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19 背徳工場①
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ドアの向こうは、殺風景な通路だった。
塵一つないリノリウムの床が続く先は行きどまりで、そこに鋼鉄の扉がはまっているのが見えた。
「本来の出入り口は中央パークのほうですから、ここは通用口にあたります」
扉の前に立つと、鰐部氏は言った。
「人間の精液で飲み物を作ってるなんて、狂ってる…。そんなエグイこと、許されるはずがない」
目の前に立ちふさがる無機質な鉄扉を見上げて、僕はつぶやいた。
鰐部氏の話は、にわかには信じられないレベルの内容で、それが耳の奥にこびりついて離れなかった。
けれど、そんな僕の批判にも、鰐部氏は表情筋ひとつ動かさない。
「そうでしょうか。今の世の中、ネットで精子提供のやりとりがなされる時代です。それと大して変わらない、というのが我々の認識なのですが」
さらりとそんなことを言って澄ました顔をしている始末だ。
「しかし、あれは、不妊治療の人たちの需要があるからこそ…」
「ネクタルの需要はその更に上を行きます。愛飲されている消費者の方々からは、感謝の言葉が毎日のように届いていますよ」
「それは中身を知らないからですよね。いくらなんでも、自分の飲んでいるものの正体が…」
「まあ、とにかく中へ入ってみませんか」
鰐部氏が壁に埋め込まれたパネルのキーを操作すると、ガチャリと鍵の外れる音がして、鉄扉が開き始めた。
とたんにスライドする扉の隙間からもわっと生臭い温気が噴き出してきて、僕は顔をしかめた。
この匂い…。
すぐにピンときた。
栗の花の匂いにそっくりなこれは、明らかにアレの臭気に違いない。
自慰の時に嗅ぐ、精液の匂いである。
そして更に僕を驚かせたのは、中から聴こえてくるかすかなうめき声だった。
ーアアアン…ー
ーソ、ソコ…ー
ーキ、キモチ、イイ…ー
「なんなんです? これは?」
「いいから中に」
背中を押されて薄暗い空間にまろび出た。
後ろで鰐部氏が扉を閉める気配がする。
「え…?」
体勢を立て直して顔を上げた僕は、そこで小さく声をあげていた。
目の前に広がるのは、照明を落としただだっ広い空間である。
天井の高い工場のような建物内部は衝立で無数の区画に仕切られ、その中央を一直線に通路が伸びている。
通路の左右にあるそれぞれの個室は通路側に仕切りがないため、中が丸見えだ。
各ブースの中では、肌色の何かが蠢いていて、あえぎ声はそこから聴こえてくる。
「な、何やってるんだ?」
一番近いブースの中を覗き込むなり、僕は愕然となった。
中に居るのは、僕と同じくらいの年頃の若い男だった。
青年は全裸にむかれたうえに、両手首と両足首を結束バンドで縛られ、ブースの真ん中に宙吊りになっている。
そして、その傍らに、プロレスラー顔負けの覆面をした巨漢が立っていた。
巨漢のグローブのような手は、青年の陰部に当てられ、何やら激しく動いている。
大の字に磔になった青年は、その手の動きに合わせて、絶え間なく喘いでいるのだった。
「どうです? そそられるでしょう?」
ガウンを持ち上げる僕の股間のイチモツを逆手で軽く握ると、鰐部氏がひそひそ話をするようにそう言った。
塵一つないリノリウムの床が続く先は行きどまりで、そこに鋼鉄の扉がはまっているのが見えた。
「本来の出入り口は中央パークのほうですから、ここは通用口にあたります」
扉の前に立つと、鰐部氏は言った。
「人間の精液で飲み物を作ってるなんて、狂ってる…。そんなエグイこと、許されるはずがない」
目の前に立ちふさがる無機質な鉄扉を見上げて、僕はつぶやいた。
鰐部氏の話は、にわかには信じられないレベルの内容で、それが耳の奥にこびりついて離れなかった。
けれど、そんな僕の批判にも、鰐部氏は表情筋ひとつ動かさない。
「そうでしょうか。今の世の中、ネットで精子提供のやりとりがなされる時代です。それと大して変わらない、というのが我々の認識なのですが」
さらりとそんなことを言って澄ました顔をしている始末だ。
「しかし、あれは、不妊治療の人たちの需要があるからこそ…」
「ネクタルの需要はその更に上を行きます。愛飲されている消費者の方々からは、感謝の言葉が毎日のように届いていますよ」
「それは中身を知らないからですよね。いくらなんでも、自分の飲んでいるものの正体が…」
「まあ、とにかく中へ入ってみませんか」
鰐部氏が壁に埋め込まれたパネルのキーを操作すると、ガチャリと鍵の外れる音がして、鉄扉が開き始めた。
とたんにスライドする扉の隙間からもわっと生臭い温気が噴き出してきて、僕は顔をしかめた。
この匂い…。
すぐにピンときた。
栗の花の匂いにそっくりなこれは、明らかにアレの臭気に違いない。
自慰の時に嗅ぐ、精液の匂いである。
そして更に僕を驚かせたのは、中から聴こえてくるかすかなうめき声だった。
ーアアアン…ー
ーソ、ソコ…ー
ーキ、キモチ、イイ…ー
「なんなんです? これは?」
「いいから中に」
背中を押されて薄暗い空間にまろび出た。
後ろで鰐部氏が扉を閉める気配がする。
「え…?」
体勢を立て直して顔を上げた僕は、そこで小さく声をあげていた。
目の前に広がるのは、照明を落としただだっ広い空間である。
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通路の左右にあるそれぞれの個室は通路側に仕切りがないため、中が丸見えだ。
各ブースの中では、肌色の何かが蠢いていて、あえぎ声はそこから聴こえてくる。
「な、何やってるんだ?」
一番近いブースの中を覗き込むなり、僕は愕然となった。
中に居るのは、僕と同じくらいの年頃の若い男だった。
青年は全裸にむかれたうえに、両手首と両足首を結束バンドで縛られ、ブースの真ん中に宙吊りになっている。
そして、その傍らに、プロレスラー顔負けの覆面をした巨漢が立っていた。
巨漢のグローブのような手は、青年の陰部に当てられ、何やら激しく動いている。
大の字に磔になった青年は、その手の動きに合わせて、絶え間なく喘いでいるのだった。
「どうです? そそられるでしょう?」
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