1 / 33
①
しおりを挟む
四月。桜舞う出会いの季節。
咲桜坂小学校一年一組の教室では入学したばかりの生徒たちの自己紹介が行われていた。
「一年二組、天野真琴。私の夢は公務員になることです」
なんて子供らしさの欠片もない自己紹介をした小学校入学後初めてのオリエンテーションで私はクラスの失笑を誘った。もちろん狙ってなどいない。
カッコ悪いだの夢がないだのクラスメイトはクスクス笑う。担任の先生も困り眉で気まずそうに笑う。
私は何か可笑しいことを言った?
皆が今言っている夢の方が将来なれない人の方が多いんだよ。高校生になれば公務員を目指してる方が笑われないんだよ。
私への失笑から、次の子の自己紹介までの時間がとても長く感じられた。
もう、この時間はよ終われ!
「そりゃあんた、小学生がそんなこと言うからだよ」
帰り道、夕日が眩しい通学路を歩く隣で、双子の姉の天野実琴が呆れたように言う。
「高校生になれば、皆も夢は変わるよ。でも今は小学生だし」
「……実琴は将来の夢なんて言ったの?」
「ピアニスト」
にしし、と悪戯っ子ぽく笑う姉。
「ピアニストって」
「小学生なら小学生らしく無邪気で傲慢な夢を語っておきゃいーの!」
生きていくには要領よくやらなきゃね、と発言する姉も私とは別の意味で子供らしくない。
「あ、でもくーちゃんは本当に夢叶えちゃうかも」
「くーちゃんが? たしか、お医者さんだっけ」
「そ、お医者さん。いいなー。目指すものになれる実力を持ってる子は選り取り緑で。早くも女子に「ステキ~」って言い寄られてたし」
くーちゃんこと運舟空は姉の実琴と同じクラスの一年一組。
そして唯一同年代で私たち双子の区別がつく幼馴染だ。
お医者さんの家系でとても頭が良く、お父さんにも期待されてるみたいでいつも幼稚園でもドリルをやっていた。
小学生になるとテストがあるから楽しみだと入学前に意気込んでいたくーちゃんはカッコいいというより私にはヘンジンに見えた。
「くーちゃんだって小学生らしくないじゃん。なのに私だけ笑われてずるい」
ふくれる私を見て実琴が笑う。
「あんたその辺の駆け引きダメだもんね。ていうか皆そんなことで悩まないよ、考えてないし」
「実琴も考えてるじゃん」
「考えた上での『ブナン』を考えてるのさ」
よく分からないや。
私の姉は頭が良い。双子だから年だって変わらないのに、何年分も追い越されてる感じでなんか嫌だな。
「お互い、考えすぎな性分で大変だね」
実琴はうりゃー! とわしゃわしゃ私の頭を撫でまくる。
こういうところは年相応なお姉ちゃんだ。
「落ち込んでんなー。明日の給食はカレーだぞ」
「カレー! 実琴と入れ替わって二人分食べていい?」
「図々しいやつめ」
軽く頭をはたく姉の手つきは優しくて、私の不機嫌だった感情は遥か彼方に吹き飛んでいた。
咲桜坂小学校一年一組の教室では入学したばかりの生徒たちの自己紹介が行われていた。
「一年二組、天野真琴。私の夢は公務員になることです」
なんて子供らしさの欠片もない自己紹介をした小学校入学後初めてのオリエンテーションで私はクラスの失笑を誘った。もちろん狙ってなどいない。
カッコ悪いだの夢がないだのクラスメイトはクスクス笑う。担任の先生も困り眉で気まずそうに笑う。
私は何か可笑しいことを言った?
皆が今言っている夢の方が将来なれない人の方が多いんだよ。高校生になれば公務員を目指してる方が笑われないんだよ。
私への失笑から、次の子の自己紹介までの時間がとても長く感じられた。
もう、この時間はよ終われ!
「そりゃあんた、小学生がそんなこと言うからだよ」
帰り道、夕日が眩しい通学路を歩く隣で、双子の姉の天野実琴が呆れたように言う。
「高校生になれば、皆も夢は変わるよ。でも今は小学生だし」
「……実琴は将来の夢なんて言ったの?」
「ピアニスト」
にしし、と悪戯っ子ぽく笑う姉。
「ピアニストって」
「小学生なら小学生らしく無邪気で傲慢な夢を語っておきゃいーの!」
生きていくには要領よくやらなきゃね、と発言する姉も私とは別の意味で子供らしくない。
「あ、でもくーちゃんは本当に夢叶えちゃうかも」
「くーちゃんが? たしか、お医者さんだっけ」
「そ、お医者さん。いいなー。目指すものになれる実力を持ってる子は選り取り緑で。早くも女子に「ステキ~」って言い寄られてたし」
くーちゃんこと運舟空は姉の実琴と同じクラスの一年一組。
そして唯一同年代で私たち双子の区別がつく幼馴染だ。
お医者さんの家系でとても頭が良く、お父さんにも期待されてるみたいでいつも幼稚園でもドリルをやっていた。
小学生になるとテストがあるから楽しみだと入学前に意気込んでいたくーちゃんはカッコいいというより私にはヘンジンに見えた。
「くーちゃんだって小学生らしくないじゃん。なのに私だけ笑われてずるい」
ふくれる私を見て実琴が笑う。
「あんたその辺の駆け引きダメだもんね。ていうか皆そんなことで悩まないよ、考えてないし」
「実琴も考えてるじゃん」
「考えた上での『ブナン』を考えてるのさ」
よく分からないや。
私の姉は頭が良い。双子だから年だって変わらないのに、何年分も追い越されてる感じでなんか嫌だな。
「お互い、考えすぎな性分で大変だね」
実琴はうりゃー! とわしゃわしゃ私の頭を撫でまくる。
こういうところは年相応なお姉ちゃんだ。
「落ち込んでんなー。明日の給食はカレーだぞ」
「カレー! 実琴と入れ替わって二人分食べていい?」
「図々しいやつめ」
軽く頭をはたく姉の手つきは優しくて、私の不機嫌だった感情は遥か彼方に吹き飛んでいた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
顔も思い出せぬあの味をもう一度
粟生深泥
現代文学
三浦彩夏はいつか食べたあの味を心のどこかで求めている。今でも心の中に広がる甘酸っぱく、濃厚な味わい。ある日、同僚の綾乃が思い出のナポリタンを探していることを聞いた彩夏は、その糸口をVtuberである碧海ロロへ求めることにした。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
泥に咲く花
臣桜
現代文学
裕福な環境に生まれ何不自由なく育った時坂忠臣(ときさかただおみ)。が、彼は致命的な味覚障碍を患っていた。そんな彼の前に現れたのは、小さな少女二人を連れた春の化身のような女性、佐咲桜(ささきさくら)。
何にも執着できずモノクロの世界に暮らしていた忠臣に、桜の存在は色と光、そして恋を教えてくれた。何者にも汚されていない綺麗な存在に思える桜に忠臣は恋をし、そして彼女の中に眠っているかもしれないドロドロとした人としての泥を求め始めた。
美しく完璧であるように見える二人の美男美女の心の底にある、人の泥とは。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
生きてたまるか
黒白さん
現代文学
20××年4月×日、人類は消え、世界は終わった。
滅びのその日に、東京の真ん中で、ただひとり生き残っていた僕がしたことは、デパートで高級食材を漁り、食べ続けただけ。それだけ。
好きなことをやりたい放題。誰にも怒られない。何をしてもいい。何もしなくてもいい。
初めて明日がちょっとだけ待ち遠しくなっていた。
でも、死にたい……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる