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73 虚ろな虜囚③

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 希京の言う通りだった。

 見る間でもなく、感触と匂いで分かる。

 握った右手の隙間から、糊のような液体がにじみ出ていた。

 生温かい、べとべとする体液だ。

 自分でも、閉口するほどの量だった。

 ーいったい、何度出せば気が済むのだー

 その言葉が、耳に痛い。

 しかも、漏らしたばかりだというのに、勃起はいっこうに収まろうとしない。

 握った右手からはみ出た陰茎を、希京は意地の悪い目で見つめている。

「俺がどうして明子とおまえを捨てたか、教えてやろうか」

 股間を押さえて震える全裸の僕をじろじろ眺めながら、希京が言った。

「それは、あいつがとんでもない淫乱女だとわかったからだ。おまえが生まれてすぐだった。あいつは、アパートの隣の部屋に住んでいた大学生の男を部屋に連れ込んで、こともあろうに真昼間から、真っ裸で上に乗っかり腰を動かしていた。赤ん坊のおまえが寝ているすぐ傍でな。それでも俺は3年我慢した。まだおまえは幼かったし、明子のことを愛していたからだ。だが、あいつは何度でも同じ過ちを繰り返した。別れさせてもすぐに、とっかえひっかえ男に手を出して、アパートで、ラブホテルで、相手の家で、情事を繰り返した。今思えば、あれは病気だったのかもしれない。そして15年前のことだ。ついにあいつは、当時俺が勤めていた会社の上司にまで手を伸ばし、不倫関係に陥った。関係は相手の妻にばれ、裁判にもなった。俺があいつに心底愛想を尽かしたのはその時だよ。示談金を全額肩代わりしてやる代わりに離婚を承諾させた。まあ、おかげで、その後、あいつをモデルにして書いた官能小説で新人賞をとれたのだから、満更悪い経験でもなかったかもしれんがな。とにかく、おまえの母親が身をもって教えてくれたのは、女の性は底なし沼みたいに恐ろしいものだということだ。正直、あれ以来、俺は女という生き物が怖くなった」
 
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