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八話『バカにするな』
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「私が何をしたっていうの? どれだけ尽くしてきたと思ってるの! いつも笑顔でニコニコして気を使ってた私がバカみたいじゃない」
彼の腕をつかみ、爪でバリかく。私の爪に皮がくい込み真っ赤な液体が指先を伝う。頭に血が登り、気持ちが収まらない。
「いた、痛い! やめろよ! もうお前とは終わりなんだから触んな」
強い力で手を剥がされ、胸を突き飛ばされた。背中からドンっとアスファルトに倒れて痛いけど、もうどうでもいい。体を起こして、彼の方をキッと睨んだけど、惨めすぎて目が潤んでくる。
「バ、バカにっ、しないで!」
「今までごくろーさん。アパートにある俺の私物は捨てといていいからな! そして二度と連絡するな」
彼は、捨て台詞を吐くと、腕を抑えて車に乗り込み、エンジンをかけ早々に車を走らせた。
「あ……あっ……あーーーーっ!」
閑散とした薄暗い街灯の元、私の声にならない嗚咽が漏れる。「う……うっ……うっ」悔しい。本当に悔しすぎる。何もしてないのに、この仕打ちはないんじゃないの? こんなことならもっとわがまま言っとけば良かった。そもそも罰ゲームで付き合うなんて私のこと玩具とでも思ってたの……。
休日の過ごし方はオタクっぽいとこがあった。毎晩のように夜更かししてYouTubeを見たり、大好きな推しのアニメのキャラの事を妄想しながら、それ系のグッズを買いに出かけることもある。まさか顔が緩みっぱなしの時に後をつけられてターゲットにされた……? 悪い想像がどんどん膨らんでいく。
恐らく、どこかで目をつけられ、たまたま面白半分にターゲットに選ばれたんだろう。
思い返すと、学生の頃から、私は一度もモテたことがない。周りの可愛い女子は自信過剰な男子から告白されるのを見てきたけど、私は可愛いわけでも美人という訳でもなかった。そんな場面に出くわすと、正直ただただ羨ましかった。
そして、大人になりメイクを覚え、人並みの容姿に変身したけど、すれ違いざまに男性から振り向かれるほどではなかった。それは身長が150cmと低く、鼻が少し丸いといった欠点もあるせいなのかもしれない。
だいたい、あいつ私のアパートに私物なんてないじゃない。お泊まりをしたことないから、普通のカップルにありがちなおそろいの歯ブラシも置いてないし。
去年、世にいう恋人の一大イベントであるクリスマスでさえ、仕事があるからと会えなくて、その三日後くらいにケンタを食べたくらい。年末年始もカウントダウンも一緒にしていない。
その時からおかしかった。そうだ。私の仕事が夜勤で無理だったんだ。それでも、メールもなくて、電波悪くてとか。今思うと怪しいところは探せば山ほど出てくる。恋は盲目って言うけどまさにそうだった。
「あーーーっ! わーーっ! わーーー!」
私は駐車場で、訳の分からない叫び声を上げ。うめきながら擦れて血の出た脚を押さえながら立ち上がる。
こんなとこで泣いてちゃダメ。スカートを叩き、アパートへゆっくりと帰る。
汚れた服を洗濯機に投げ込むと、シャワーを浴びる。
――許せない。許せない。許さない!
私の酷く汚れた心をシャワーが優しく洗い流す。
「うっ、うっ……」
もう、とことん泣こう。今日は色々ありすぎた。私には相談できる人がいない。
浴室の冷たいタイルの床に座り込み、シャワーを強くして泣いた。
どれぐらい時間が経ったかわからない。思う存分泣いた後、着替えて布団に入り、目をつぶる。彼とこの同じ布団に入ってたら、もしかしたら状況は変わったんだろうか……。
――馬鹿じゃないの? そんなわけないじゃない。もし今日、私がいつものように笑顔で彼と食事に出かけていたら、あの男の単なる不倫相手として続いていただけなのだ。こんなことおかしい。
どこで間違ったんだろう? 男を見る目ないな。
残り五年しかないなら、こんな馬鹿なことしてる場合じゃない。五年……。五年かあ……。短い……。五年と言っても最後の一年は闘病みたいになるのだから、実質、四年ぐらいしか残されてないはず。
痛い脚を引きずりながら、布団から出ると机に座る。そして、引き出しを開けてノートを取り出しボールペンを握る。
「私が四年間でしたいこと」
題名を書くけど、あまりのセンスの無さに目眩がする。これって有名な映画のタイトルにそっくりで、なんだか笑えてくる。横線を引き、消した。
残り少ない時間だからこそ、この世界を楽しみたい! それ以外ないじゃない。他人に迷惑かけなければ好きなことすればいいじゃない。自己満足でもいいからやれることからやってみよう。
――ぐー。
うそっ……。ほんと情けないお腹の音がなり、何も食べてないことに気づいた。眠たい目でスマホの電源を入れると時計は八時過ぎを表示している。どれぐらい泣いたり考え込んで時間を無駄にしてたのよ。
あいつのおかげで吹っ切れた。嘘をつかずに別れられただけでも自分を褒めてあげたい気分だ。
まだ完全には吹っ切れるわけがないけど、前に進むために、私はノートに和食の料理屋と書く。
まずはこれまで諦めていたレストランに行く。死ぬまでにやりたいことをリストアップして1個ずつやる。なんかそんな映画あったな。まさか私がそんなふうになるなんて夢にも思わなかったけど……。
――院長ごめんなさい。私連絡するの少し遅くなります。お父さんお母さん。ごめんね。まだ私の口からは病気のことは伝えられそうにありません。ガンなんて知ったらびっくりしてしまうと思うから。
