異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

陸上自衛隊特殊作戦群サイド-03-

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 綾音はダブルホルダーであり、2つ目の異能は特殊魔法に分類される。

 

 その能力名は『マインドチェーン(女王蜂のオーダー)』である。



 綾音は、特定の集団内の意思を統一させ、彼女の望む方向に誘導することができる。



 いわゆる精神操作魔法の一種であるが、その効果自体は非常に弱い。



 対象を完全に洗脳、魅了するわけではなく、ただ特定の方向に誘導するだけだ。



 しかも、対象者の意思に反するようなことはできないし、対象は事前に術者とある程度の信頼関係を築いている必要がある。



 それはある種、集団——群れ——の方向性を決めるようなものである。



 生態系には、スウォームという現象がある。



 大量の鳥達、魚達が一糸乱れずに、編隊をなして、飛び、泳ぐ……といった現象だ。



 たとえ一人が欠けてもその集団は編隊を乱さずに、ひたすらに行動を継続する。



 軍隊というものはとかく部隊内のつながりが強いことで知られる。



 お互いに生死を預けているのだから、それはある意味で当然なのかもしれない。



 綾音の能力はそれをさらに強めるものだ。



 いわば部隊の構成員全ての能力をバフし、一種のバーサク状態にする。



 綾音の意思は、小隊のメンバー全員に伝わり、言葉にしなくとも彼らは綾音の意思にそって行動する。



 意思疎通の乱れや摩擦がなく、綾音の部隊はまるでスォームのように動き、相手に襲いかかる。



 そして、綾音はリーダーであるが、リーダーではない。



 たとえ綾音が任務遂行中に何らかのアクシデントで離脱しようとも、一度部隊内に伝わった意思は残り、残された者は、その意思に従い行動を続ける。



 まさに組織として行動する軍にとってそれはうってつけの能力といえる。



 現に各国の軍は、AIを用いて、ドローンによるスウォーム部隊を開発しようとしのぎをけずっているが、未だ実現はしていない……。



 いずれにせよ綾音が指揮する部隊の能力は、訓練でも他を圧倒した。



 全員が一致団結し、まるで一つの生命体のように動くのだから、それはある意味で必然だった。



 そして、なかば綾音の能力に半信半疑であった上の連中も、実戦……モンスターとの闘い……においてもめざましい活躍を見せるにいたり、ついに彼女の力を認めるにいたる。



 なお、綾音の特殊魔法は、公式には記録されていないし、一部の上層部を除いて、自衛隊内でも公表されていない。



 そういう訳で、外部の隊員からすれば、単純に綾音の指揮が優れているだけだと思われている。



 綾音にしても、自身の第二の能力を馬鹿正直に説明しても、その内容からして誤解を招く可能性が非常に高いため、あえて口にしていない。



 そうでなくとも、ただでさえ綾音は既に陸自の中でも注目を浴びてしまっている。



 綾音自身はそもそも性分として目立つことは嫌いであるから、可能な限り、周囲には控えめな態度を取っている。



 それに、綾音はあらぬ噂を立てなれぬように、プライベートのときですら服装——女性性を排除したものしか着ない——にも人一倍気を使っている。



 むろん格好についても綾音の生来の性分からして、フェミニンな服装は嫌いだから、たいして苦ではないのだが……。



 が、そうした努力もむなしく、綾音の隠しきれないほどの美貌と秀でた能力の高さは周囲の目を否が応でもひいてしまう。



 それに加えて、綾音は異能者——第一の能力は公表されている——であり、対異能即応部隊の所属である。



 結果として、綾音は憧れ、怖れ、嫉妬……そういうあらゆる感情を向けられる存在になってしまった。



 綾音にとって幸いだったのは、そうしたものは全て外部のこととして切り離せたことだ……。



「それにしても毎回思うのですが、あえて口頭でブリーフィングをやる必要ありますかね? 隊長のオーダーがあれば全員に瞬時に伝わるのに」

 

 部下の一人が少しおどけた口調でそう言う。



 部隊のメンバーは、綾音の第二の能力について知っている。



 それでいて、彼らはまさに綾音にとって家族……いや家族以上といってよいほどの絆がある。



 死線をともに乗り越えてきたという経験と信頼、対異能部隊という異質性、そして綾音の能力——。



 これらは通常の部隊以上に絆を深めたのであった。



 ちなみに、綾音の能力を『女王蜂のオーダー』といっているのは部隊のメンバーたちだけである。



 これは彼らなりの綾音に対するウィットに富んだジョーク……のつもりなのである。



「面と向かって話すことによってしか伝わらないこともある。わたしの能力も完璧ではないのだから」



「……まあ、そういうもんですかね」

 

 部下はどこか納得しがたい顔を浮かべている。

 

 綾音も実のところ伝達という意味ではブリーフィングは不要だと思っている。

 

 が……しかし、やはりこういう「形式」も対外的には必要なのである。

 

 綾音たちの部隊はただでさえ「異端」な存在なのだから……。

 

「普通」のことをやっているというアピールも必要だろう。

 

 綾音は最低限のブリーフィングを終えた後、すぐに部隊は現場へ向かう準備を整える。



 実際のところ綾音の能力がある以上、任務内容を伝え、部隊の意思を統一する時間は極めて少なくすむ。



 それもまた即応部隊として綾音たちが重宝される理由でもある。



 綾音は、部下たちを先行させて、別行動を取る。



 都内にある協会の事務所に出向いて、麻耶と会う必要があったからだ。
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