淫美な虜囚

ヤミイ

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3 悪魔の交渉①

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 天野翔は、ひと言で表現するなら、鼻持ちならない美男子、といった感じの青年だった。

 言葉遣いは丁寧だが、態度や声にどこか人を見下すようなニュアンスが見え隠れするのだ。

 ただその顔立ちは天使かと見紛うほどに美しく、初対面の僕らをひどく落ち着かない気分にさせたものだった。

 上級国民。

 まさにそんな印象の美青年。

 それが、天野翔だったのである。

 その日の午後、僕らの家族と弁護士、そして翔と付き添いの弁護士の7人は、うちの居間でテーブルをはさんで向かい合っていた。

「こちら、天野泰三氏の孫にあたる天野翔さんです」

 あちら側の弁護士の紹介に、翔は慇懃に頭を下げた。

「はじめまして。天野翔と申します。城南大学の3回生で、21歳になったばかりです。などというと、この大切な場になぜおまえのような若造が、と思われるかもしれませんが、ご心配には及びません。今回の件に関しては、この僕が父から全権を委任されていますので」

 よほど人前でしゃべり慣れているのか、翔の口調にはまったくよどみがなかった。

「翔さんの父親、すなわち泰三氏のご長男にあたる泰輔氏はただいま海外出張中で、帰国は半年後になるとか。そのようなわけで、お孫さんである翔さんに代理をお願いしたわけであります」

「まあ、固い話は抜きにして、さっそく示談交渉に入りましょう」

 弁護士を遮って、翔が切り出した。

「祖父の現在の容態ですが、脳挫傷とクモ膜下出血のため、ICUで意識不明の状態にあります。自転車自体の衝突によるダメージは、腰の打撲程度で済んだのですが、なにぶん転んだ時の打ちどころが悪く、しばらくは予断の許さない状況が続くと思われます。そこで、治療費、入院費、会長である祖父の休業中の収入などを合わせまして、示談金はおよそ1億2000万。もしこれで祖父が亡くなった場合には、2億は下らないかと…。確かそうでしたね? 猪股さん」

 翔から猪股と呼ばれた弁護士が、ファイルの書類に目を落としながら、大きくうなずいた。

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