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二十五話 『十字架のネックレス』

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 杖が話すわけないか……。後ろを振り返るとツグミがボイスチェンジャーを両手に抱え、小さな舌をペロッと出してはにかんでいる。

「何やってんだよ! お前かよ。焦ったじゃねーか!」
「すっごい楽しかったし、後ろから見てたらユウキがビックリして片方の肩がビクってなりましたよ。最高の動画も取れたことですし、今回の掲示板のネタはこれにします!」
「コラコラ! 何やってんだよ」

 俺はツグの頬っぺを両手で掴むと左右に引っ張ってやった。

「わがってますか……。私にこんな事したらまた掲示板が荒れるだけですよ」

「わかんねーみたいだから、どりゃあああああ!」

 柔らかいツグの頬っぺが更に伸びる。
「ご、ごめんなさああああーい! もうしませんから、許してくださあああああああーい!」

 顔を真っ赤にして訴える。しょうがないな。少し目を離すとろくなことをしない。

 エリカは俺達のそんな様子を微笑ましい顔で見つめている。

「三の扉の階段について調べたんだけど、レストラン『ジュリアーノ』の地下にある階段から行けるみたいよ!」

「早速行こうか? その前にエリカは武器買わなくて大丈夫か? こないだの戦闘で刃こぼれとかしてるんじゃないか?」

 腰に差した鞘から剣をスっと引き抜くと、太陽の光に照らされてキラリと光ってはいるものの、刃先には欠けが幾らか入り目立っていた。

「私のはまた今度で良いわよ。それよりツグの武器は今のままで大丈夫なの? 回復系の十字架をもっと良い物にしたら、安心して戦闘できるんじゃないかしら!」

 エリカはそう言うとツグミを連れて先程の武器屋に向かい、新しい金色の十字架のネックレスを購入してきた。

 ツグミはとても嬉しそうにネックレスを触りながら歩いている。時折それにキスをしながら余程気に入ったのだろう。これで回復もバッチリだし、後は俺のスキルのラッキースケベを上手く発動させるために何とかこの二人に軽装にして貰えば回復は更に強固な物になるはずだ。と、こっそり考えていたがツグの十字架に今回はお世話になろうと決めた。


 少し歩くとようやく赤レンガ亭『ジュリアーノ』に到着する。

 こんな平和そうなところに本当にボスのいる階段があるのだろうか。

 勢いよくドアを開けるエリカ。  

 部屋の中はモンスターの巣窟になっており、スライムやらイノシシ型のモンスター『ピッグー』等総勢10匹に囲まれた。そして後ろの扉がパタンと閉じる。ん、ツグ? 部屋の中は俺とエリカだけ、あの野郎またしてもやりやがったか。

「何なのー? もしかしてツグミ機転を利かせて私たちを二人にしてくれたのかしら」
「エリカ違うだろ。あいつはそんなやつじゃない。俺達を閉じ込めてモンスターにボコボコにしてもらおうと企んでるんだ!」
「そんなハズないじゃない。あのツグに限って、今までそんな事した事あるの?」

 紐パン事件に始まり、掲示板でのディスりとイヤイヤ沢山あるだろう。エリカもそもそもパンチラ撮られてたし。お嬢様はそういった事には鈍感なんだろうか。
 
 そうこうしていると、スライムが集団でエリカの腕と脚に絡みつき、身動きが取れないようになってしまった。

「ユウキいいいいいいー! 助けてー!」

 総勢四匹のスライムが両手足にしっかりと巻きついていて、磔のような状態だ。そこにイノシシ型のモンスター、ピッグーがエリカに向かってすごい勢いで突進してきた。

 慌てて俺はその間に入り杖を構える。手には先程購入した黒の杖をしっかりと握り、試しに1発ぶちかましてやる!

「ファイアーボール!」

 ボブっ!

 なにぃいいいいいい!

 ファイアーボールは飛ぶことなく目の前で爆発した。いつもなら杖の先端から飛び出す炎が……。この杖は一体なんなんだ不良品か? 魔法の飛ばない杖に使い道があるように思えない。もう1つの先程買った杖を掴もうとすると、

 ──この装備は呪われてます。教会か僧侶の魔法で呪いを解くしか方法はないとメッセージが流れてきた。

 ──こんな時にどうすりゃいいんだあああああ。

 先程のファイアーボールで驚いたピッグーだが、こちらからの動きがないと分かるとジリジリと歩を進め走り出す。またエリカの方じゃないか。

 しゃーない。この杖でぶっ叩いてやるしかない。

 横に大きく構え横一線思い切って振った。杖の先端のキャップみたいなものが外れて中から小刀の様な刃が出てきた。

 こいつは一体。そこから赤の刃が勢いよく飛び出しピッグーを斜めに両断する。

「ぐっほぉーーー!」

 ヘンテコな叫び声を上げて消滅した。いけるいけるぞー! この呪われた武器でも何とかなるかもしれない。

 何故か体がガクンとなる。ひ、膝が抜けたような感覚に襲われた。そしておかしいと思いHPのバーを見ると七割程になっていた。

 こ、これって、この武器もしかしたら使うとHPを使用しているのかもしれない。諸刃の杖かよ。

 しかもエリカは「ハア、ハア」言って苦しそうだ。どうやら1匹がまた服の中に潜り込んでしまったらしい。いい加減にしてくれ。取り敢えずエリカの手足にくっついたスライムを捕まえてぶん投げる。

 後は服の中にいる1匹のみ。部屋の窓に強い視線を感じそちらを振り返るとツグミがこっちを見て突っ立っていた。しかもビデオで動画を撮っている。

「ツグミ! そろそろ助けに来てくれないか? そういう冗談はいいから」
「助けて欲しいならお願いしてください。つぐみ様助けてくださいと! 先程は頬っぺを引っ張ってすみませんでしたじゃないんですか?」

 ツグミは意地悪そうな目でこちらを見てくる。エリカが、

「ツグミ本当に怒るわよ! ツグのこと信用してたのにあんまりじゃないの? カウントするから早く入ってきなさい。もし来ないなら、分かっているんでしょうね?」

 まだ、四匹のピッグーが俺とエリカを狙っていることもあり、こいつらから逃げられない状態だ。

「もうっ開かないわ! このドアどうなっているのよ」

 エリカはドアを引っ張るがどうにも開かないのだ。やっぱりそういうシステムか。

「ツグミ悪いんだが、お前の今の言葉俺もビデオに撮ってるんだ!」

 目を丸くして大きく瞳孔を開くツグミ。

「え、え、え……。どういうことなんですか?」
「こうなることは想定済みってことなんだよ。お前のことアイドルみたく感じてる人がこの動画を見たらどう思う?」

 俺はチラチラとカメラをチラつかせる。もちろんそんな動画は撮っていないのだが、悪いことを考えるやつは他の人も自分と同じことをしてると思う習性があるのだ。

「早くきなさい! 玉避けになってもらわないといけないわ! 今までコケにしたぶん償って貰いますからね!」

 胸の中でスライムがボインボインと元気にジャンプしているエリカが手を高くあげて怒っている。いやいや、そんなことより早くスライムを取ったらどうなんだ。

「ご、ごめんなさい……」

 ツグはそう言うと、扉を開けて部屋に入ってきた。しめしめ、これで何とかなりそうだ。後は四匹のピッグーだけだ。

 あ、そう言えばツグミはどう戦うんだ……。

「私は……、攻撃魔法も、攻撃する武器もないのです」

 部屋に入るなり、真っ直ぐな曇りのない視線を俺達に向けるツグミであった……。

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