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第11話

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 その夜、ブライトは僕の女主人、マサラおばさんの家に泊まることになった。

 アルファが村にやってきたのは十数年ぶりとかで、おかみさんの家の前はうわさを聞き付けた村人たちで、すぐに黒山の人だかりと化した。

 皆の疑問は共通していた。

 王国の第三皇子が、そもそも何の用でこんな辺鄙な地に?

 というわけである。

「まあ、いずれ訊いてみようと思ってたから、ちょうどいい」

 村人たちを前に、ブライトは説明した。

「ここのところ、南方のアストリア共和国へ向かうアルファの旅団が、このあたりで立て続けに消息を絶っている。
しかも、これは私も実際に目にしたことだが、この地方には明らかに魔狼や魔猿などの魔獣が増えているようだ。それを、ちょいと調べてみようと思ってね」

 現在のミネルヴァには、ブライトを含め、三人の皇子と皇女がいる。

 いちばん上が、今年28歳のアルファ女性、ジュリア皇女。

 二番目が、25歳になったばかりの、アギト皇子。

 そして三番目が、若干20歳のブライトというわけだが、ブライトに言わせると、

「姉貴と兄貴はふたりとも、今はオメガとの巣作りに忙しいらしくてね、とても執政どころではなさそうなんだ。だから、いちばんひまな私が調査に乗り出したと、まあ、そういうわけ」

 とのこと。

 数年前に王妃を亡くし、今や半ば寝たきりのミネルヴァ王の後継ぎたちがこれでは、先が思いやられるー。

 兄弟の事情に触れた時、ブライトは、そう言いたげに口の端を歪めたものだ。

 僕を逝かせ、僕の精液をたらふく飲んだブライトは、最初会った時とは別人のように生き生きとしていた。

 僕自身、ブライトの精液をおなかいっぱい飲まされたせいか、躰に力がみなぎっているのがわかった。

 やはり僕らは”番”なのかー。

 だから、互いの精液が、相手の傷を癒したり、疲れた躰に力を与えたりするのだろうかー。

「この件については、明日にでも、おまえたちベータひとりひとりに、話を聞かせてもらおうと思う。だが、きょうはもう遅い。みんな、いったん家へ帰って、休んでくれないか。私も、やっと見つけたこの”つがい”と一緒に、今晩はこの家で休ませてもらうことにするよ」

 全裸の僕を後ろから抱き、ブライトが言った。

 村人にとって、オメガは家畜みたいなものだから、僕が裸でも、誰も何も言いはしない。

 そしてー。

 あれほど僕を忌み嫌っていたマサラおばさんが、人格が変わったように恐縮して、この皇族のアルファをもてなしたことは、もう、いうまでもない。

 
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