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第一章
鈴羽サイド-13-
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再び一人となった鈴羽。
その心中にあるのは、花蓮に対する謝罪であった。
申し訳ありません……花蓮様、わたしは花蓮様に嘘の報告をいたしました。
花蓮を唯一の主としていた以前の鈴羽ならば、それはありえないことだった。
たとえ、二見が詳細を隠したとはいえ、以前の鈴羽なら間違いなく、「自分が二見を襲ったこと」を正直に花蓮に報告していただろう。
それは、ある意味で主従の信頼の問題である。
一つの嘘はやがて無数の疑念と猜疑へと変わる。
鈴羽は、二見を排除するために花蓮に嘘を吐いたが、それは一時的なものであり、二見の正体を暴いた後には、花蓮に正直に報告する予定であった。
だから、そう意味では今回のことは、鈴羽の花蓮に対するまごうことなき初めての「嘘」であった。
鈴羽は何故、花蓮に「自分が二見を襲ったこと」を隠し、嘘を吐いたままにしたのか……。
鈴羽自身、そのことは衝撃であったが、同時にその理由はすぐに否が応でも理解してしまっていた。
鈴羽は、今や二見のことを主と考えているのだ。
主である花蓮ですら主人と認める至高の方……それが二見なのだ。
だから、二見が花蓮に事実を話さなかった以上、下僕である鈴羽がそれに従うのは当然のことであり、花蓮に話さなくとも、それは花蓮に対する不忠にはあたらないはずだ。
現に花蓮の数々の行動や発言は、間違いなく二見を自分の主とみなしているものだし、先ほど花蓮自身もはっきりと言葉にして認めたではないか……。
花蓮様……わたしは、わたくしたちの主人である二見様のために今後は行動します……。
それは花蓮様の望みでもあるはずです……。
ですから……今回のことは二見様とわたしの二人だけの秘密にすることをお許しください。
鈴羽は、心の中でそうつぶやき、同時に「二人だけの秘密」ということに身震いするほどに歓喜する。
ああ……わたしとあの方だけの秘密……なんという甘美な響きでしょう。
再び鈴羽の目は惚けて、顔が緩みはじめる。
が……今度はすぐに鈴羽は現実に回帰する。
は……ダメだわ! 花蓮様のいえ……二見様のためにもしっかりとおもてなしの準備をしなければ……今度は絶対に失敗するわけにはいきません。
それにわたしの二見様への謝罪も……。
ああ……ですが……あの方は果たしてわたしの先ほどのあの愚か極まる無礼な振る舞いを許してくださるのでしょうか……。
いくら……二見様が慈愛に満ちた方でも……。
鈴羽は、自身の先ほどの行動を脳裏に思い浮かべて、心の底から後悔する。
もしも……あの方が許してくださらなかったら……わたしは……。
鈴羽は、二見に拒絶される様子を想像して絶望のあまり、体が震えてしまう。
それは、花蓮に拒絶されるよりも、今の鈴羽にとっては耐えられないことであった。
わたしの全てをかけて……あの方に謝罪をしなければ……。
たとえ、すぐに許してくださらなくても、生涯をかけてわたしは……あの方に仕えなければ……。
そう並ならぬ思いを込めて、鈴羽は、各所の手配をするのであった。
ところで、今回のホテルでの大騒ぎで恐らくもっとも迷惑を被ったであろう人間。
それはホテルの支配人である。
そう冒頭鈴羽たちを出迎えたあの人物である。
貧相な格好をした二見を見誤ったばかりに、西条グループのトップの花蓮から睨まれるは、はてはホテルの最上階で火災が発生と……踏んだり蹴ったりの目にあった彼である。
そんな散々な目にあった彼であったが、実はその後、彼の運命は大きく好転したのであった。
まず、異世界での経験で第三者への迷惑を重々知っている二見がはっきりと花蓮にホテルの素晴らしさを伝え、彼とホテルの名誉は回復された。
