2 / 3
②
しおりを挟む
塵積貯金箱を使うようになってから優治の人生はガラリと変わった。
誰も優治を嫌なものを見る目で見ない。すれ違えば笑顔で挨拶をしてくれるし、落とし物をすれば拾ってくれる。昼食にはお昼を食べようと優治を迎えてくれた。
学校に行く足取りが弾んだ。玄関では母が微笑み手を振った。
優治は幸せだった。
「ほう、君は“愛”を貯金したのか」
通学路を歩いていると悪魔が現れた。
「……悪いか」
優治が言うと悪魔は「そう喧嘩腰になるなよ!」とニヤニヤ笑った。
「確かに君は周囲の人間から嫌われている。貯金箱を利用して思いきり愛されるのは良いことだ」
「……」
優治は学校へ向かった。悪魔の力のおかげだとしても、今僕は幸せなんだ。悪魔だけがせせら笑いしてればいい。
学校の帰り道、隣の家のおばあちゃんがちょうどポストから夕刊を出していた。
「あら優ちゃん。そんな笑顔で良いことでもあったのかい」
隣のおばあちゃんが嬉しそうに声をかけてきた。
「うん。最近毎日が楽しくて。今日なんか友達ができたんだ」
「そうかい。おばあちゃんも嬉しいよ」
自分のことのように喜んでくれるおばあちゃんに優治も顔を綻ばせる。今思えば、おばあちゃんだけが貯金箱を持つ前から優治に優しかった。誰からも愛されなかった優治の味方だった。
「ばあちゃん、ありがとう」
「どうしたんだい急に」
「あ、いや……いつも僕に優しくしてくれてたのってばあちゃんだけだったからさ。本物のありがたさに気づいたっていうか」
「優ちゃん、友達ができたのよね? 学校の子たちとはうまくいってないの?」
「……ばあちゃん、僕さ」
優治は本当のことを話した。
悪魔に出会ったこと、不思議な貯金箱を渡されたこと、それを使って偽りの幸せを手に入れたことを。
おばあちゃんは細い目を驚きで丸くした。
「……それは優ちゃんの作り話じゃないんだね」
「信じてよ! 僕はばあちゃんに嘘はつかない!」
「そうよね……確か昔そんなお伽噺を聞いたことがあったのを思いだしたんだよ」
「お伽噺?」
「悪魔が人間に不思議な道具を渡してね。それを貰った人間は代償として最後は悪魔に魂を奪われちゃうんだよ」
優治は青ざめた。背中から冷たい汗が伝う。
じゃあ、貯金箱を渡された僕は悪魔に……
おばあちゃんが心配そうに声をかけるも優治には届かなかった。
誰も優治を嫌なものを見る目で見ない。すれ違えば笑顔で挨拶をしてくれるし、落とし物をすれば拾ってくれる。昼食にはお昼を食べようと優治を迎えてくれた。
学校に行く足取りが弾んだ。玄関では母が微笑み手を振った。
優治は幸せだった。
「ほう、君は“愛”を貯金したのか」
通学路を歩いていると悪魔が現れた。
「……悪いか」
優治が言うと悪魔は「そう喧嘩腰になるなよ!」とニヤニヤ笑った。
「確かに君は周囲の人間から嫌われている。貯金箱を利用して思いきり愛されるのは良いことだ」
「……」
優治は学校へ向かった。悪魔の力のおかげだとしても、今僕は幸せなんだ。悪魔だけがせせら笑いしてればいい。
学校の帰り道、隣の家のおばあちゃんがちょうどポストから夕刊を出していた。
「あら優ちゃん。そんな笑顔で良いことでもあったのかい」
隣のおばあちゃんが嬉しそうに声をかけてきた。
「うん。最近毎日が楽しくて。今日なんか友達ができたんだ」
「そうかい。おばあちゃんも嬉しいよ」
自分のことのように喜んでくれるおばあちゃんに優治も顔を綻ばせる。今思えば、おばあちゃんだけが貯金箱を持つ前から優治に優しかった。誰からも愛されなかった優治の味方だった。
「ばあちゃん、ありがとう」
「どうしたんだい急に」
「あ、いや……いつも僕に優しくしてくれてたのってばあちゃんだけだったからさ。本物のありがたさに気づいたっていうか」
「優ちゃん、友達ができたのよね? 学校の子たちとはうまくいってないの?」
「……ばあちゃん、僕さ」
優治は本当のことを話した。
悪魔に出会ったこと、不思議な貯金箱を渡されたこと、それを使って偽りの幸せを手に入れたことを。
おばあちゃんは細い目を驚きで丸くした。
「……それは優ちゃんの作り話じゃないんだね」
「信じてよ! 僕はばあちゃんに嘘はつかない!」
「そうよね……確か昔そんなお伽噺を聞いたことがあったのを思いだしたんだよ」
「お伽噺?」
「悪魔が人間に不思議な道具を渡してね。それを貰った人間は代償として最後は悪魔に魂を奪われちゃうんだよ」
優治は青ざめた。背中から冷たい汗が伝う。
じゃあ、貯金箱を渡された僕は悪魔に……
おばあちゃんが心配そうに声をかけるも優治には届かなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
狭間の島
千石杏香
ホラー
「きっと、千石さんに話すために取ってあったんですね。」
令和四年・五月――千石杏香は奇妙な話を聴いた。それは、ある社会問題に関わる知人の証言だった。今から二十年前――平成十五年――沖縄県の大学に彼女は通っていた。そこで出会った知人たちと共に、水没したという島の伝承を調べるために離島を訪れたのだ。そこで目にしたものは、異様で異常な出来事の連続だった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
隠せぬ心臓
MPE事業部
ホラー
これは江戸川乱歩の命名の元にもなったアメリカの作家 エドガー アラン ポーの短すぎる短編 The Tell-Tale Heart をわかりやすい日本語に翻訳したものです。
#彼女を探して・・・
杉 孝子
ホラー
佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる