20 / 27
第20話 過去への憧れと新たな仕事
しおりを挟む
追求されればされるほど、ボロが出てしまうが、一度話をはじめた以上、どこまでも作り話を続けるしかない。
「故郷は……ここよりはるか東方の海を隔てたさらに先にあります。そこでは古の帝国の失われた秘術や技術を継承していまして——」
自分で話しておきながら、バカバカしくなってしまう。
それほど、荒唐無稽な話だ。
だが、意外にもこれが功を成した。
アニサは、俯きながら、「帝国の? それなら……いえ……でもこんな医術が」とブツブツと言っている。
やはり、この地方の住民の古代帝国への畏敬の念は相当なものがあるようだ。
いや……そもそもこの街の住民は何故か過去の時代を過度に理想化する傾向がある。
いわく昔の世界は、今よりはるかに技術が進んでいて、人々の生活は豊かだったと思っている。
その象徴がはるか昔に滅んだ古代帝国らしいのだ。
そして、帝国が滅び、長い黄昏の時代が到来した……そう思っているようなのだ。
もっとも、現代世界を知っている影人からすればその古代帝国の技術にしても大したものだとは到底思えないのだが……。
アニサは、しばらくして何かを決心したように、こちらの方に向き直る。
「いいわ。とりあえずだけど……その話しを信じることにするわ。あなたが何者であろうとも、あの傷から回復したのは事実なのだから」
「ありがとうございます。あとこのことは……内密にしてもらえると……」
「ええ……黙っておいてあげるわ。どうせこんな話を真面目に上に報告したところで、せいぜい魔術だの何だの言われて、醜聞に利用されるのが関の山だしね。実際に目にしたわたしだって、今でも信じられないのだから。それに……あなたには命を助けてもらったという借りがあるわけだしね」
そうだ。
そもそも、あの襲撃はいったい何だったんだ。
そのせいで、命を落としかけて、感謝されるどころか、助けたその本人から詰問されて、こんな冷や汗をかく羽目になっているのだ。
「こっちの話ばかりで、肝心なことを忘れていましたけど、あの襲ってきた奴らは何だったんです?」
あの二人は、明らかにアニサを狙っていた。
完全にこちらは巻き添えをくらった形だ。
襲われた理由くらい話してもらってもいいだろう。
「おおかた教条主義者たちに雇われた奴らでしょうね。今、この街の教会内部は、今度の司教の選出を巡ってゴタゴタしているから。でも、まさかあんな白昼堂々襲ってくるとは思わなかったけれど。まあ……それだけあいつらも追い詰められているのかもね」
詳しくはわからないが、ようは……教会内部の権力闘争に巻き込まれたというわけか……。
まあ……これだけ大きな組織なら、様々な派閥があって当然だろう。
脅迫状を送ってきた奴らも、もしかしたら、アニサが言う教条主義者たちなのかもしれない。
「それで……と言ってはなんだけれど、一つ仕事を頼まれてくれるかしら? 単純な仕事よ。この内部のゴタゴタがおさまるまで、私の護衛をしてくれないかしら?」
まさか、仕事を依頼されるとは思わなかった。さっきまでは、散々こちらを問い詰めてきたのに、今度は一転して、自分を守ってくれとは随分と都合の良い話しだ。
そんな感情が顔にも現れたのだろう。
アニサは、こちらが乗り気ではないと察したのか、機嫌を取るように、上目遣いで、声のトーンも大分甘えた口調で、話してくる。
「ねえ……もちろん……十分満足する報酬を出すわ。それに、四六時中、一緒にいてくれという訳ではないのよ。修道院にいる時は、さすがに奴らも手が出せないでしょうし。移動する時に、付いていてくれればそれでいいわ」
こうして今更ながら、マジマジとアニサの顔を見ると、やけに美人に見える。
生還できたという興奮が刺激となり、そう思わせているのだろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい……。
影人は、額に手を添えて、脱線した思考を、元に戻して、今考えるべき事柄に集中させる。
この仕事を受けるべきか……。
「故郷は……ここよりはるか東方の海を隔てたさらに先にあります。そこでは古の帝国の失われた秘術や技術を継承していまして——」
自分で話しておきながら、バカバカしくなってしまう。
それほど、荒唐無稽な話だ。
だが、意外にもこれが功を成した。
アニサは、俯きながら、「帝国の? それなら……いえ……でもこんな医術が」とブツブツと言っている。
やはり、この地方の住民の古代帝国への畏敬の念は相当なものがあるようだ。
いや……そもそもこの街の住民は何故か過去の時代を過度に理想化する傾向がある。
いわく昔の世界は、今よりはるかに技術が進んでいて、人々の生活は豊かだったと思っている。
その象徴がはるか昔に滅んだ古代帝国らしいのだ。
そして、帝国が滅び、長い黄昏の時代が到来した……そう思っているようなのだ。
