異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi

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美月サイド-02-

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 そればかりか男はそのまま美月を横切って、モンスターの方に向かっていく。



「な!? 死ぬ気ですか!? このモンスターはわたしたちでも——」

 

 美月はそこで言葉が途切れてしまった。

 というのも先ほどまで堂々と立ちはだかっていたあの巨大なモンスターがいなくなっていたのだ。

 

 いや……よく見ると離れたところにいる。

 

 何故か背を向けて、その巨体をドシンドシンと震わせて、必死に走っていた。

 まるで、その姿は何かから無我夢中で逃げているように見える……。



「やっぱり逃げる相手を追いかけ回すのは性に合わないけど……仕方がないよな。勘弁してくれよ」

 

 と、例の男はまた訳の分からないことを言いながら、頭をポリポリとかいている。

 そして、1拍の後に、男の姿は美月の視界から消えた……。



「え!? いったいどこに!?」

 

 美月が視界を動かして必死にその姿を探ると、なんと男はあの巨大モンスターの前に立っていた。

 

 美月は自分の目が信じられなかった。

 美月は自分の動体視力にはかなりの自信がある。

 

 というのも、彼女にはダンジョン冒険者に発現した異能——それはスキルと呼ばれている——持ちだからだ。

 

 ダンジョン冒険者でもスキルを持っている者は稀であり、特に戦闘向きのスキルを持っている者は世界でも少数である。

 

 美月のスキル『疾風の加速』は戦闘——スピードに——に長けている。

 美月が『流麗の剣姫』と呼ばれるゆえんである。

 

 その美月から見ても、男の動きはありえないほどの速さであった。

 まるで……そう魔法のように……。

 

 ダンジョン出現以来、魔法の存在は極少数確認されているが、美月が知る限り移動魔法の存在は一部のマジックアイテムを除いて確認されていないはずだ。

 

 美月の脳裏に湧き上がる数多の疑問……。

 

 しかし、美月はそれらの疑念をすぐに強引に頭の隅へと追いやり、眼前の出来事に集中する。

 なにせ男がやっていることは自殺行為にも等しいことなのだから。



「何をしているんですか! 逃げてください!」

 

 美月は残された力を振り絞り、あらぬ限りの声を張り上げる。

 この行為は再び自身をモンスターのターゲットにしてしまいかねない危険な行為であったが、それでも美月は叫ばずにはいられなかった。

 

 これ以上、人が自分の眼の前で犠牲になるのを見るのは嫌だった。

 たとえそのために自分の命が散ろうとも……。

 

 美月は倒れている花蓮を一瞬だけ横目にとらえて前を向く。 

 モンスターは完全に男を敵として認識してしまったようだが、先ほどと打って変わってその動きを止めて、ピクリともしない。

 

 その代わりようはいささか不自然に美月には思えたが、今は些末なことだ。

 このままでは確実にあの初心者の男性はモンスターに屠られてしまう。

 

 美月は痛む身体を引きずりながら、男とモンスターのところへと急ぐ。 

 男は未だに自分が置かれている現状を理解していないのか、ただモンスターの前に突っ立ている。

 

 モンスターの方もどうしたことか先ほどから硬直したかのように微動だにしない。



「悪いなあ……何度も。安心しろよ。前と同じで命までは奪わない。ただ……ちょっと痛いと思う。……トロールにも痛覚はあるよな? だから怯えているんだろうし……」

 

 男はブツブツと独り言を口にしている。

 やっぱり恐怖で正気を失っているのね……。

 美月は足を引きずりながらも、男の元へと急ぐ。



「さてと……それじゃあ……まあやるか……」

 

 男はそう言うと突如として剣を抜いた。

 逃げるのではなく、闘うというその行動自体、正気を疑うのに十分な行為であったが、美月は剣を見て唖然としてしまった。



 男がかまえている剣……いやそれは剣ですらない。

 木刀だ。

 

 この男は木刀で、この巨大なモンスターに切り込もうとしているのだ。



「ば、馬鹿なことはやめてください!」

 

 美月はそう叫ぶが、あいかわらず男はこちらの言うことを無視している。



「さすがに……これなら最低限の痛みですむと思うけどなあ……」

 

 男は手にしている木刀を見ながらそんなことを言っている。

 完全に自分の世界に入り込んでしまっているようで、もう何を言っているのかすら美月にはわからない。



「……この木刀とこの剣技ならまあ大丈夫だろう」 

 

 男はそう言うと、木刀を自身の頭上近くにかざす。 



「えっ……そんな……まさか剣技を使えるの!?」

 

 美月は驚きのあまりに思わず言葉を漏らしていた。

 剣技……それは戦闘向きのスキルを持つ者の中でもさらに限られた者しか得ることができない異能だ。



「雷鳴の狂戦士」こと加賀美龍太が、美月のパーティーにいたのもそれが理由である。

 龍太の人格や性格が破綻しているのは、以前から美月も知っていた。

 しかし、龍太は剣技を使うことができる。



 このレアなスキルを持っている龍太は冒険者……とりわけ戦闘の前衛に立つ戦士としては優れていることは認めざるを得なかった。



 冒険者としてさらなる高みへと挑むために、美月は龍太をパーティーに引き入れた。



 その結果としてこの有様になってしまった訳だが……それでも龍太の戦士としての技量だけに限れば今回までは文句はなかった。

 ただ、この眼前のモンスターが異常なだけなのだ。 

 

 ダンジョン初心者のF級冒険者がスキル……しかも剣技を操れるなんて聞いたことがない。

 だが、この男が剣技を仮に使えたとしても結果は変わらない。

 龍太が放った剣技ですらこのモンスターにはダメージひとつ与えられなかったのだ。

 しかも、龍太は現存の最高峰の物質で出来た剣を装備していた。

 男が持っているのは木刀だ。

 結果は火を見るよりも明らかだ。

「だ、ダメです! あのモンスターに剣技は——」

 美月はそう叫ぶが、もう遅かった。
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