上 下
25 / 52

二十四話 『もっこり通天閣』

しおりを挟む
 チュンチュン

 小鳥の鳴き声がする。エリカだろうか? カーテンを開ける音がして眩しい朝日が顔に掛かる。

「おはよう! ユウキ早く起きて、今日は三の扉の攻略のはずでしょう?」

 目を擦りながら顔を上げると、エリカが上機嫌で拳を握りファイティングポーズをとっている。

「ごめん、ごめん。寝坊したな。朝食取ってから行こうか?」
「もう着替えも終わったし、後はユウキが着替えるとこ見ててあげるわ。それ何?」

 エリカは布団に包まれた俺の股間のあたりを指さす。そこはモッコリとしてた。

「何でもないだろ! 後ろ向いててくれよ! 着替えするから。あと、そんな事より俺の杖が壊れたから武器屋も寄りたいし」

 俺はそう言ってベッドから立ち上がると、後ろを向いてパジャマからグレイの魔法使いのローブに着替える。

「何よー! 教えてくれたって良いじゃないの?」

 エリカは天然なのか、知らないのかやたらともっこりを指摘したくてしょうがないらしい。

 そうか、一人っ子でこんなの見たことないか? まあ、そうだよな。

「男は皆、股間にピストルを持っているんだよ。誰でも男同士の喧嘩はこのピストルをいざと言う時に構えて西部劇のカウボーイのように戦うこともあるんだ!」

 ドアがバンッと開き、ツグミが入ってきた。俺のもっこりを一目見て目を細めると、すぐに視線をエリカに向け、泣き出しそうな顔で駆け寄っていく。

「昨日はごめんなさい。彼氏と初めての夜デートで結構いい感じだったの。夜景の見える小さなフランチャイズのお店でイタリアンを食べて。ドライブをして、食べすぎた彼が山の中に車を停めてゲホゲホして、上を見上げるとカラフルな装飾のあるホテルが見えたわ。仕方ないから私が彼の車を運転して送り届けたりと、かなり充実してたの」

 いやいや、あのクズみたいな男がつぐを500円ぐらいで食費を浮かせてその後、山の中にあるホテルに向かう道中体調不良になったとしか思えない。こいつら大丈夫なんだろうか。恋とは人を盲目にさせるらしいけど。

「そうか、まあ大変だったな。それでどうしてここに?」
「ごめんなさい、エリカ、メール入ってたのに見て見ぬふりしちゃって、エリカのリアルの身体は大丈夫だから、安心して」

 まあアイカとつぐの二人が言うんだから間違いないよな。

「でもユウキの方は……」

 つぐはそう言うと俺から視線を逸らす、

「俺の方はどうなの? 何か問題でもあるのか?」

 ユウキの方は何か大変らしいの。看護師が点滴の針を付け替える時に、ユウキの手がスカートの中に伸びてきたとか、そんな噂があるわ!

「まさか、ツグまた掲示板に書いたとかじゃないよな?」

 えへへと、笑うつぐ。俺はつぐを抱えるとおしりをペンペンしてやった。頭を抑えて俯くエリカ。

「いったぁーい、痛い。ごめんなさい。申しませんから」

 この子は何度でもやるんだろう。まあいいか。良くないけど。

「それじゃあ早速行きましょ。つぐはどうする? ユウキの杖がないから武器寄ってからかな?」
 
 エリカは相変わらずゴスロリの服を来て髪には蝶の付いた透明なカチューシャを掛けている。女子は不思議だ。いつの間にかアイテムが増えているのだ。俺が寝ている間に買いに行ったのか、それとも何処かに行くついでに買ったのかは分からない。

「私もいく! 思い出の動画も撮りたいし」

 俺の方を見てニヤニヤしている。あーだめだこいつには何を言っても多分ダメだ。




 剣の看板の掲げられた武器屋に到着する。

「らっしゃーい!」

 明るい声が聞こえ、ひょろひょろの男が剣を砥石で磨いていた。

「杖を買いたいんですけど」

 俺がそう言うと、その店主は面倒くさそうに、顎でこっちと言わんばかりに壁の方を指す。そちらを見ると壁には色とりどりのド派手な杖が並ぶ。

「こ、これって。年配の人や歩くのがキツイ人がもつ杖じゃないか?」

 T字型の杖が並び、この需要はあるのかと疑いたくなる。

「最近はゲームも高齢化が進んでるから、たまに売れるんだよ」

 ぶっきらぼうに話す店主。

「冒険者用の杖は無いのか?」
「無いね! そもそも初期装備の杖はどうしたんだ?」

 俺の杖は町人を叩いて頭が飛んでった。こいつの頭もひっぱたいてやりたい。

「そう言う冗談は良いですから、早く出しなさい! ここは武器屋でしょ? 運営に問い合わせてあなたの町人データを消去してもらうわよ。それでもいいの?」

 エリカがハッキリと言うと。

「動画も撮ってるし言い逃れは出来ませんよ!」

 つぐも援護射撃をしだす、カメラのきらりと光るレンズの先にはエリカのミニスカートの中を撮る姿があり、俺はつぐの頭をはたいてやる。


「しょーがねーなー!」

 ウインドウを開き運営に報告のボタンを店主に見えるように押してやる。

「す、す、すいません。失礼しました。杖ならあります」

 慌てて、研いでいた剣をテーブルの上に置き、カウンターの引き出しを空けると、三本の杖が出てきた。黒い杖は禍々しい感じがするし、透明な杖は恐らく十字架が付いているから僧侶ようだ。最後の一本は木のロッドで頭に赤の丸い水晶がはまっている。

「これなんていいんじゃないの?」

 つぐは黒い杖を勧めてくる。何だこの禍々しさは、嫌な感じがする。二本貰うことにした。

 黒の杖は10ジュエル、赤の水晶の杖は1万ジュエル。店を出ると、声がする。

「我こそは三の扉のボスなり!」

 ん? どこから声がするんだ? 顔を上げると先程の黒い杖が何か言ってる。

「エリカどうやらボスに遭遇したらしい!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

私の物を奪っていく妹がダメになる話

七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。 立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...