落ちこぼれオメガとエリートアルファの魔王討伐

ヤミイ

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第203話

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「そのことについては、私に考えがある」

 刺すようなまなざしを僕に向け、皇女が答えた。

「さっきの一幕でよくわかった。この子を逝かせるのは、一筋縄ではいきそうにない。どのみち、きょうはブライト、おまえもこのオメガも疲れただろう。食事の後はふたりともゆっくり休んで、明日に備えるがいい」

 僕はほっとした。

 皇女はきつい性格ではあるけれど、ジンのように狂気に憑りつかれているわけではなさそうだ。

 話し方も理性的だし、エメラルドグリーンの切れ長の瞳には高い知性の色が見て取れる。

「僕はオメガになんて興味ないけどね。でも、アリスちゃんが見たがってるから、明日の”実験”には立ち会わせてもらうよ」

 食事もそこそこに早々に人形を抱いて立ち上がると、部屋を出しなに小太りの男、アギトが言った。

「それにしても、ジュリアもいいのかな? そんなケダモノを大事なブライトに預けちゃってさ」

 くふふふふ。

 気味悪く嗤いながら出ていった。

 明日の実験?

 僕はびくっとした。

 僕の精液採取のことだろうか。

 でも、実験だなんて、いやな言い方だ。

 それに、ケダモノって、僕のこと?

「オメガ、おまえはブライトの部屋で寝ろ」

 食事を終えると、ナプキンで口の周りを拭きながら、皇女が言った。

 アギトの言葉が気に障ったのだろうか。

 心なしか顔色が悪い。

「あ、はい・・・ありがとう、ございます」

 意表を衝かれた僕が、ひと呼吸遅れてうなずくと、

「いいのか、姉貴?」

 意外な言葉を聞いた、というように、ブライトが皇女を見た。

 その目には、なぜかかすかな怯えの色と探るような表情が浮かんでいる。

「今晩だけ、許す」

 少し間を置いて、皇女が答えた。

 どうしてか、前歯で下唇を噛んでいるようだ。

「これも魔王討伐のためだ。仕方がない。私が一晩、我慢すればいいだけのことだからな」
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