異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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第一章

オッサン、一瞬覚醒してしまう

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「術が解ければと思ったのだけれど——」



「麻耶さん……この償いは必ずさせますわよ!」



「麻耶様……この愚かな行いは二条院家の今後に禍根を残しますよ!」

 

 花蓮さんと鈴羽さんの声が聞こえる。

 

 声しか聞こえずに、二人の顔は見えないから、その心情を正確には推しはかることはできない。



 が……どうやら話しの内容からすると、この場で正面きって抵抗する様子ではない。

 

 それは俺も望むことである。

 

 二人には悪いが、今は無用な抵抗はしてほしくない。

 

 避けられる戦闘は可能な限り避けたい。



「ふう……残念ながら拘束する以外なさそうね……二人とも抵抗しないでよ」



「……わたくしを見くびらないでください。敬三様はわたくしたちのために……あえて拘束されたのですわ。それなのに、わたくしたちが抵抗するはずがありませんわ」



「……麻耶様、あなたは二重に間違っています。ご主人様への疑いも……何よりもその力の評価も」



「……二人ともなかなか面白い冗談を言うわね。陸自の対異能部隊相手にたった一人の冒険者……いや諜報員が太刀打ちできるとでも……」



「ええ……敬三様なら間違いなく」



「ご主人様をあまり甘くみないことです」

 

 いや……期待してくれるのは有り難いが、相手の戦力も未だ不明だし、あまりハードルを上げられても——。

 

 この連中が、魔王直属の親衛隊クラスだったら、さすがに一人では無理がある……。



 それに、今のような近接戦闘の上に混戦状態では、たとえ格下相手でも油断は禁物だ。



 不測の事態というのはどんな時でも起こりうるのだ。



 そして、戦場での不測の事態はすぐに生き死につながる。

 

 ならば……やはり俺がやるべきことは……。

 

 そう……守るためには、殲滅しなければ……。



 いや……違う。



 抑えろ……。



「はあ……やはり相当強い術にかけられているようね……」



「か、会長。ふ、二人は——」



「こうまで言っているのだから、拘束しないでもいいわ。そのまま連行しなさい。ただし、抵抗するなら——」

 

 と、突然麻耶さんの声色に戸惑いがにじむ。



「間宮(まみや)三尉……どうしたの? 顔が真っ青よ……いえあなただけじゃ……みな顔が——」 



「……き、気のせいでしょう。す、少しばかりここが寒いだけです……」



「そう? なら……いいのだけど……」



「……こ、この男は……ほ、本当にただの諜報員……」



「間宮三尉?」



「い、いえ……な、何でもありません」



「では……撤収よ。わたしは先に行っているわ」

 

 三人——麻耶さん、花蓮さん、鈴羽さん——と何人かの男たちが移動する気配がする。



 なんとか切り抜けたか……誰も傷つかずに、そして、俺は誰も傷つけずに——。

 

 俺はそう安堵のため息……は猿ぐつわがあるからつけないが、胸をなでおろす。

 

 が……その時、俺の脳裏にあの……馴染み深い『彼女』の顔が浮かぶ……。



『本当にそう思っているの? 連中は兵士で、あなたを……いや仲間を殺すつもりだったのよ。それなら……やることは一つでしょう。守るためには——殲滅しなければ——』

 

 また……か。



 彼らが兵士……だからなのか。

 

 いや……守るべき存在がいるからなのか。

 

 鈴羽さんの時は、抑えられたのに……。



 クソ……ここは戦場じゃないし、俺はもう英雄などではない……単なる冒険者なんだ。



 今は……消えてくれ。



 『また過ちを繰り返すの? 守るためには殲滅しなければ……魔族を……敵を……』



 抑えろ……。



「さ、三尉!?……こ、これは——先ほどの!? いや先ほど以上の!?」



「お、落ち着け!! だ、大丈夫だ! この男は完全に拘束下にある!」



「こ、こんなの——こいつは……こいつは!! い、いったい何なんですか!?」



「お、落ち着けと言っている!! あ、相手はたった一人の人間なのだぞ!」



「こ、こいつは……ば、化け物だ……だ、ダメだ!! い、いま……や、やらなきゃ……殺られる!」



「お、おい! 何をしている! ま、待て! 発砲許可は——」

 

 俺が自身の抑制に失敗したと自覚したと同時に、耳元に発砲音が轟いた。

 

 避けるのには造作もない速度であった。



 だが、ここで俺が動いたならば、もう後戻りはできない。

 

 戦闘状態……殺し合いになる……。

 

 過去の経験から、発動……いや発砲時の感覚から、その威力はそれほどではないという予測ができていた。



 それでも、25年間の戦士としての衝動は抗いがたく、俺を突き動かそうとする。



 抑えろ……抑えろ……。



 ついで、自身の体に衝撃が走る。



 寸前のところで、俺の理性は本能に打ち勝つことができた。



 そして、予想どおり『クロニクルガード』で小銃の威力はほぼ消すことができた。



 さらに言えば、その威力は予想よりもさらに低位なものであり、そのおかげなのか俺の頭も大分クールダウンすることができた。

 

 『彼女』の顔は脳裏から消え、殺気を出してしまったのは一瞬ですんだ。



「な、何をしている!? 無許可で発砲するなど!」



「……も、申し訳ありません! でも……こいつはいったい……」



「……い、言い訳はいい。それより対象は!? 殺してしまっては尋問もできないぞ!」



「……そ、それが……」

 

 部隊の一人が俺の体をあらためている。



 何やら動揺はしているが、彼らの殺気立った空気も発砲を境に……いや俺が殺気を抑えてから、急速に霧散していた。



「ど、どうした!? 早く報告しろ!」



「……は、はい! た、対象は何らの損傷も受けておりません!」



「な、何だと!? ば、馬鹿な!? 5.56mmとはいえこの距離だぞ!? 直撃を受けて無傷の訳が!?」



「し、しかし……現に——」

 

 俺は身じろぎひとつせず、じっとしていた。
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