バナナの皮を剥くように ~薔薇色の少年~ 

ヤミイ

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24 実父、比良坂希京②

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 上がり框を上がると、左右に伸びる廊下があり、正面が洋間になっていた。
 居間だろうか。
 和式の屋敷にそこだけ洋式という変わったつくりらしい。
 半ば開いた戸口から板の間に敷かれたカーペットとソファの一部が見える。
「じゃあ、あたしはこれで」
 洋間の入口まで来ると、身を引くようにして、野球帽を目深にかぶったアヤカが言った。
「え? もう帰っちゃうのかい?」
 目を丸くするヨミに、
「夕食の支度はしてあるし、夜はあなたがいるからあたしは用なしでしょ?」
 そっけない口調で答えて、背を向ける。
「そうかい。じゃ、また明日の朝頼むよ」
「りょうかい」
 去っていくアヤカの形のいいお尻の筋肉のうねりに見惚れていると、
「いよいよご対面だね」
 僕の肩を抱くようにして、ヨミが耳にささやきかけてきた。
「あ、ああ・・・」
 緊張で固まっていると、
「入れ」
 中から木枯らしのように干からびた声がした。
「失礼しまあす」
 おどけた調子でヨミが返し、僕の背中を押して入口をくぐった。
 次の瞬間、僕は危うく喉を詰まらせそうになった。
 対面のソファに、異様な人物が身をうずめていたのである。
 和服に包まれたでっぷりと太った躰に、ひしゃげた頭部が乗っている。
 顏は蟇蛙にそっくりで、ぎょろりとした目と大きな口を覆う分厚い唇が気色悪い。
 そして何よりも不気味なのは、顔じゅうに疣ができていて、その吹き出物の一つ一つから毛が生えていることだ。
 正直言って、おそろしく醜い外観だった。
 うなじの産毛がぞわりと逆立つのがわかった。
 生理的嫌悪感とでもいうのだろうか。
 それは、ゴキブリやドブネズミに出くわした時の感覚に似ていた。
「ほら、和夫、お父さんだよ」
 ヨミが冗談とも本気ともつかぬ口調で言い、立ち尽くす僕を残して怪人物の隣にちょこんと腰を下ろした。
 この人が、比良坂希京・・・。
 僕の、実の父なのか?
「おまえが明子の子か」
 怪人物が、ぶしつけなまなざしで僕をねめつけながら、言った。
「ならば、ここで裸になってみろ」
 
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