そして、「火災発生」という本来であれば著しくホテルの信用を失墜させてしまうような件についても、スキル保有者絡みの事案として内々に処理された。
これには当然、花蓮や鈴羽が各種行政機関に働きかけた影響も大きい。
さらには、西条グループの実質的ナンバー2の鈴羽からもホテルを賛美する口添えをもらうことになる。
というのも鈴羽は、自身に二見の素晴らしさを目覚めさせてくれた運命の場所として、勝手にこのホテルを自らの聖地として認定したからである……。
その結果として彼女からの有形無形の援助がホテルにはもたらされた。
元々由緒あるホテルであり、潜在能力は充分の中、西条グループからの手厚い援助を受ければ、業績は上向きになるのは必然である。
もっとも、ホテルの支配人も、自身の運命の好転の背後に重要人物「二見敬三」がいることを十分承知していた。
というのも、トップである花蓮や鈴羽に会うことは滅多にない彼であるが、折に触れて二見の噂はグループ内でささやかれることになるからである。
鈴羽と花蓮は二見のことを大々的にグループ内で喧伝することはなかったが、彼女たちが二見と接している際の様子を見れば、二見が彼女たちにとってどういう人物なのかは誰の目にも明らかであった。
そのため、西条グループの関係者の間では、二見はすっかり「影のトップ」扱いされ、二見に接する者はみな戦々恐々することになる。
ホテルの支配人は、他のグループの従業員と同様に二見を畏怖するが、同時に自分の名誉回復をしてくれた存在として彼は彼なりに二見に感謝の念を抱くようになる。
そのため、彼はどこからか得た情報で二見の好物が「牛丼」と知るや、「究極の牛丼」をメニューに加えるべく、ホテルのシェフにその研究、開発の指令を出したり、二度と失礼がないようにドレスコードの廃止をホテル内の反対を押し切って、導入したり……と、奮闘するのであった。
そんな彼の見えない奮闘劇を二見も花蓮も鈴羽も知るよしはないのだが……。
ちなみに、彼の努力のかいかどうかは不明だが、インペリアルホテルの西条グループ内の立ち位置は、徐々に向上していくことになる……。
その心中にあるのは、花蓮に対する謝罪であった。
申し訳ありません……花蓮様、わたしは花蓮様に嘘の報告をいたしました。
花蓮を唯一の主としていた以前の鈴羽ならば、それはありえないことだった。
たとえ、二見が詳細を隠したとはいえ、以前の鈴羽なら間違いなく、「自分が二見を襲ったこと」を正直に花蓮に報告していただろう。
それは、ある意味で主従の信頼の問題である。
一つの嘘はやがて無数の疑念と猜疑へと変わる。
鈴羽は、二見を排除するために花蓮に嘘を吐いたが、それは一時的なものであり、二見の正体を暴いた後には、花蓮に正直に報告する予定であった。
だから、そう意味では今回のことは、鈴羽の花蓮に対するまごうことなき初めての「嘘」であった。
鈴羽は何故、花蓮に「自分が二見を襲ったこと」を隠し、嘘を吐いたままにしたのか……。
鈴羽自身、そのことは衝撃であったが、同時にその理由はすぐに否が応でも理解してしまっていた。
鈴羽は、今や二見のことを主と考えているのだ。
主である花蓮ですら主人と認める至高の方……それが二見なのだ。
だから、二見が花蓮に事実を話さなかった以上、下僕である鈴羽がそれに従うのは当然のことであり、花蓮に話さなくとも、それは花蓮に対する不忠にはあたらないはずだ。
現に花蓮の数々の行動や発言は、間違いなく二見を自分の主とみなしているものだし、先ほど花蓮自身もはっきりと言葉にして認めたではないか……。
花蓮様……わたしは、わたくしたちの主人である二見様のために今後は行動します……。
それは花蓮様の望みでもあるはずです……。
ですから……今回のことは二見様とわたしの二人だけの秘密にすることをお許しください。
鈴羽は、心の中でそうつぶやき、同時に「二人だけの秘密」ということに身震いするほどに歓喜する。
ああ……わたしとあの方だけの秘密……なんという甘美な響きでしょう。
