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第87話

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 漆黒の翼が羽ばたくように、女の背中から放射状に何かが伸び上がった。

「うわっ!」

 その正体に気づき、僕は悲鳴を上げた。

 それは”触手”だった。

 数は八本。

 根元は丸太のように太く、先に行くにつれ、槍のように細く尖っている。

 触手の内側は、二列並んだ吸盤にびっしり埋め尽くされている。

 女の背中から生えた八本の”腕”は、一見すると蛸の触手に似ている。

 が、決定的に違うのは、その表側が細かい鱗にびっしりと覆われていることだ。

 だから、海棲生物のような脆弱さはなく、むしろ八匹の大蛇を背中から生やしているように見える。

 腹側におびただしい数の吸盤を二列に並べた大蛇である。

 女が妖艶な美女であるだけに、それは実に異様極まりない眺めであるといえた。

「ふっ、正体を現したな。この化け物め」

 レイピアを逆手に持ち、不敵に笑うブライト。

 よほど己の技量に自信があるのか、アラクネと名乗った魔族の女の変貌ぶりにも、眉ひとつ動かさない。

「このアラクネ様を化け物扱いするつもりか。小癪な」

 ぐわんっ!

 不気味に空気が鳴って、ブライトめがけ、アラクネの八本の腕が宙を飛ぶ。

 ダッ!

 地を蹴るブライト。

 襲い来る触手をかわしながら、本体に差し迫る。

「くっ」

 女が間一髪飛びのいて、ブライトの剣戟をぎりぎりのところで受け流す。

「ブライト、気をつけて!」

 拳を握りしめ、僕は叫んだ。

 放物線を描いて戻ってきた触手たちが、空振りしてたたらを踏んだブライトに、逆さ落としに襲いかかったからである。

 
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