もっとも、現代世界を知っている影人からすればその古代帝国の技術にしても大したものだとは到底思えないのだが……。
アニサは、しばらくして何かを決心したように、こちらの方に向き直る。
「いいわ。とりあえずだけど……その話しを信じることにするわ。あなたが何者であろうとも、あの傷から回復したのは事実なのだから」
「ありがとうございます。あとこのことは……内密にしてもらえると……」
「ええ……黙っておいてあげるわ。どうせこんな話を真面目に上に報告したところで、せいぜい魔術だの何だの言われて、醜聞に利用されるのが関の山だしね。実際に目にしたわたしだって、今でも信じられないのだから。それに……あなたには命を助けてもらったという借りがあるわけだしね」
そうだ。
そもそも、あの襲撃はいったい何だったんだ。
そのせいで、命を落としかけて、感謝されるどころか、助けたその本人から詰問されて、こんな冷や汗をかく羽目になっているのだ。
「こっちの話ばかりで、肝心なことを忘れていましたけど、あの襲ってきた奴らは何だったんです?」
あの二人は、明らかにアニサを狙っていた。
完全にこちらは巻き添えをくらった形だ。
襲われた理由くらい話してもらってもいいだろう。
「おおかた教条主義者たちに雇われた奴らでしょうね。今、この街の教会内部は、今度の司教の選出を巡ってゴタゴタしているから。でも、まさかあんな白昼堂々襲ってくるとは思わなかったけれど。まあ……それだけあいつらも追い詰められているのかもね」
詳しくはわからないが、ようは……教会内部の権力闘争に巻き込まれたというわけか……。
まあ……これだけ大きな組織なら、様々な派閥があって当然だろう。
脅迫状を送ってきた奴らも、もしかしたら、アニサが言う教条主義者たちなのかもしれない。
「それで……と言ってはなんだけれど、一つ仕事を頼まれてくれるかしら? 単純な仕事よ。この内部のゴタゴタがおさまるまで、私の護衛をしてくれないかしら?」
まさか、仕事を依頼されるとは思わなかった。さっきまでは、散々こちらを問い詰めてきたのに、今度は一転して、自分を守ってくれとは随分と都合の良い話しだ。
そんな感情が顔にも現れたのだろう。
アニサは、こちらが乗り気ではないと察したのか、機嫌を取るように、上目遣いで、声のトーンも大分甘えた口調で、話してくる。
「ねえ……もちろん……十分満足する報酬を出すわ。それに、四六時中、一緒にいてくれという訳ではないのよ。修道院にいる時は、さすがに奴らも手が出せないでしょうし。移動する時に、付いていてくれればそれでいいわ」
こうして今更ながら、マジマジとアニサの顔を見ると、やけに美人に見える。
生還できたという興奮が刺激となり、そう思わせているのだろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい……。
影人は、額に手を添えて、脱線した思考を、元に戻して、今考えるべき事柄に集中させる。
この仕事を受けるべきか……。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説


『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

滅亡後の世界で目覚めた魔女、過去へ跳ぶ
kuma3
SF
滅びた世界の未来を変えるため、少女は過去へ跳ぶ。
かつて魔法が存在した世界。しかし、科学技術の発展と共に魔法は衰退し、やがて人類は自らの過ちで滅びを迎えた──。
眠りから目覚めたセレスティア・アークライトは、かつての世界に戻り、未来を変える旅に出る。
彼女を導くのは、お茶目な妖精・クロノ。
魔法を封じた科学至上主義者、そして隠された陰謀。
セレスティアは、この世界の運命を変えられるのか──。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
江戸時代改装計画
華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
年下の地球人に脅されています
KUMANOMORI(くまのもり)
SF
鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。
盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。
ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。
セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。
さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・
シュール系宇宙人ノベル。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる