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第一章
鈴羽サイド-05-
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鈴羽は、この後、さらに一時間ほど花蓮の一方的な話しを聞いた後、ようやく花蓮の依頼——二見敬三の調査——に着手することになった。
意外なことに二見の正体も足取りも鈴羽が調べを開始して、すぐに判明した。
ダンジョンへ出入する際には必ずその者の本人確認と出入時刻が記録される。
ダンジョンという未知の場所では何が起こるかわからない。
今回の花蓮を襲ったような命の危険を伴う事態は常に起こり得る。
そういう事態が起きた時に、迅速に関係者——冒険者の家族など——に連絡を取り、救援部隊を組織する。
そのための仕組みとしてダンジョンへの出入管理は徹底されている。
鈴羽が、ダンジョン港にある出入管理記録を調べたところすぐに二見敬三の情報にたどり着くことができた。
むろん本来ならば個人情報であるこうした情報は特定目的を除いて外部には公表厳禁なものであるが、西条家の名代としての鈴羽の立場を利用すればその入手は容易であった。
二見の一通りの個人情報を入手した鈴羽は、次により深いレベルの情報を探る。
これは最初よりもやや骨の折れる作業であったが、情報収集を常としている鈴羽にとっては優しい部類の仕事であった。
西条家関連の企業は、警察、防衛、ダンジョン行政を司る省庁関係者の天下りを多数受け入れているし、情報関連企業も数多ある。
そのため、西条家には独自のデータベースが構築されていて、花蓮に接近する者は必ず鈴羽がこの情報を利用して『身体検査』を行う。
犯罪歴はもちろんその他の脛に傷を持つ人間は即座にそのデータベースにヒットし、弾かれてしまう。
データベース上は二見は問題なかった——「白」だった——が、鈴羽は二見のことを「黒」だと確信していた。
というのも二見の経歴には明らかに不審な点があったからだ。
25年間に渡って、国内での消息が一切不明なのだ。
職歴はおろか信用情報——クレジットカードの履歴——までまったく情報を残さないなど通常はありえない。
そして、数ヶ月前から突如として情報がポツリポツリと出てきて、同時期に冒険者としての活動もはじめている。
まるで二見はこの期間どこかに消えていたようではないか……。
さらには、今日の出来事——花蓮や美月といったS級冒険者を欺き、花蓮に対して洗脳に近い状態まで自身を妄信させる力を持ち合わせていること——を加味するとおのずから答えは明らかである。
二見は異能——スキル——を持つどこかの大国の諜報員に違いない。
それが鈴羽の出した結論であった。
二見はダンジョン由来の異能——スキル——を持っていることは確実であり、鈴羽の推測ではそれはある種の特殊魔法に分類されるものである。
ダンジョンが出現して以来様々なダンジョン由来の異能——スキル——が発見されたが、その中には花蓮が持つような不可思議な効果を持つ魔法もまた発見された。
魔法は攻撃系統、防護系統、回復系統の主に三分類されているが、中にはその分類に当てはまらないものもある……と言われている。
断定できないのは、各国政府は原則として、上記の三系統にあてはまらない魔法——特殊魔法——についてはその存在自体を一般的に非公開としているからだ。
鈴羽も特殊魔法の一つとされる『アイテムボックス』の使い手であるが、この存在もまた非公開とされている。
というのも、特殊魔法はその存在が知られると社会に甚大な影響を与えてしまうからだ。
例えば、「アイテムボックス」一つとってしても、それが既存の社会秩序を崩壊させうる力を持っていることは容易に想像がつく。
いつでもどんなものでも……例えば銃や爆発物であっても……異空間から取り出せるということは、その時点で既存のセキュリティ体勢を一変させてしまう。
このように特殊魔法は奇想天外な効果を持つものばかりであり、各国政府は自国の安全保障も考慮して、秘匿しているのである。
鈴羽はそこからさらに二見が持つであろう特殊魔法の具体的な効果を類推する。
二見はおそらく幻影を見せたり、人を魅了(チャーム)するといった人の精神に影響を与えることができる魔法を使えるのではないだろうか。
人の精神を操作する類の魔法の存在はダンジョン協会の公式発表では未だにその存在が認められていない。
だが、そういう類いの魔法が存在するではないかと以前よりまことしやかに各国の諜報機関の間では噂されている。
某大国は既にそうした魔法を有する諜報員を育成し、各国の要人と接触、工作活動に及んでいるのではないか……と。
そして、鈴羽は、日本国内においても、既にそうした魔法の使い手がいることを認識している。
二見はそうした某国のエージェントであり、日本政府に強い影響力を持つ西条家の当主である花蓮に接触して、何らかの幻影を見せ、チャームした……。
それならば全ての辻褄が合う。
少なくともあの動画の内容が全て真実とするより余程妥当な結論だ。
鈴羽は、そう確信して、今後の対応を考える。
本来であれば主である花蓮に鈴羽の考えを話すべきだが、魔法の影響下にあるのならそれは適切ではないかもしれない。
特殊魔法の効果は非常に恐ろしいものがあるからだ。
花蓮に二見の調査が完了したことを報告しに行った時に鈴羽はそのことを痛感した。
花蓮は、開口一番に「敬三様は独身なのですね!?」と目を輝かせて、「わたくしが本日の御礼もかねて、直接会いにいきますわ」と言い放つ始末だったのである。
花蓮のこうした様子を見るのは、鈴羽としては非常に胸が痛かった。
そもそも花蓮は男の話しなどしたことがないし、実際問題、鈴羽が知る限り花蓮はこれまで男と一度も付き合っていたことなどない。
花蓮は西条家の当主であり、さらには冒険者の活動も行っていて、多忙を極めているから、男とうつつを抜かす時間などそもそもないのだ。
だいたい……花蓮様にふさわしい男などいるはずがないではないか。
花蓮様はこれまでも……いえこれからもずっとわたしと共に——。
鈴羽は、熱に浮かされているような花蓮を見て、ますます二見敬三への怒りをつのらせて、排除を固く誓うのであった。
意外なことに二見の正体も足取りも鈴羽が調べを開始して、すぐに判明した。
ダンジョンへ出入する際には必ずその者の本人確認と出入時刻が記録される。
ダンジョンという未知の場所では何が起こるかわからない。
今回の花蓮を襲ったような命の危険を伴う事態は常に起こり得る。
そういう事態が起きた時に、迅速に関係者——冒険者の家族など——に連絡を取り、救援部隊を組織する。
そのための仕組みとしてダンジョンへの出入管理は徹底されている。
鈴羽が、ダンジョン港にある出入管理記録を調べたところすぐに二見敬三の情報にたどり着くことができた。
むろん本来ならば個人情報であるこうした情報は特定目的を除いて外部には公表厳禁なものであるが、西条家の名代としての鈴羽の立場を利用すればその入手は容易であった。
二見の一通りの個人情報を入手した鈴羽は、次により深いレベルの情報を探る。
これは最初よりもやや骨の折れる作業であったが、情報収集を常としている鈴羽にとっては優しい部類の仕事であった。
西条家関連の企業は、警察、防衛、ダンジョン行政を司る省庁関係者の天下りを多数受け入れているし、情報関連企業も数多ある。
そのため、西条家には独自のデータベースが構築されていて、花蓮に接近する者は必ず鈴羽がこの情報を利用して『身体検査』を行う。
犯罪歴はもちろんその他の脛に傷を持つ人間は即座にそのデータベースにヒットし、弾かれてしまう。
データベース上は二見は問題なかった——「白」だった——が、鈴羽は二見のことを「黒」だと確信していた。
というのも二見の経歴には明らかに不審な点があったからだ。
25年間に渡って、国内での消息が一切不明なのだ。
職歴はおろか信用情報——クレジットカードの履歴——までまったく情報を残さないなど通常はありえない。
そして、数ヶ月前から突如として情報がポツリポツリと出てきて、同時期に冒険者としての活動もはじめている。
まるで二見はこの期間どこかに消えていたようではないか……。
さらには、今日の出来事——花蓮や美月といったS級冒険者を欺き、花蓮に対して洗脳に近い状態まで自身を妄信させる力を持ち合わせていること——を加味するとおのずから答えは明らかである。
二見は異能——スキル——を持つどこかの大国の諜報員に違いない。
それが鈴羽の出した結論であった。
二見はダンジョン由来の異能——スキル——を持っていることは確実であり、鈴羽の推測ではそれはある種の特殊魔法に分類されるものである。
ダンジョンが出現して以来様々なダンジョン由来の異能——スキル——が発見されたが、その中には花蓮が持つような不可思議な効果を持つ魔法もまた発見された。
魔法は攻撃系統、防護系統、回復系統の主に三分類されているが、中にはその分類に当てはまらないものもある……と言われている。
断定できないのは、各国政府は原則として、上記の三系統にあてはまらない魔法——特殊魔法——についてはその存在自体を一般的に非公開としているからだ。
鈴羽も特殊魔法の一つとされる『アイテムボックス』の使い手であるが、この存在もまた非公開とされている。
というのも、特殊魔法はその存在が知られると社会に甚大な影響を与えてしまうからだ。
例えば、「アイテムボックス」一つとってしても、それが既存の社会秩序を崩壊させうる力を持っていることは容易に想像がつく。
いつでもどんなものでも……例えば銃や爆発物であっても……異空間から取り出せるということは、その時点で既存のセキュリティ体勢を一変させてしまう。
このように特殊魔法は奇想天外な効果を持つものばかりであり、各国政府は自国の安全保障も考慮して、秘匿しているのである。
鈴羽はそこからさらに二見が持つであろう特殊魔法の具体的な効果を類推する。
二見はおそらく幻影を見せたり、人を魅了(チャーム)するといった人の精神に影響を与えることができる魔法を使えるのではないだろうか。
人の精神を操作する類の魔法の存在はダンジョン協会の公式発表では未だにその存在が認められていない。
だが、そういう類いの魔法が存在するではないかと以前よりまことしやかに各国の諜報機関の間では噂されている。
某大国は既にそうした魔法を有する諜報員を育成し、各国の要人と接触、工作活動に及んでいるのではないか……と。
そして、鈴羽は、日本国内においても、既にそうした魔法の使い手がいることを認識している。
二見はそうした某国のエージェントであり、日本政府に強い影響力を持つ西条家の当主である花蓮に接触して、何らかの幻影を見せ、チャームした……。
それならば全ての辻褄が合う。
少なくともあの動画の内容が全て真実とするより余程妥当な結論だ。
鈴羽は、そう確信して、今後の対応を考える。
本来であれば主である花蓮に鈴羽の考えを話すべきだが、魔法の影響下にあるのならそれは適切ではないかもしれない。
特殊魔法の効果は非常に恐ろしいものがあるからだ。
花蓮に二見の調査が完了したことを報告しに行った時に鈴羽はそのことを痛感した。
花蓮は、開口一番に「敬三様は独身なのですね!?」と目を輝かせて、「わたくしが本日の御礼もかねて、直接会いにいきますわ」と言い放つ始末だったのである。
花蓮のこうした様子を見るのは、鈴羽としては非常に胸が痛かった。
そもそも花蓮は男の話しなどしたことがないし、実際問題、鈴羽が知る限り花蓮はこれまで男と一度も付き合っていたことなどない。
花蓮は西条家の当主であり、さらには冒険者の活動も行っていて、多忙を極めているから、男とうつつを抜かす時間などそもそもないのだ。
だいたい……花蓮様にふさわしい男などいるはずがないではないか。
花蓮様はこれまでも……いえこれからもずっとわたしと共に——。
鈴羽は、熱に浮かされているような花蓮を見て、ますます二見敬三への怒りをつのらせて、排除を固く誓うのであった。
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