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第一章
-06- オッサン、美女と決闘する
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もしかしたら、花蓮さんも大分お腹が空いていて、料理が来るのを心待ちにしているのかもしれない。
「その……敬三様。それならまたこういう機会をわたくしと——」
と、その時扉が開いて鈴羽さんが入ってくる。
料理が運ばれてきたのかと思い、目を向けるが、そういう類いのものはない。
鈴羽さんが神妙な面持ちで、花蓮さんの元へ近づき、
「花蓮様。お話中、申し訳ありません。至急花蓮様とお話したいというお電話が入っております」
「あとにしてください。今は敬三様との大切な話しがあるのです」
「申し訳ありません。ですが、ダンジョン協会の方からで、どうしても至急で話したいと……。おそらく昨日の件かと……」
俺は、その様子を見て、
「あの自分は全然大丈夫ですので、そちらを優先してください」
と言う。
「……本当に申し訳ありませんわ。わたくしがお誘いしたのにもかかわらず、すぐにすませますので。それまでは鈴羽がお相手いたします。鈴羽。頼みましたわよ。くれぐれも敬三様に失礼のないように」
「……承知しました。それと花蓮様、どうやらこの階は電波が悪いようですので、お手数ですが、お電話は別フロアでして頂いた方がよろしいかと。階下に係の者を手配しておりますので」
「わかりましたわ」
そう言って、花蓮さんは慌ただしく部屋を出ていく。
俺は、鈴羽さんと二人で、このだだっ広い部屋にポツリと残されることになる。
はっきり言ってかなり気まずい空気感が漂っている。
鈴羽さんは、窓側の隅の方に立ったまま無言で扉の方を見ている。
何か声をかけるべきなのだろうが、どうにも話題が見当たらない。
と、鈴羽さんが沈黙を破ってポツリと言う。
「花蓮様は素直なお方です。……そう素直すぎるくらいです。ですが……花蓮様のお立場を利用しようと、そうした性格につけいる輩も多くおります。ですから花蓮様に近づいてくる人間を調査し、問題ないかを判断するのもわたしの仕事の一つです」
鈴羽さんはいつのまにかどこかから取り出したタブレットを操作しながら、
「二見敬三さん。失礼ですが、あなたのことを調べさせて頂きました。1976年生まれ、首都圏出身、都内の公立高校卒業、その後、都内の中小企業に就職……。特段不審な点はないようですが……」
と、淡々と話しをする。
「ですが……25年前からの足取りはまるでつかめない。西条家のデータベースを利用すれば、海外ならまだしも国内にいる人間ならば必ず何らかの足取りはわかるはずなのですが……」
鈴羽さんが俺の方をじっと見つめる。
先程よりさらにその視線は鋭さと冷たさを増しているように感じられた。
「昨日の動画はわたしも拝見させて頂きました。世間ではあの動画は本物と言うことになっているようですが……」
鈴羽さんはそう言うと、手に持っていたタブレットが突然消える。
あれはアイテムボックスか!?
「ダンジョン関連の能力には世間に公表されていないものも数多くあります……。そうした能力を駆使すれば、人々を騙すことは容易いことです。花蓮様はヒーラーとしても冒険者としても大変優秀なお方ですが……あまりにも良い方すぎるのです。だから、人の悪意より善意を無意識に信じてしまわれる……」
鈴羽さんは、今度はアイテムボックスから、ナックルのようなものを取り出し、拳にはめる。
「わたしも実は花蓮様と同じ冒険者です。以前はご一緒にパーティーも組まさせて頂いておりました。ただ諸事情があり、遺憾ながら今は冒険者活動を休止していますが、現役当時はA級冒険者として登録しておりました……」
そして、ゆっくりと俺を見据える。
その視線はもう冷たいなんてものではなく、完全にある種の敵意がこめられていた。
「さて……率直に申し上げます。花蓮様に近づいた目的は何なのですか?」
「い、いや……じ、自分はただ——」
「まあ話したくないのならそれでも結構です。何であれ私は花蓮様を害する者をただ排除するのみ……」
どうやら鈴羽さんは俺のことを花蓮さんに近づく詐欺師か何かと思っているらしい。
まあ……この風体のオッサンで職業も自称配信者では無理からぬことだが……。
さて……どうしたものか……。
鈴羽さんの態度を見る限り、言葉で説明しても無駄な気がする。
実際、鈴羽さんはどう見てもやる気満々といった感じである。
となれば……ここは冒険者らしく腕で信用してもらうしかないか……。
異世界でもこういうことは散々あった。
あちらの世界では俺は完全なるアウトサイダーだったし、異世界ではこの世界と違い身分を証するものなどおおよそ存在しない。
初めて行く街や国で、人と会った時、俺が信用を勝ち得るためには、ただ偽りなき自分の力を示す……しかないのである。
「えっと……鈴羽さんが言いたいことはよくわかりました。それなら……今ここで立ち会いをするというのはいかがでしょうか? 立ち会ってもらえば俺が単なる一冒険者で、何か裏があったり邪な気持ちを持っていないとわかってもらえると思いますが……」
鈴羽さんは一瞬ポカーンとした顔を浮かべた後、出会ってからはじめてその無表情な顔を変えて、微笑する。
「その……敬三様。それならまたこういう機会をわたくしと——」
と、その時扉が開いて鈴羽さんが入ってくる。
料理が運ばれてきたのかと思い、目を向けるが、そういう類いのものはない。
鈴羽さんが神妙な面持ちで、花蓮さんの元へ近づき、
「花蓮様。お話中、申し訳ありません。至急花蓮様とお話したいというお電話が入っております」
「あとにしてください。今は敬三様との大切な話しがあるのです」
「申し訳ありません。ですが、ダンジョン協会の方からで、どうしても至急で話したいと……。おそらく昨日の件かと……」
俺は、その様子を見て、
「あの自分は全然大丈夫ですので、そちらを優先してください」
と言う。
「……本当に申し訳ありませんわ。わたくしがお誘いしたのにもかかわらず、すぐにすませますので。それまでは鈴羽がお相手いたします。鈴羽。頼みましたわよ。くれぐれも敬三様に失礼のないように」
「……承知しました。それと花蓮様、どうやらこの階は電波が悪いようですので、お手数ですが、お電話は別フロアでして頂いた方がよろしいかと。階下に係の者を手配しておりますので」
「わかりましたわ」
そう言って、花蓮さんは慌ただしく部屋を出ていく。
俺は、鈴羽さんと二人で、このだだっ広い部屋にポツリと残されることになる。
はっきり言ってかなり気まずい空気感が漂っている。
鈴羽さんは、窓側の隅の方に立ったまま無言で扉の方を見ている。
何か声をかけるべきなのだろうが、どうにも話題が見当たらない。
と、鈴羽さんが沈黙を破ってポツリと言う。
「花蓮様は素直なお方です。……そう素直すぎるくらいです。ですが……花蓮様のお立場を利用しようと、そうした性格につけいる輩も多くおります。ですから花蓮様に近づいてくる人間を調査し、問題ないかを判断するのもわたしの仕事の一つです」
鈴羽さんはいつのまにかどこかから取り出したタブレットを操作しながら、
「二見敬三さん。失礼ですが、あなたのことを調べさせて頂きました。1976年生まれ、首都圏出身、都内の公立高校卒業、その後、都内の中小企業に就職……。特段不審な点はないようですが……」
と、淡々と話しをする。
「ですが……25年前からの足取りはまるでつかめない。西条家のデータベースを利用すれば、海外ならまだしも国内にいる人間ならば必ず何らかの足取りはわかるはずなのですが……」
鈴羽さんが俺の方をじっと見つめる。
先程よりさらにその視線は鋭さと冷たさを増しているように感じられた。
「昨日の動画はわたしも拝見させて頂きました。世間ではあの動画は本物と言うことになっているようですが……」
鈴羽さんはそう言うと、手に持っていたタブレットが突然消える。
あれはアイテムボックスか!?
「ダンジョン関連の能力には世間に公表されていないものも数多くあります……。そうした能力を駆使すれば、人々を騙すことは容易いことです。花蓮様はヒーラーとしても冒険者としても大変優秀なお方ですが……あまりにも良い方すぎるのです。だから、人の悪意より善意を無意識に信じてしまわれる……」
鈴羽さんは、今度はアイテムボックスから、ナックルのようなものを取り出し、拳にはめる。
「わたしも実は花蓮様と同じ冒険者です。以前はご一緒にパーティーも組まさせて頂いておりました。ただ諸事情があり、遺憾ながら今は冒険者活動を休止していますが、現役当時はA級冒険者として登録しておりました……」
そして、ゆっくりと俺を見据える。
その視線はもう冷たいなんてものではなく、完全にある種の敵意がこめられていた。
「さて……率直に申し上げます。花蓮様に近づいた目的は何なのですか?」
「い、いや……じ、自分はただ——」
「まあ話したくないのならそれでも結構です。何であれ私は花蓮様を害する者をただ排除するのみ……」
どうやら鈴羽さんは俺のことを花蓮さんに近づく詐欺師か何かと思っているらしい。
まあ……この風体のオッサンで職業も自称配信者では無理からぬことだが……。
さて……どうしたものか……。
鈴羽さんの態度を見る限り、言葉で説明しても無駄な気がする。
実際、鈴羽さんはどう見てもやる気満々といった感じである。
となれば……ここは冒険者らしく腕で信用してもらうしかないか……。
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「えっと……鈴羽さんが言いたいことはよくわかりました。それなら……今ここで立ち会いをするというのはいかがでしょうか? 立ち会ってもらえば俺が単なる一冒険者で、何か裏があったり邪な気持ちを持っていないとわかってもらえると思いますが……」
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