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92 耐え難き誘惑②

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 最初は夢の続きかと思った。

 あるいは、ついに幻覚を見るくらいまでに、脳が請われてしまったのか、と。

 気がつくと、あのヨミが、部屋の中に立っていたのだ。

「ひどい有様だねえ」

 周囲を見回し、ヨミが言った。

「まるでゴミ屋敷じゃないか。それに、この匂い。これって、ひょっとして、精液の匂いじゃないの?」

 ドアが開いていて、その隙間から外の光が差し込んでいる。

 その光に照らされて逆光になったヨミは、細身の躰に天使のように燐光を纏っている。

「ど、どうして・・・?」

 僕は顔を上げた。

 その時になって初めて、自分が母親のレースパンティ一枚だけ身につけた姿で、俯せに寝ていたことに気づいた。

 下半身がヌルヌルしていて、気持ち悪い。

 どうやら最後は床オナニーをしていたようだ。

 床にスケスケのレースパンティに包まれた生殖器を擦りつけいるうちに、絶頂を迎えて失神したのだろう。

「全然連絡がないから、父さんが様子を見てこいって。それにしても不用心だね。ドアの鍵、かかってなかったぜ」

「そ、それは・・・」

 思い出した。

 ゆうべのことである。

 発狂しそうなほど倒錯した性衝動に見舞われた僕は、誰かに裸体を見せつけたくて、廊下に跳び出したのだ。

 そうして、廊下の手すりから勃起ペニスを突き出して、狂った猿のようにオナニーを・・・。

 その時、内鍵を締め忘れたのだろう。

 なんせ、数えきれないほどの射精で、頭が朦朧としていたからー。

「で、でも、オートロックは?」

 かろうじて、訊き返す。

 このマンション、暗証番号を入口のパネルに打ち込まないと、ロビーにすら、入れないのに・・・。

「ちょうど、旅行帰りの老夫婦と居合わせてね、タクシーから荷物を運ぶ手伝いをする代わりに、一緒に中に入れてもらったのさ」

 ヨミは人当たりが良く、その美しい外観も相まって、人に信用されやすいのだ。
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