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第一章

第九話

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「うそ……じゃないですよ。私、ちゃんと悟に付き合ってて言って……それで、受け入れてもらいましたし」



 美羽は困惑しながらも答える



 姉さんと由梨が美羽を睨みつけながらじりじりと詰め寄ろうとするので、俺はそれを阻止した



「なぁ、姉さん、由梨……二人とも、一旦落ち着いてくれ……そんな態度じゃ話し合おうにも話し合えない……」



 俺がそう言うと二人は渋々、と言った様子で引き下がってくれた




 美羽は俺の言葉を聞いて、申し訳なさそうな表情で俺のことを見つめてきた



「ごめんね……なんか私のせいで変なことになっちゃって」




「別にいいよ、それで……疑ってるわけではないんだけど、俺と美羽が本当に付き合っていたって……何か証明できる物とかって、ある?」



「証明できる物……証明できる物ね、うん。あるよ……ほらっ、これ」



 そう言って美羽は鞄の中からプリクラを取り出して俺に見せた。そこには俺と美羽の仲睦まじい姿が収められていて、俺と美羽がキスをしているものまであった




「このプリクラ……証拠としては十分だな」



「他にもまだまだ証拠になるような物があるけど、見る?」



 美羽が嬉しそうにしながら鞄の中からさらに何か出そうとしたとき、勢い余って同時に一冊のノートが鞄から出てきた




 そのノートを拾い上げると、表紙にはこう書かれていた



『私と悟のエッチ性活妄想ノート』



 題名を見た俺はたまらずノートを開き中を確認する……するとそこには俺と美羽の馴れ初めから始まり、俺と美羽がいつどこでデートしてどんなふうにイチャついたのかまで、全て細かく書かれてあった




「これは……」



 ……いや、でもおかしいな。この内容が正しいのなら、俺は既に貞操を失っているはずだ……だが、退院の時の検査で俺は童貞だった……だからまず、俺と美羽が性行為をしていたという話自体が成立しない




「……それに妄想ノートって事は実際に付き合っていたわけでは、ないんだよな?」



「あ、あ……そのノートは……でっ、でも、私と悟は、う、運命の赤い糸で……固く結ばれてるからっ、……実際は、全部、現実になること、だよ」




「はぁ……これではっきりしたね、弟くん……別に彼女の妄想に付き合う必要はないからね?あくまで妄想なんだから」



「そうだよお兄ちゃん、そんなありもしない妄想を受け入れちゃダメだから!」



 二人がそう言って俺の腕に抱き着いてくると、美羽は悲しそうな表情を浮かべながら俺を見つめる




「俺と美羽は付き合っていなかったんだな」



「……っ、」




「俺は何回も見舞いに来てくれた事とかも含めて、美羽には本当に感謝してる……だから、付き合っていたと虚言をつかれていたとしても、別に怒ったりはしない」



「お、怒っても、殴ってもいい、けど……嫌いにならない?」



「嫌いになんてならないから、美羽の口からも本当のことを聞かせてくれ」




「……うん……分かった……たしかに、私、本当は悟と付き合ってなかったよ……」



「じゃあ、どうして俺と付き合っていたなんて虚言を吐いたんだ?」



「それは……えっと……悟に、私の事、好きになって欲しかったから……記憶をなくす前まで付き合ってたって言ったら、私のことを意識してくれるようになるかな……って、思って」



 なるほど……確かに、恋人同士だったと聞いた俺は間違いなく美羽のことを異性として、より意識するようになっていた




「だからってすぐバレるうそつくなんて、お兄ちゃんのことになると勢いで暴走しちゃう所は変わらないよね」



「本当、そういうところはまるで変わってないね」



 由梨と姉さんは美羽を呆れたような目で見ながらそう言った



「ごっ、ごめんなさ」



「謝らなくてもいいよ、弟くんが許したんなら、私もこれ以上は何も言うつもりはないから」



「由梨はそれよりもお腹すいたー、冷めちゃったし早く食べよ?」



「だな、美羽は朝はもう食べてきたのか?」



「うん、パンを一枚食べてきたよ」



「それだけだとお腹が空くだろうから、美羽も一緒に食べよう」



「い、いいの?……ありがとう」




 俺たちは四人で朝食を食べ始めた





 ◆◆◆



 記憶を失ってからあまり外を歩いてなかったな、とか考えながら俺は美羽と一緒に学校に向かっている




「あ、これまだ渡してなかったね。はい、新しいスマホ……今使ってるのはパスワード忘れて開けないって言ってたでしょ?」



「え、いや流石に、受け取れないよ」



「いいからいいから」



 美羽は俺の手にスマホを掴ませた




「……助かるけど、本当に貰ってもいいの?」



「いいって、お詫びだと思って遠慮せず受け取ってよ」




「ありがとう」



 俺が礼を言うと、美羽が決心したような真剣な顔をした




「わたし決めた!」



「……何?」



「もう、ズルいことしたりして君の気を引いたりしない!これからは正々堂々、君を私だけに夢中にさせて、絶対に君と添い遂げる!!」




 そう言った美羽には、確かな宣誓の清らかさがあった


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