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第一章
陸上自衛隊特殊作戦群サイド-02-
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なるほど異能を持つ冒険者は、個としての能力は我が隊員よりも優れているのかもしれない。
が……彼らは所詮素人——冒険者——である。
国を守るために、日々、人を制圧し、殺す技術を磨いている我々とはまるで覚悟が違う。
しかも、対象の精神支配下にあるS級冒険者もA級冒険者もいずれも女らしい。
それならばなおさら大した脅威ではないだろう。
「精神操作魔法の使い手の諜報員に……S級とA級の冒険者……しかも女か」
部下の一人が、たったいま間宮が心の中で思ったことと全く同じことをつぶやく。
それはつまり、間宮の能力が無意識の内に発動していることを意味している。
わたしもまだまだ能力の制御が未熟だな……。
わたしが部下に対して無意識に自身の思考に染めてしまっているのか。
間宮はこめかみに手を当てて意識を集中させる。
と……先ほどの部下の一人が、我に返ったように、はっと顔を上げて、
「あ……申し訳ありません。隊長の前で女性を侮る発言など——」
「ふ……いいさ。わたしもお前と同じことを思っていたのだからな」
間宮綾音(あやね)は女性である。
これは通常決して有り得ることではない。
いわゆるフィクション——小説、アニメ、漫画——の中では女性兵士の存在は特段珍しいことではない。
だが、現実の軍組織においてそれはありえない。
むろん女性に対しても徴兵制を導入している国——イスラエル、ノルウェー、スウェーデンなど——は少ないながらも存在する。
そして、日本においても自衛隊の実に1割近くが女性である。
だが、これら女性兵士たちのほとんどは後方支援の任務についている。
彼女たちが実戦に出ることは現代においてもほぼないといってよい。
そして、綾音が所属するのは陸上自衛隊の特殊作戦群であり、それはいわゆる「特殊部隊」と言われる存在であり、選りすぐりの最強の実働部隊である。
その特殊部隊の小隊長を「女性」が務めるなどということは日本に限らず世界のいずれの軍でも本来ならばありえないことなのだ。
ありえないことを可能にする力……人々はダンジョン出現以来その力のことを異能と呼ぶ。
そして、綾音が現在の職位にいる——ありえないことを可能にした——のはやはり彼女が持つ異能のおかげである。
綾音は自身の身体能力全般を恒常的に上昇させる戦闘系スキル——エンハンスボディ——を保有している。
それゆえ綾音は女性でありながら男性の特殊部隊の隊員以上の能力を有している。
だが、それだけ——エンハンスボディだけ——では綾音は今の地位につくことはできない。
冒険者ならば、綾音はひとつの異能だけで、十分に活躍していた——最低でもA級冒険者になれた——だろう。
冒険者はパーティを組むことはあっても、所詮「個」の能力が何よりも優先される。
それに、対して軍というのは「組織」である。
そこでは、「個」よりも「集団」が優先される。
つまり、綾音が異能により並外れた身体能力を有していても、綾音が「女」である以上、上層部があえて綾音を特殊部隊の隊員……ましてや隊長にするメリットは乏しい。
むろん他の部隊ならば、それで事足りる。
綾音はそもそも防衛大出身であるから、士官になるのはある意味で当然である。
「花」がある女性士官を加えるだけで、対外的な「広報」や「宣伝」としては役に立つだろう。
そう……実戦から離れた後方部隊ならばそれで十分である。
だが、特殊作戦群の部隊は実戦部隊だ。
そこで求められるのはただひとつ……敵を制圧、殺傷させることができる圧倒的な実力のみである。
そんな部隊に女性がいても何かメリットがあるのだろうか。
基本的に特殊部隊の隊員は全てが男性で構成されている。
そんな中に、仮に能力が優れていたとしても、女性が一人いたらどうなるのか。
当然、部隊内の規律は乱れるだろう。
むろん……特殊部隊の隊員はエリート中のエリートであり、他の隊員の模範となるべき人々である。
そんな彼らは本来であれば同僚が女性であろうとも、その実力が確かなら男性の時と同様に振る舞うべきである……。
それは理想論だ。
はたして女性を優秀な兵士——相手をためらうことなく殺傷できる者——として信頼することができるだろうか。
表面上はいくらでも取り繕うことはできる。
だが……真に追い詰められた時——そして実働部隊の現場は常にそうだ——自分の命を……背中を女性に預けられるだろうか。
わずかな不信が戦場では死を招く。
一瞬の逡巡が、生死に直結する状況下で、多様性やポリコレなどいう綺麗事は、百害あって一利なしだ。
そうしたことを唱えることができるのは、銃後にいるもの……安全が確約されているものに許される特権である。
その者が女性であるから、心の底にわずかに信用できない気持ちがあれば、それだけ隊全体としてはマイナスになる。
しかも、幸か不幸か綾音は女性として、非常に美しい容姿に恵まれてしまった。
いくら彼女が女性性を可能な限り、消そうと努めても、それは否が応なく、隊員たちに影響を与えてしまう。
だから当初は、綾音が、いくら個人として優秀な実績をおさめても、過酷な訓練を乗り越えても、彼女は部隊員になることはできなかった。
しかし、綾音は、最終的に女性であるがゆえに必然的に生じるこれらの非常に大きなハンディキャップを乗り越えることになる。
それは、彼女のたゆまぬ努力や頑張りのおかげ……などという綺麗事ごとではもちろんない。
彼女を小隊長にさせたのは、やはり異能……綾音の第二のスキルにある。
が……彼らは所詮素人——冒険者——である。
国を守るために、日々、人を制圧し、殺す技術を磨いている我々とはまるで覚悟が違う。
しかも、対象の精神支配下にあるS級冒険者もA級冒険者もいずれも女らしい。
それならばなおさら大した脅威ではないだろう。
「精神操作魔法の使い手の諜報員に……S級とA級の冒険者……しかも女か」
部下の一人が、たったいま間宮が心の中で思ったことと全く同じことをつぶやく。
それはつまり、間宮の能力が無意識の内に発動していることを意味している。
わたしもまだまだ能力の制御が未熟だな……。
わたしが部下に対して無意識に自身の思考に染めてしまっているのか。
間宮はこめかみに手を当てて意識を集中させる。
と……先ほどの部下の一人が、我に返ったように、はっと顔を上げて、
「あ……申し訳ありません。隊長の前で女性を侮る発言など——」
「ふ……いいさ。わたしもお前と同じことを思っていたのだからな」
間宮綾音(あやね)は女性である。
これは通常決して有り得ることではない。
いわゆるフィクション——小説、アニメ、漫画——の中では女性兵士の存在は特段珍しいことではない。
だが、現実の軍組織においてそれはありえない。
むろん女性に対しても徴兵制を導入している国——イスラエル、ノルウェー、スウェーデンなど——は少ないながらも存在する。
そして、日本においても自衛隊の実に1割近くが女性である。
だが、これら女性兵士たちのほとんどは後方支援の任務についている。
彼女たちが実戦に出ることは現代においてもほぼないといってよい。
そして、綾音が所属するのは陸上自衛隊の特殊作戦群であり、それはいわゆる「特殊部隊」と言われる存在であり、選りすぐりの最強の実働部隊である。
その特殊部隊の小隊長を「女性」が務めるなどということは日本に限らず世界のいずれの軍でも本来ならばありえないことなのだ。
ありえないことを可能にする力……人々はダンジョン出現以来その力のことを異能と呼ぶ。
そして、綾音が現在の職位にいる——ありえないことを可能にした——のはやはり彼女が持つ異能のおかげである。
綾音は自身の身体能力全般を恒常的に上昇させる戦闘系スキル——エンハンスボディ——を保有している。
それゆえ綾音は女性でありながら男性の特殊部隊の隊員以上の能力を有している。
だが、それだけ——エンハンスボディだけ——では綾音は今の地位につくことはできない。
冒険者ならば、綾音はひとつの異能だけで、十分に活躍していた——最低でもA級冒険者になれた——だろう。
冒険者はパーティを組むことはあっても、所詮「個」の能力が何よりも優先される。
それに、対して軍というのは「組織」である。
そこでは、「個」よりも「集団」が優先される。
つまり、綾音が異能により並外れた身体能力を有していても、綾音が「女」である以上、上層部があえて綾音を特殊部隊の隊員……ましてや隊長にするメリットは乏しい。
むろん他の部隊ならば、それで事足りる。
綾音はそもそも防衛大出身であるから、士官になるのはある意味で当然である。
「花」がある女性士官を加えるだけで、対外的な「広報」や「宣伝」としては役に立つだろう。
そう……実戦から離れた後方部隊ならばそれで十分である。
だが、特殊作戦群の部隊は実戦部隊だ。
そこで求められるのはただひとつ……敵を制圧、殺傷させることができる圧倒的な実力のみである。
そんな部隊に女性がいても何かメリットがあるのだろうか。
基本的に特殊部隊の隊員は全てが男性で構成されている。
そんな中に、仮に能力が優れていたとしても、女性が一人いたらどうなるのか。
当然、部隊内の規律は乱れるだろう。
むろん……特殊部隊の隊員はエリート中のエリートであり、他の隊員の模範となるべき人々である。
そんな彼らは本来であれば同僚が女性であろうとも、その実力が確かなら男性の時と同様に振る舞うべきである……。
それは理想論だ。
はたして女性を優秀な兵士——相手をためらうことなく殺傷できる者——として信頼することができるだろうか。
表面上はいくらでも取り繕うことはできる。
だが……真に追い詰められた時——そして実働部隊の現場は常にそうだ——自分の命を……背中を女性に預けられるだろうか。
わずかな不信が戦場では死を招く。
一瞬の逡巡が、生死に直結する状況下で、多様性やポリコレなどいう綺麗事は、百害あって一利なしだ。
そうしたことを唱えることができるのは、銃後にいるもの……安全が確約されているものに許される特権である。
その者が女性であるから、心の底にわずかに信用できない気持ちがあれば、それだけ隊全体としてはマイナスになる。
しかも、幸か不幸か綾音は女性として、非常に美しい容姿に恵まれてしまった。
いくら彼女が女性性を可能な限り、消そうと努めても、それは否が応なく、隊員たちに影響を与えてしまう。
だから当初は、綾音が、いくら個人として優秀な実績をおさめても、過酷な訓練を乗り越えても、彼女は部隊員になることはできなかった。
しかし、綾音は、最終的に女性であるがゆえに必然的に生じるこれらの非常に大きなハンディキャップを乗り越えることになる。
それは、彼女のたゆまぬ努力や頑張りのおかげ……などという綺麗事ごとではもちろんない。
彼女を小隊長にさせたのは、やはり異能……綾音の第二のスキルにある。
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