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89 虚ろな虜囚⑲

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 箪笥の引き出しを開けた。

 下着は一番下の段。

 それは知っている。

 母は40を過ぎても酷く妖艶な女だった。

 その色香で幾多の男たちを落としては、金をむしり取ってきた。

 最後に腹上死したのも、冠動脈狭窄による急性心筋梗塞が原因だった。

 美食の限りを尽くしてきた母の血管は、致死量の悪玉コレステロールで半ば詰まりかけていたのだろう。

 思った通り、引き出しの中はいやらしい下着でいっぱいだった。

 色とりどりといえば聞こえはいいが、半分以上がスケスケのレース地だ。

 しかも面積が極端に狭いものばかり。

 Tバックはもちろんのこと、ほとんど紐でできているだけというものまであった。

 その中から僕が選んだのは、全体を包み込む透け生地のボディスーツだった。

 今回は、母の下着を肴に自慰に耽るためではなく、自分で着用するためなのだ。

 身に着けた時の気持ち良さが最も重要なのである。

 破らないように細心の注意を払いながら、窮屈なそのセクシー下着に躰を押し込んだ。

 予想通りの着心地に、思わずため息が出た。

 レオタード以上に、気持ちがいい。

 柔らかく、そしてどことなく頼りない、この極薄生地のフィット感。

 どぎまぎしながら、鏡の前に立つ。

 目の前に、息を飲むほどはしたない僕がいた。

 ボディスーツは黒い生地でできている。

 そのレース地の乳首の部分と股間の中央部に、雪の結晶を象った刺繍があり、それで陰部を隠す仕様である。

 が、そんなちっぽけなもので、僕の勃起乳首と勃起男根を覆い隠せるはずもなかった。

 皺の一本一本まで克明に透けて見える自身の裸体に、僕は一気に欲情した。

 あのバスの中の出来事が脳裏にフラッシュバックすると同時に、生々しい感触が全身によみがえる。

 今度は、この恰好でバスに乗ったら、どうだろうー。

 想像しただけで、レース地の下で自然に亀頭が剥けてきた。
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