ときめく春と俺様ヒーロー

秋月流弥

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 春に色とりどりの花が咲くように、人の心もいろんな気持ちに移り変わっていく。

 喜びも、悲しみも、恋も。

 様々な心の色を知った時、私はどんな花を咲かせるんだろう。


 麗らかな春の陽射しのもと、私、桜井舞桜さくらいまおは走っていた。
 今日は記念すべき高校の入学式。憧れの高校生活一日目の登校日だ。

 なのに。

「寝過ぎたー! 遅刻遅刻っ!」

 緊張のしすぎで前日寝こじれた私はお決まりの朝寝坊をかましてしまった。
 ベタすぎる展開。まさか自分が実行するとは。
 走る先には曲がり角。
 ベタな展開が続くとすれば、ここでイケメンとぶつかる展開が……

「って少女漫画の読みすぎ」

 あはは、なんて一人で笑いながら曲がり角を曲がった瞬間だった。

「っきゃあ!?」
「うおッ!?」

 ドーン! と向こう側から走ってきた人にぶつかってしまった。

「いたたた……」
 私が尻もちをついていると、
「危ねーだろ! 曲がり角なんだから慎重に歩けよ!」
 同じくぶつかって尻もちをつく相手が怒鳴ってきた。

 む。たしかに不注意だった私も私だけど、そっちだって走ってたし、非もあるんじゃない?
 言い返してやろうとぶつかった相手の方を見ると息を呑んだ。

 切れ長の瞳にすっと通った鼻筋。
 サラサラの艶のある黒髪は漆黒に染まり輝いている。
 それは、見る者を魅了するような美のオーラを醸し出していた。

 ぶつかった相手は超イケメンだった件について。

 いや、違う。そこじゃない。

 注目したのはイケメンの服装。

「同じ高校の制服……?」

 イケメンは私と同じ高校の制服を着ていた。
 左胸には、高校のエンブレムがついている。

「ん? お前も天ヶ原あまがはら学園の生徒か?」
「う、うん。今日から入学する一年生」
「ふーん。まぁ興味ないけど……って、こんなことしてる場合じゃねぇ」

 イケメンは腕時計を見ると、そそくさと立ちあがり、走り出す。
「お前もモタモタしてると遅刻するぞ。シリモチ女!」
「シリモチ女!?」
 あんただってシリモチ男じゃん!
 叫んでやりたかったけど、時既に遅し。
 シリモチ男は遥か彼方へ走り去ってしまった。

「はや……」
 呆然とする私。
 しかし、なにあの態度!
 謝るどころかディスられたし。
「朝っぱらからテンションがローすぎる……」
 腕時計を見ると長針はかなり進んでいる。
 私は学校へ急いだ。


***


「はぁはぁ……着いた~!」

 あれから猛ダッシュして何とか学校に到着した。
 玄関に貼り出されているクラス表を見て自分のクラスを確認する。
「えーと、桜井舞桜は……A組か」
 入学式は体育館で行われるので急いで向かう。

 体育館内に入るとほとんどの新入生が緊張した面持ちで座席に座っている。
「A組、A組はっと……」
 通りまーす、すいません、すいませんと座席に座る生徒に足を引っ込めてもらい、自分の座席へ辿り着く。
 なんとか式の時間に間に合った。
(とはいえ、初日からギリギリセーフとは余裕がないなぁ)
 スタートラインからこけた気がしていまいち釈然としない。

(ダメだ、これじゃ)

 私はここ、天ヶ原学園に優雅で華麗な学園ライフを送るために入学したんだから。
 これではあの時……中学時代と変わらなくなってしまう。

(私はここで、変わるんだ!)

 深呼吸をして気分を落ち着かせる。
 すると、入学式の開始を合図するアナウンスが流れた。
『只今から第八十五回天ヶ原学園高等部の入学式を始めます』

 始まった。
 いよいよ私の新しい三年間が始まるんだ。

 きっと不安なこともあるだろう。
 でも、試練を乗り越えるたび、自分は強くなれる。輝ける。

(がんばろう)
 心の中で決意していると、

『新入生代表及び生徒会長の言葉』

 アナウンスが流れた。
 どうやら私がいろいろ考えている間に式はかなり進行していたらしい。
 それより気になったことがあった。
(え? 新入生なのにもう生徒会長ってこと?)
 新入生代表ということは入学試験で首席ってことだし、しかもいきなり生徒会長って……
「どんだけ凄い人なのよ」
 思わず声に出た。

 誰もがステージに注目するなか、その人物が姿を現した。

「え!?」

 思わず叫んだ。
 切れ長の瞳と漆黒のサラサラヘアー。
 見る者を虜にする華やかな美貌。

 なんと、その人物は今朝ぶつかったイケメン兼シリモチ男だった。

 声をあげた私に気がつくと、シリモチ男は「げ、」と渋い表情を一瞬浮かべたが、次の瞬間にはにっこり、と営業スマイル全開。
 マイクを持つと凛とした声を館内に響かせる。

『僕たち一年生は入学したばかりで戸惑うこともたくさんあると思います。しかし、前に進む意欲を持ち、先生、先輩方の教えを乞いながら、充実した学園生活を送れるよう励んでいきます。また、生徒会長としてより良い学園生活を目指せるように、皆さんのサポートを全力で取り組んでいきたいです』


 新入生代表及び生徒会長、陽波新ひなみあらた


 一礼してステージを降りていく。

 陽波は私と目があうと、誰からも気づかれないように舌をべーっと出した。
 それから何事もなく自分の席に戻っていく。

(むっかー! 何なの!? 私がなにをしたっていうの!!)

 私が激おこしてる中で、パチパチパチ……!! とそこかしこから拍手が湧く。

 こうして入学式は無事(?)幕を閉じた。


 だけど、この学園生活、一筋縄ではいかない気がするのは気のせい!?


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