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 塵積貯金箱を使うようになってから優治の人生はガラリと変わった。
 誰も優治を嫌なものを見る目で見ない。すれ違えば笑顔で挨拶をしてくれるし、落とし物をすれば拾ってくれる。昼食にはお昼を食べようと優治を迎えてくれた。
 学校に行く足取りが弾んだ。玄関では母が微笑み手を振った。
 優治は幸せだった。

「ほう、君は“愛”を貯金したのか」
 通学路を歩いていると悪魔が現れた。
「……悪いか」
 優治が言うと悪魔は「そう喧嘩腰になるなよ!」とニヤニヤ笑った。
「確かに君は周囲の人間から嫌われている。貯金箱を利用して思いきり愛されるのは良いことだ」
「……」
 優治は学校へ向かった。悪魔の力のおかげだとしても、今僕は幸せなんだ。悪魔だけがせせら笑いしてればいい。


 学校の帰り道、隣の家のおばあちゃんがちょうどポストから夕刊を出していた。
「あら優ちゃん。そんな笑顔で良いことでもあったのかい」
 隣のおばあちゃんが嬉しそうに声をかけてきた。
「うん。最近毎日が楽しくて。今日なんか友達ができたんだ」
「そうかい。おばあちゃんも嬉しいよ」
 自分のことのように喜んでくれるおばあちゃんに優治も顔を綻ばせる。今思えば、おばあちゃんだけが貯金箱を持つ前から優治に優しかった。誰からも愛されなかった優治の味方だった。

「ばあちゃん、ありがとう」
「どうしたんだい急に」
「あ、いや……いつも僕に優しくしてくれてたのってばあちゃんだけだったからさ。本物のありがたさに気づいたっていうか」
「優ちゃん、友達ができたのよね?  学校の子たちとはうまくいってないの?」
「……ばあちゃん、僕さ」

 優治は本当のことを話した。
 悪魔に出会ったこと、不思議な貯金箱を渡されたこと、それを使って偽りの幸せを手に入れたことを。
 おばあちゃんは細い目を驚きで丸くした。
「……それは優ちゃんの作り話じゃないんだね」
「信じてよ!  僕はばあちゃんに嘘はつかない!」
「そうよね……確か昔そんなお伽噺を聞いたことがあったのを思いだしたんだよ」
「お伽噺?」

「悪魔が人間に不思議な道具を渡してね。それを貰った人間は代償として最後は悪魔に魂を奪われちゃうんだよ」

 優治は青ざめた。背中から冷たい汗が伝う。
 じゃあ、貯金箱を渡された僕は悪魔に……
 おばあちゃんが心配そうに声をかけるも優治には届かなかった。
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