、耐え難い屈辱なのだろう。
なにせ全裸で俺の足元にひれ伏して、土下座しているのだから……。
だが、美月にとっては、そんな母の姿よりも、麻耶の傷が治り、無事でいることの方が重要だったらしい。
「お母様……傷が治って……ああ! よかったわ!」
と、母の方にその体を寄せて、歓喜の涙を流している。
美月はしばらくそのままであったが、さすがに母のあられもない姿に気づいたらしい。
「お、お母様……その格好……そ、そっか……二見さんの回復魔法は……」
美月は、一瞬動揺し、少し顔を赤らめるが、すぐに何かに気付いたように、俺の方を見て、立ち上がる。
そして、
「あ、ありがとうございます。母を助けて頂いて……前回のことも含めて本当に二見さんには感謝をしてもしきれないくらいです」
と、ペコリと頭を下げる。
どうやら娘の方は母と違ってある程度はマシな性格をしているのだろうか。
いや……単にまだ若いから世間擦れしていないだけか。
やはり人というものは若い方が経験が浅いから、使う側にとっては都合がよいな。
そういう意味では麻耶よりも美月の方が従属魔法の対象としてふさわしかったのかもしれない。
俺は美月のその様子をしげしげとながめていた。
やがて美月は、母がずっと微動だにしない姿を訝しがり、
「お母様……どうされたのですか? いつまでもそんな格好で……」
「こ、これは……二見……だ、旦那様が……」
「え……だ、旦那様!?って……二見さんのことですか?」
「ち、違うの!! み、美月……これは——わたしは旦那様とは何も……」
麻耶は言葉を紡げばつむぐほど状況は悪化の一途を辿っていた。
ちょうどいい。
このまま麻耶自身に自分の立場を宣言してもらった方が都合がよいかもしれない。
「麻耶、娘も起きたことだし、お前の想いを話してやったらどうだ?」
「な、何を言って……ああ!! また……この感覚……わ、わたしは旦那様に命を助けられたの……そして、美月……あなたの命も……だ、だから、わたしはこれから生涯旦那様に忠誠を誓います!」
麻耶は何かのタガが外れたかのようにそう絶叫する。
そして、麻耶の顔は何かから解放されたかのように恍惚の表情すら浮かべている。
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