諦めていたことや、今まで我慢していたことを始めることにした。
彼の腕をつかみ、爪でバリかく。私の爪に皮がくい込み真っ赤な液体が指先を伝う。頭に血が登り、気持ちが収まらない。
「いた、痛い! やめろよ! もうお前とは終わりなんだから触んな」
強い力で手を剥がされ、胸を突き飛ばされた。背中からドンっとアスファルトに倒れて痛いけど、もうどうでもいい。体を起こして、彼の方をキッと睨んだけど、惨めすぎて目が潤んでくる。
「バ、バカにっ、しないで!」
「今までごくろーさん。アパートにある俺の私物は捨てといていいからな! そして二度と連絡するな」
彼は、捨て台詞を吐くと、腕を抑えて車に乗り込み、エンジンをかけ早々に車を走らせた。
「あ……あっ……あーーーーっ!」
閑散とした薄暗い街灯の元、私の声にならない嗚咽が漏れる。「う……うっ……うっ」悔しい。本当に悔しすぎる。何もしてないのに、この仕打ちはないんじゃないの? こんなことならもっとわがまま言っとけば良かった。そもそも罰ゲームで付き合うなんて私のこと玩具とでも思ってたの……。
休日の過ごし方はオタクっぽいとこがあった。毎晩のように夜更かししてYouTubeを見たり、大好きな推しのアニメのキャラの事を妄想しながら、それ系のグッズを買いに出かけることもある。まさか顔が緩みっぱなしの時に後をつけられてターゲットにされた……? 悪い想像がどんどん膨らんでいく。
恐らく、どこかで目をつけられ、たまたま面白半分にターゲットに選ばれたんだろう。
思い返すと、学生の頃から、私は一度もモテたことがない。周りの可愛い女子は自信過剰な男子から告白されるのを見てきたけど、私は可愛いわけでも美人という訳でもなかった。そんな場面に出くわすと、正直ただただ羨ましかった。
そして、大人になりメイクを覚え、人並みの容姿に変身したけど、すれ違いざまに男性から振り向かれるほどではなかった。それは身長が150cmと低く、鼻が少し丸いといった欠点もあるせいなのかもしれない。
だいたい、あいつ私のアパートに私物なんてないじゃない。お泊まりをしたことないから、普通のカップルにありがちなおそろいの歯ブラシも置いてないし。
去年、世にいう恋人の一大イベントであるクリスマスでさえ、仕事があるからと会えなくて、その三日後くらいにケンタを食べたくらい。年末年始もカウントダウンも一緒にしていない。
その時からおかしかった。そうだ。私の仕事が夜勤で無理だったんだ。それでも、メールもなくて、電波悪くてとか。今思うと怪しいところは探せば山ほど出てくる。恋は盲目って言うけどまさにそうだった。
「あーーーっ! わーーっ! わーーー!」
私は駐車場で、訳の分からない叫び声を上げ。うめきながら擦れて血の出た脚を押さえながら立ち上がる。
こんなとこで泣いてちゃダメ。スカートを叩き、アパートへゆっくりと帰る。
汚れた服を洗濯機に投げ込むと、シャワーを浴びる。
――許せない。許せない。許さない!
私の酷く汚れた心をシャワーが優しく洗い流す。
「うっ、うっ……」
もう、とことん泣こう。今日は色々ありすぎた。私には相談できる人がいない。
浴室の冷たいタイルの床に座り込み、シャワーを強くして泣いた。
どれぐらい時間が経ったかわからない。思う存分泣いた後、着替えて布団に入り、目をつぶる。彼とこの同じ布団に入ってたら、もしかしたら状況は変わったんだろうか……。
――馬鹿じゃないの? そんなわけないじゃない。もし今日、私がいつものように笑顔で彼と食事に出かけていたら、あの男の単なる不倫相手として続いていただけなのだ。こんなことおかしい。
どこで間違ったんだろう? 男を見る目ないな。
残り五年しかないなら、こんな馬鹿なことしてる場合じゃない。五年……。五年かあ……。短い……。五年と言っても最後の一年は闘病みたいになるのだから、実質、四年ぐらいしか残されてないはず。
痛い脚を引きずりながら、布団から出ると机に座る。そして、引き出しを開けてノートを取り出しボールペンを握る。
「私が四年間でしたいこと」
題名を書くけど、あまりのセンスの無さに目眩がする。これって有名な映画のタイトルにそっくりで、なんだか笑えてくる。横線を引き、消した。
残り少ない時間だからこそ、この世界を楽しみたい! それ以外ないじゃない。他人に迷惑かけなければ好きなことすればいいじゃない。自己満足でもいいからやれることからやってみよう。
――ぐー。
うそっ……。ほんと情けないお腹の音がなり、何も食べてないことに気づいた。眠たい目でスマホの電源を入れると時計は八時過ぎを表示している。どれぐらい泣いたり考え込んで時間を無駄にしてたのよ。
あいつのおかげで吹っ切れた。嘘をつかずに別れられただけでも自分を褒めてあげたい気分だ。
まだ完全には吹っ切れるわけがないけど、前に進むために、私はノートに和食の料理屋と書く。
まずはこれまで諦めていたレストランに行く。死ぬまでにやりたいことをリストアップして1個ずつやる。なんかそんな映画あったな。まさか私がそんなふうになるなんて夢にも思わなかったけど……。
――院長ごめんなさい。私連絡するの少し遅くなります。お父さんお母さん。ごめんね。まだ私の口からは病気のことは伝えられそうにありません。ガンなんて知ったらびっくりしてしまうと思うから。
諦めていたことや、今まで我慢していたことを始めることにした。
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