大人しい村娘の冒険

茜色 一凛

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マイはパンツに更なる罠を仕掛ける。

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「そろそろだよね?」

 マイが呼びに行ったのに、いくら待てども衛兵は現れない。衛兵の宿舎はこの辺りはバーや酒場が多いことから、歩いても5分の場所に衛兵の宿舎があるはず。おかしい。時計の針は10時15分を回り始めていた。

 その時。

 トイレの方からズドーンと大きな音がした。何かが倒れるようなそんな音がしたのだ。私はキョウコと共にトイレへと駆け込む。

 するとトイレのドアの付近にある手洗い場の床に勇者が倒れていたのだ。右手にマイのパンツを持ち、後頭部から倒れたようだ。

「ここに勇者はいるか? 話をっ」

 やっと来た。衛兵のお出ましかな。

「それどころじゃありません。勇者様が倒れました」

 乳丸出しのバニーガールが衛兵の前に出てくる。

「うっ、不埒なものをしまいなさい。どこにいる?女性物の下着を盗もうとしたと聞いているが。しかもおばさんのパンツだぞ。恥知らずな勇者はどこに?」

「勇者様がそんなことを? 若い子にしか目がないですよ。それよりもこちらです」

「こいつはまずい。頭から倒れたな。酔いつぶれて転倒か。取り敢えず教会からシスターを連れてこなくては、くれぐれも動かさないように」

 そう言うと、衛兵は急いで外に飛び出す。

 その後、マイが現れたが。

「ダメだった。信じて貰えなくて。そうなると思ってもうひとつ仕掛けといた」

「マイの仕業だったのね! 勇者は倒れてる」

 これは喜ぶべきなのかよく分からない。

 先程の衛兵はユウキが夕方盗もうとした国王陛下の祖母から話を聞きやってきたと言う話らしい。

 マジか、あの箒で追っかけてきたすごい剣幕の老婆が陛下の……。

 そう言えば、陛下の祖母は子供の頃は田舎暮らしだったらしい。たまたまその時の国王がオーク狩りで、訪れた街で毒キノコを食べその時毒消し草を分けて看病して側室になったということらしい。

 そして今は余生を街で暮らしたいと街の片隅でゆったりと暮らしてるといった噂を聞いたことがあったことを思い出した。まさか私たちが陛下の祖母のパンツを盗もうとしてたなんて。


 でも犯人が倒れているので事情聴取も出来ず。頭を打っているので近くの教会から急遽、シスターを呼んできた。この世界は僧侶よりもシスターの方が治癒魔法の効果が強いので呼ばれたのだ。

 その後、シスターの話によれば、原因はマイの下着をハンカチと間違えて顔を酔い醒ましで洗った後、ふいたことによる急性臭すぎ疾患だという話。

「上手くいったわね! パンツにスカンクの屁の粉を仕込んどいたのよ。摩擦で匂いがでるしかけになってんだ」

 マイは飄々として語る。

「もしかして、勇者と衛兵が裏で繋がってる可能性もあるし、世間ズラのいい勇者が犯罪者とか信じてもらえないかもしれないからね」

 マイっ、よくやるわよね。でもこんなことだけで許すことなんてできない。でも、アキラを救うためのエリクサーの素材集めもそろそろ始めないと。

 その日は解散して、次の日、エリクサーの素材を取りに行くための作戦会議を私の家で行うことにした。

 それから数日たち勇者は衛兵に連れていかれ、事情聴取を受けたが、事件当時、日が沈み、暗いこともあり、誰かの声で勇者だと思ったと、陛下の祖母の言葉もあり。事情聴取は不発に終わったと、そして勇者は後頭部にたんこぶを作ったぐらいで特に健康上問題は無いとキョウコからの手紙で知ることとなった。

 ユウキとキョウコは遠距離恋愛でとりあえず形だけ付き合うということにしたみたい。

 それに納得していないのはマイだ。

「なんでまだあの年増女と付き合ってるのよ! ユウキには私というものがありながら。いったいどうなってるんだよ」

「ごめん。今はまだわかって欲しいんだ。マイとは付き合うとか言ってないし」

「もういいわよ! 私の新しい下着買ってきなさいよね」

「あ、うん。今度雑貨屋でプレゼントするから」

 どうしてこんな優柔不断なユウキがモテるのかさっぱり私には分からない。私は白黒ハッキリした人が好きだ。その方が時間も有意義に使えるし、グレイだと気持ちが悪いから。

「もういいわ。今日はアタシ帰るから」

 マイはそう言うと、赤色のコートを掴んで立ち上がる。そして、私にごめんと言いながら帰ろうとする。

「マイっ、また話して。いつでも話聞くから」

 私の言葉にうんうんと頷きながら涙を零して顔を抑えて出ていってしまう。

「ユウキっ、追いかけた方がいいかもよ」

 私は無責任にそういうものの、ユウキの気持ちがどうなのか分からない。

 ユウキは椅子に腰掛け、窓から見える三日月を見ていた。

「マイ。泣いてたよ。本気なんだと思う。人って言いたくないことの一つや二つ生きてれば抱え込んでしまうものだし。それを聞いてしまったユウキにも問題があるんじゃない? ユウキは話しやすいからつい喋ったのかもしれないけど。マイの気持ちも考えた方がいいと思うよ。でもユウキの気持ちもあるからなんとも言えないし」

 ハッキリした態度を人には求めるくせに、私自身もなんて優柔不断なんだろうと思う。情けない。

 ユウキは小声で。

「マイ帰ったのかな。キョウコは年上だし確かにマイに似てスタイルもいいし、見た目も悪くない」

「見た目かいっ!」

 そんなことよりマイはどうするのよ。

「あの勇者と接するうちに闇を抱え込んでいたり、何か問題があって勇者といるんじゃないかって思えて。どちらかと言うと恋愛感情よりも助けたい持ちの方が強いのかもしれない」

 まだ、ユウキは外の三日月を見ながら話す。こっちみなさいよ。ということは、恋愛じゃなくて情みたいなものなのかな。そんな感情で助けて後々困るのはユウキじゃないの?

「ふーん。わかったけど、絶対後悔すると思うよ。マイのことはどうするの?」

「今の関係でいいと思う。恋愛関係になるかならないかはこの後の状況次第」

「はいっ? もしかしてモテてると勘違いしてるの? マイみたいな熱い子はもうこの先現れないと思うよ? それでもいいの?」

 ユウキはこちらを振り返ると。

「正直マイがパンツを渡した時クラっときた。おそらく恋に落ちた。でもそんないい子だからこそ、幸せにしたいけど、できるか全く自信ないんだ」

 こいつほんとしょーもない。未来なんてわかんないから面白いのに。

「だったら、マイを追いかけてハグしてキスでしょ!」

「今は出来ない。俺は君も助けたいし。今まで冒険者として楽しくないことばかりしてた。仲間に恵まれなくて、今は素材集めも楽しいし。ずっとこんな感じでみんなで冒険するのも悪くない」

「ふーん。分かった。マイには上手く伝えとくよ。今は冒険に集中したいし、この先マイともそんな関係になるかもしれない程度に言っとく?」

 瞬きが止まらない。マイに上手く伝えられると思えない。下手したらパーティ解散の危機になっているのかもしれないし。あとはなんだろ。私のことも気遣ってたなんて。私の事なんて1人で何とかするのに。

 ……1人では無理かな……。

 次の素材集めもかんがえないと。下手したらパーティ分解して。

 あと二個。次は龍の瞳を取りに行かないといけない。次々と難関なアイテムになっていく。ピンクの髪のお姉さんほんとにどうやって集めたのよ。図書館で借りたこのアイテムは魔王の居城の近くに住む暗黒竜を倒した時にドロップするアイテムらしい。

 私がマイのことひと肌脱ぐしかないっ!
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