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あれから二日経つが連絡はこない。
きっとまだごたついているんだろう。
「決定した際には連絡を寄越すと言っていたけど……」
メールボックスは空っぽのまま。
今日は一限から大学の講義がある。昼休みにもう一度確認しよう。
朝食のトーストを咥えているとインターホンが鳴った。
「はーい?」
こんな時間に誰だろう?
ドア穴を覗き、そこに立つ人物を見て私はドアを勢いよく開けた。
「いったいどういうつもり?」
行動とは裏腹に口から出た声は自分でも驚くほど温度のないものだった。
「ねえ安城」
「ここだと人目につくから、入れてちょうだい」
向かいに座る安城はしばらく黙り混むばかりだった。
だからといってこちらから声はかけない。
どうしたのなんて聞くのは癪だ。なんていったって騒ぎを起こしている原因は彼女、安城から状況を説明する義務がある。
時計の長針が五分進んだところでやっと口を開いた。
「あんたの言う通りだったわ」
「なにが?」
「登場人物の気持ちを理解しなければまともな演技はできない、だっけ」
本当だよ、うつむき掠れた声で呟く。
「美雲、いえ……実琴の演技ができなかった」
安城から出た姉の名前に肩を震わす。
「美雲って実琴のことでしょ? 幼馴染は知らないけど、美雲の親友の間宮があんた。どんな役だろうと私なら楽勝だと思ってた……だから、実琴の演技ができない自分に驚いた」
「……」
「感覚やニュアンスだけ掴んでも気持ちが入らないの。こういう気持ちになったことがないから。実琴を演じてるうちに自分が何を言っているのかわからなくなった……たぶん私には傷みを感じる繊細な心が欠けてたのよ。どんな人にでもなりきれる、そう思ってたのに、どんな人ももってる心が私には欠けていたの。ほんと、笑っちゃう」
「だからなに?」
言い訳を伝えに来たわけじゃないでしょう。
貴方は私に言いたいことがあるはず。
これは前置きにすぎないことを私は気づいている。
「そうね。弱音を吐きに来たんじゃなかった。ここからが本題、それとお願い」
「お願い?」
本題とお願い。どうして二つに分ける必要があるの?
「私を主演キャストから外してほしい。それが本題。もう一つ、 こっちはお願い。主人公の美雲役を天野真琴、あんたに演じてほしい」
「は?」
突然の言葉にどんな反応をしていいのかわからなかった。
彼女は何を言ってるの。
「最後の最後まで嫌がらせのつもり?」
そんなに私を困らせたいの?
どうしてあんたは今になっても私たち姉妹を掻き乱すの!?
「違う! 原作を読んで思ったの。美雲、いえ実琴を演じられるのはあんたしかいないって。実琴を再現できるのはあんただけだって。小説を読んでて、本当に実琴が生きている気がした。あんたが想像して書いたとしても、天野実琴はこの物語のなかで呼吸をしてるって感じた!」
「……」
「わかんない? ここまで実琴の存在を物語に生み落とすことができたのは片割れのあんただからなのよ。実琴を誰よりも知っていて、一番理解できてるのはこの世界の中であんただけなんだ!」
「そんな勝手なこと言わないでよ!!」
私はこれまでない大声で叫ぶ。
喉が熱い。ヒリヒリする。
心臓もバクバクと煩い。
「あんただって散々私のこと“できない方”って言ってたじゃない! 今さら何を言い出すと思えば、自分が苦しいから逃げるための口実じゃない!!」
「違う、違うの! 私は本当にあんたが実琴になれると思ってる!」
実琴と私は全然違う。
そんな私が実琴になりきれるわけない。
きっとまだごたついているんだろう。
「決定した際には連絡を寄越すと言っていたけど……」
メールボックスは空っぽのまま。
今日は一限から大学の講義がある。昼休みにもう一度確認しよう。
朝食のトーストを咥えているとインターホンが鳴った。
「はーい?」
こんな時間に誰だろう?
ドア穴を覗き、そこに立つ人物を見て私はドアを勢いよく開けた。
「いったいどういうつもり?」
行動とは裏腹に口から出た声は自分でも驚くほど温度のないものだった。
「ねえ安城」
「ここだと人目につくから、入れてちょうだい」
向かいに座る安城はしばらく黙り混むばかりだった。
だからといってこちらから声はかけない。
どうしたのなんて聞くのは癪だ。なんていったって騒ぎを起こしている原因は彼女、安城から状況を説明する義務がある。
時計の長針が五分進んだところでやっと口を開いた。
「あんたの言う通りだったわ」
「なにが?」
「登場人物の気持ちを理解しなければまともな演技はできない、だっけ」
本当だよ、うつむき掠れた声で呟く。
「美雲、いえ……実琴の演技ができなかった」
安城から出た姉の名前に肩を震わす。
「美雲って実琴のことでしょ? 幼馴染は知らないけど、美雲の親友の間宮があんた。どんな役だろうと私なら楽勝だと思ってた……だから、実琴の演技ができない自分に驚いた」
「……」
「感覚やニュアンスだけ掴んでも気持ちが入らないの。こういう気持ちになったことがないから。実琴を演じてるうちに自分が何を言っているのかわからなくなった……たぶん私には傷みを感じる繊細な心が欠けてたのよ。どんな人にでもなりきれる、そう思ってたのに、どんな人ももってる心が私には欠けていたの。ほんと、笑っちゃう」
「だからなに?」
言い訳を伝えに来たわけじゃないでしょう。
貴方は私に言いたいことがあるはず。
これは前置きにすぎないことを私は気づいている。
「そうね。弱音を吐きに来たんじゃなかった。ここからが本題、それとお願い」
「お願い?」
本題とお願い。どうして二つに分ける必要があるの?
「私を主演キャストから外してほしい。それが本題。もう一つ、 こっちはお願い。主人公の美雲役を天野真琴、あんたに演じてほしい」
「は?」
突然の言葉にどんな反応をしていいのかわからなかった。
彼女は何を言ってるの。
「最後の最後まで嫌がらせのつもり?」
そんなに私を困らせたいの?
どうしてあんたは今になっても私たち姉妹を掻き乱すの!?
「違う! 原作を読んで思ったの。美雲、いえ実琴を演じられるのはあんたしかいないって。実琴を再現できるのはあんただけだって。小説を読んでて、本当に実琴が生きている気がした。あんたが想像して書いたとしても、天野実琴はこの物語のなかで呼吸をしてるって感じた!」
「……」
「わかんない? ここまで実琴の存在を物語に生み落とすことができたのは片割れのあんただからなのよ。実琴を誰よりも知っていて、一番理解できてるのはこの世界の中であんただけなんだ!」
「そんな勝手なこと言わないでよ!!」
私はこれまでない大声で叫ぶ。
喉が熱い。ヒリヒリする。
心臓もバクバクと煩い。
「あんただって散々私のこと“できない方”って言ってたじゃない! 今さら何を言い出すと思えば、自分が苦しいから逃げるための口実じゃない!!」
「違う、違うの! 私は本当にあんたが実琴になれると思ってる!」
実琴と私は全然違う。
そんな私が実琴になりきれるわけない。
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