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第一章
英雄、目覚める-06-
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「こ、これくらいでよろしいですか?」
と右手には花蓮さんが俺の腕に手をかけて、しなだれかかり、甘い吐息をかけてきて、
「……ご主人様の体は温かいです……まるでその御心のようです」
と、左手には鈴羽さんが何かに取り憑かれたような顔をして、俺の胸に体をよせてくる。
鈴羽さんの挙動は置いておくとして、いやこれは……さすがに密着し過ぎ——。
と、俺が大きな心の動揺から探知魔法が途切れそうになった時、ソウルエコーが反応する。
その反応で俺はなんとか理性を取り戻す。
俺から上方数十メートル付近に複数の反応がある。
十数のおおよそ同じ大きさの個体——おそらく人だろう——が比較的近い距離にまとまっている。
そして、これらと明らかに大きさが違う個体が一つある。
これが間宮氏が言っていたモンスターだろうか。
しかし、この反応はモンスター……いや生命体というより、むしろアンデッドのそれに近いが……。
いずれにせよこのアンデッドを相手に戦闘中といったところか。
ここから先に進むとなると、間違いなく戦闘に巻き込まれる。
気を引き締めないと——。
「け、敬三様……あの……もっと近づいた方がよろしいですか?」
「ああ……これが……ご主人様の匂い……」
二人の吐息が俺の頬をそよぎ、呼吸のたびに、花蓮さんと鈴羽さんの柔らかい体の感触が俺の肌に伝わる。
せ、戦闘は近いんだ……し、集中しなければ……。
「お、お二人とも……す、少し離れて……か、かたまりすぎるとかえって危険です」
俺は最後の理性の力で、なんとか声を絞り出す。
すると、残念なことに……いや幸いなことに、二人ともぱっと俺の体なら離れる。
「も、申し訳ありません……そ、そうですわよね……ち、近すぎますわよね」
「ダメ……ですか」
……俺の理性は果たしてもつのか。
いや……それより、目の前のことに集中しなければ……。
二人と色々な意味で危険でない距離を保ちながら、俺は先へと急ぐことにする。
ときおり振動が建物を揺らすが、あいかわらず人の気配はしない。
途中の何個かの部屋を通り過ぎたが、やはりもぬけの殻だ。
といってもつい先程まで人がこの場所にいたであろう痕跡がそこかしこに残っていた。
あわてて逃げ出した……というところだろう。
何度か曲がった後で、廊下はいきどまりになる。
かわりに目の前に、防火扉のような物々しい大きな鉄製の扉が現れる。
俺らが現在いる区画を外部から隔離するためのようなものに見える。
まあ……活動が停止していたとはいえ、モンスターやら俺みたいな囚人を置いているのだから、当然の措置か。
普段は厳重にしまっているのだろうが、緊急事態だからなのか、それとも故障してしまったのか、いずれにせよその扉も開け放たれていた。
扉を通過すると、警備室のような部屋とエレベーターホールのような空間に出る。
普段はここで入退室を制限しているセキュリティエリアのような場所なのだろう。
警備室には誰もいない。
そして、エレベーターを見て、一応ボタンを押してみるが、やはり反応がない。
この様子では動いていないだろう。
「協会本部の地下にこんな場所があるとは知りませんでしたわ」
花蓮さんがあたりを見回しながら、言う。
「地下……やはりここは地下なんですか?」
「ええ。そのようですわね。ここに連れてこられた時にエレベーターで降りた気配がしましたわ」
ソウルエコーが示す戦闘地点は、ここからおおよす30メートル上だから、ここは地下10階くらいなのだろうか。
これほど地下深くにあえて施設を設けていたのは、やはり相当程度に件のモンスターについて危険性を感じていたのだろうか。
しかし、どうやって上に行くか。
そう思って近くを見ていると、非常灯が点滅している扉があるのに気づいた。
扉は開けると、上へとはしご状の階段が延々と続いている。
どうやら非常階段のようで、この階段を昇れば地上へと出られるようだ。
二人と目配せをして、俺が先頭になり、階段を登っていく。
ときおり、仄かに非常灯の赤い色が見えるだけで、中は薄暗い。
中ほどまで登ったところで、再び建物が大きく揺れ、銃撃音が鳴り響く。
やはり戦闘が行われているのは間違いないようだ。
「今のは銃声……やはり何が起きているようですわね」
「先程の部隊が交戦しているのでしょうか……ですが陸自の異能部隊が出るような相手となると……」
と、下から二人の声が聞こえる。
だが、俺は正直なところあまり二人の話しは頭に入ってこなかった。
先ほどから俺の脳裏にはずっと『彼女』の姿がある。
この空気……緊張感……闘いの気配……。
これらの要素がきっと俺の過去の記憶を引き出しているのだろう……。
銃撃音がだんだんと大きくなる中、俺らは階段を登りきって、地上へと到達する。
ソウルエコーが示す位置は、前方20~30メートルほどだ。
扉を開くと、そこは吹き抜けの大きなエントランスルームのような場所になっていた。
予想通り、先程の部隊——間宮氏率いる部隊——とモンスターが交戦している。
と、奇怪な音があたりに木霊する。
風を切り裂くうめき声のような特徴的な声……。
あれは……デスナイトか。
漆黒の鎧を身にまとった高さ5メートルほどの巨体。
そして、その巨体と同じくらいの大剣をかざしている。
やはりアンデッド系統のモンスターか。
しかし、こいつらはモンスターというよりは、意思なき傀儡にすぎない。
当然、術者がいるはずだが、近くにいる様子はない。
と右手には花蓮さんが俺の腕に手をかけて、しなだれかかり、甘い吐息をかけてきて、
「……ご主人様の体は温かいです……まるでその御心のようです」
と、左手には鈴羽さんが何かに取り憑かれたような顔をして、俺の胸に体をよせてくる。
鈴羽さんの挙動は置いておくとして、いやこれは……さすがに密着し過ぎ——。
と、俺が大きな心の動揺から探知魔法が途切れそうになった時、ソウルエコーが反応する。
その反応で俺はなんとか理性を取り戻す。
俺から上方数十メートル付近に複数の反応がある。
十数のおおよそ同じ大きさの個体——おそらく人だろう——が比較的近い距離にまとまっている。
そして、これらと明らかに大きさが違う個体が一つある。
これが間宮氏が言っていたモンスターだろうか。
しかし、この反応はモンスター……いや生命体というより、むしろアンデッドのそれに近いが……。
いずれにせよこのアンデッドを相手に戦闘中といったところか。
ここから先に進むとなると、間違いなく戦闘に巻き込まれる。
気を引き締めないと——。
「け、敬三様……あの……もっと近づいた方がよろしいですか?」
「ああ……これが……ご主人様の匂い……」
二人の吐息が俺の頬をそよぎ、呼吸のたびに、花蓮さんと鈴羽さんの柔らかい体の感触が俺の肌に伝わる。
せ、戦闘は近いんだ……し、集中しなければ……。
「お、お二人とも……す、少し離れて……か、かたまりすぎるとかえって危険です」
俺は最後の理性の力で、なんとか声を絞り出す。
すると、残念なことに……いや幸いなことに、二人ともぱっと俺の体なら離れる。
「も、申し訳ありません……そ、そうですわよね……ち、近すぎますわよね」
「ダメ……ですか」
……俺の理性は果たしてもつのか。
いや……それより、目の前のことに集中しなければ……。
二人と色々な意味で危険でない距離を保ちながら、俺は先へと急ぐことにする。
ときおり振動が建物を揺らすが、あいかわらず人の気配はしない。
途中の何個かの部屋を通り過ぎたが、やはりもぬけの殻だ。
といってもつい先程まで人がこの場所にいたであろう痕跡がそこかしこに残っていた。
あわてて逃げ出した……というところだろう。
何度か曲がった後で、廊下はいきどまりになる。
かわりに目の前に、防火扉のような物々しい大きな鉄製の扉が現れる。
俺らが現在いる区画を外部から隔離するためのようなものに見える。
まあ……活動が停止していたとはいえ、モンスターやら俺みたいな囚人を置いているのだから、当然の措置か。
普段は厳重にしまっているのだろうが、緊急事態だからなのか、それとも故障してしまったのか、いずれにせよその扉も開け放たれていた。
扉を通過すると、警備室のような部屋とエレベーターホールのような空間に出る。
普段はここで入退室を制限しているセキュリティエリアのような場所なのだろう。
警備室には誰もいない。
そして、エレベーターを見て、一応ボタンを押してみるが、やはり反応がない。
この様子では動いていないだろう。
「協会本部の地下にこんな場所があるとは知りませんでしたわ」
花蓮さんがあたりを見回しながら、言う。
「地下……やはりここは地下なんですか?」
「ええ。そのようですわね。ここに連れてこられた時にエレベーターで降りた気配がしましたわ」
ソウルエコーが示す戦闘地点は、ここからおおよす30メートル上だから、ここは地下10階くらいなのだろうか。
これほど地下深くにあえて施設を設けていたのは、やはり相当程度に件のモンスターについて危険性を感じていたのだろうか。
しかし、どうやって上に行くか。
そう思って近くを見ていると、非常灯が点滅している扉があるのに気づいた。
扉は開けると、上へとはしご状の階段が延々と続いている。
どうやら非常階段のようで、この階段を昇れば地上へと出られるようだ。
二人と目配せをして、俺が先頭になり、階段を登っていく。
ときおり、仄かに非常灯の赤い色が見えるだけで、中は薄暗い。
中ほどまで登ったところで、再び建物が大きく揺れ、銃撃音が鳴り響く。
やはり戦闘が行われているのは間違いないようだ。
「今のは銃声……やはり何が起きているようですわね」
「先程の部隊が交戦しているのでしょうか……ですが陸自の異能部隊が出るような相手となると……」
と、下から二人の声が聞こえる。
だが、俺は正直なところあまり二人の話しは頭に入ってこなかった。
先ほどから俺の脳裏にはずっと『彼女』の姿がある。
この空気……緊張感……闘いの気配……。
これらの要素がきっと俺の過去の記憶を引き出しているのだろう……。
銃撃音がだんだんと大きくなる中、俺らは階段を登りきって、地上へと到達する。
ソウルエコーが示す位置は、前方20~30メートルほどだ。
扉を開くと、そこは吹き抜けの大きなエントランスルームのような場所になっていた。
予想通り、先程の部隊——間宮氏率いる部隊——とモンスターが交戦している。
と、奇怪な音があたりに木霊する。
風を切り裂くうめき声のような特徴的な声……。
あれは……デスナイトか。
漆黒の鎧を身にまとった高さ5メートルほどの巨体。
そして、その巨体と同じくらいの大剣をかざしている。
やはりアンデッド系統のモンスターか。
しかし、こいつらはモンスターというよりは、意思なき傀儡にすぎない。
当然、術者がいるはずだが、近くにいる様子はない。
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