再び鈴羽の目は惚けて、顔が緩みはじめる。
が……今度はすぐに鈴羽は現実に回帰する。
は……ダメだわ! 花蓮様のいえ……二見様のためにもしっかりとおもてなしの準備をしなければ……今度は絶対に失敗するわけにはいきません。
それにわたしの二見様への謝罪も……。
ああ……ですが……あの方は果たしてわたしの先ほどのあの愚か極まる無礼な振る舞いを許してくださるのでしょうか……。
いくら……二見様が慈愛に満ちた方でも……。
鈴羽は、自身の先ほどの行動を脳裏に思い浮かべて、心の底から後悔する。
もしも……あの方が許してくださらなかったら……わたしは……。
鈴羽は、二見に拒絶される様子を想像して絶望のあまり、体が震えてしまう。
それは、花蓮に拒絶されるよりも、今の鈴羽にとっては耐えられないことであった。
わたしの全てをかけて……あの方に謝罪をしなければ……。
たとえ、すぐに許してくださらなくても、生涯をかけてわたしは……あの方に仕えなければ……。
そう並ならぬ思いを込めて、鈴羽は、各所の手配をするのであった。
ところで、今回のホテルでの大騒ぎで恐らくもっとも迷惑を被ったであろう人間。
それはホテルの支配人である。
そう冒頭鈴羽たちを出迎えたあの人物である。
貧相な格好をした二見を見誤ったばかりに、西条グループのトップの花蓮から睨まれるは、はてはホテルの最上階で火災が発生と……踏んだり蹴ったりの目にあった彼である。
そんな散々な目にあった彼であったが、実はその後、彼の運命は大きく好転したのであった。
まず、異世界での経験で第三者への迷惑を重々知っている二見がはっきりと花蓮にホテルの素晴らしさを伝え、彼とホテルの名誉は回復された。
そして、「火災発生」という本来であれば著しくホテルの信用を失墜させてしまうような件についても、スキル保有者絡みの事案として内々に処理された。
これには当然、花蓮や鈴羽が各種行政機関に働きかけた影響も大きい。
さらには、西条グループの実質的ナンバー2の鈴羽からもホテルを賛美する口添えをもらうことになる。
というのも鈴羽は、自身に二見の素晴らしさを目覚めさせてくれた運命の場所として、勝手にこのホテルを自らの聖地として認定したからである……。
その結果として彼女からの有形無形の援助がホテルにはもたらされた。
元々由緒あるホテルであり、潜在能力は充分の中、西条グループからの手厚い援助を受ければ、業績は上向きになるのは必然である。
もっとも、ホテルの支配人も、自身の運命の好転の背後に重要人物「二見敬三」がいることを十分承知していた。
というのも、トップである花蓮や鈴羽に会うことは滅多にない彼であるが、折に触れて二見の噂はグループ内でささやかれることになるからである。
鈴羽と花蓮は二見のことを大々的にグループ内で喧伝することはなかったが、彼女たちが二見と接している際の様子を見れば、二見が彼女たちにとってどういう人物なのかは誰の目にも明らかであった。
そのため、西条グループの関係者の間では、二見はすっかり「影のトップ」扱いされ、二見に接する者はみな戦々恐々することになる。
ホテルの支配人は、他のグループの従業員と同様に二見を畏怖するが、同時に自分の名誉回復をしてくれた存在として彼は彼なりに二見に感謝の念を抱くようになる。
そのため、彼はどこからか得た情報で二見の好物が「牛丼」と知るや、「究極の牛丼」をメニューに加えるべく、ホテルのシェフにその研究、開発の指令を出したり、二度と失礼がないようにドレスコードの廃止をホテル内の反対を押し切って、導入したり……と、奮闘するのであった。
そんな彼の見えない奮闘劇を二見も花蓮も鈴羽も知るよしはないのだが……。
ちなみに、彼の努力のかいかどうかは不明だが、インペリアルホテルの西条グループ内の立ち位置は、徐々に向上していくことになる……。
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