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第6章:【スカピー火山のドラゴンの逆鱗】

32.空

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ドラゴンは四方八方に巨体を捻りユーモラスなポーズをとりながら後からやって来たダミ子とマースを見て聞いた。
「あれ?  お主ら友達?」
「どぉあれ(誰)が友達だ!  ここで会ったが百年目、因縁の蹴りをつけたくてしょうがない憎き目の上のタンコブだ!!」
「ああ、まあ、同じ目的を持つライバル的な?」
「僕たちも秘薬をつくるための材料集めとして逆鱗が欲しいんです」
横のタイムをスルーし交互に二人で答える。
「同じ目的とな?  じゃあお主らもワシの逆鱗が欲しいと?」
「うん」
「はい」
「ちょうどいいところに来てくれた!」
ドラゴンは眼光だけを煌めかせ喜びを表現した。

「聞いてたかもしれないがワシはある理由から、ふもとの村の呪い師に【ヨガの呪い】をかけられとる。呪いのせいで自由に動けん。こうなると逆鱗も外してお主らに渡すこともできない。頼む、逆鱗のためにも村に行って呪い師に呪いを解くよう交渉してくれないか!」

お使いクエストが発生した。

「頂上に来たばかりでふもとの村へ降りろだと!?」
火山に登るだけでもミッションなのに、逆鱗は手に入らないどころか、呪いを解くクエストまで頼まれるなんて。
「ね、めんどくさいでしょ」
髪のサイドのリボンを結び直すオレガノが言う。
「生首ごと持ち帰りたくなる気持ちわかるでしょ」
「わかる」
「こらこら」
意気投合する二人の女子たちにマースは咳払いする。「簡単に殺生なんてダメでしょう」
「おお、こっちの青年は物分りがいいのぉ。あっちの金髪青年と違って」
「余計なお世話だ!」
タイムは怒った。

「でも、ある理由からって言ってましたけど、何か呪いにかけられるようなことしたんでしょう?  三年もヨガするくらいの。何したんです?」
「ヨガは婆さん……呪い師の趣味らしい。健康マニアでの。大したことはしとらんよ。ちょいと村の財宝や金貨を盗んだんじゃ」
「なんでそんなことしたんです」
「若気の至り?」
「生首でいいでしょう」
「ごめんて!  反省してるんじゃ!  ただ、謝りに行きたくても呪いのせいで村に謝罪もいけないんじゃ!」

一目見ぬ間にドラゴンはハードなヨガのポーズに変わっていた。
「時間が増すごとに高難易度のポーズになってくんじゃ。このままだと整ってしまう」
「いいことじゃないか」
「……とりあえず。村に行かないと話が進まないですね。一旦そのふもとの村へ向かいましょう」
「まったく。一筋縄じゃいかないな」
「おお二人頼まれてくれるのか!」
「頼まれなきゃアンタだって逆鱗外せないだろ。私たちも手に入らなきゃ困るし」
「感謝する!  ふもとの村の名は【スヤスヤ村】じゃ。頼んだぞ」

クエスト【スヤスヤ村の呪い師に呪いを解かせろ!】

「今から下山かぁ」
「たしかに、ここへ帰ってくることも考えるとキツイですね……」
顎に手をあて唸っているとマースは隣にいるタイムに目線をやる。
「そうだ。タイム。箒貸してくれないか」
「はあ?」
「ダミ子さんとスヤスヤ村まで箒で飛んでいく」
「なぜお前に借りをつくらなくてはならない」
「借りをつくるのはお前だろう?」
マースは意地悪そうに笑う。
「お前のことだからどうせ何もせずここで待ってるんだろう?   僕たちに呪いを解かせて、自分は楽してあっさり逆鱗を手に入れる。さすが、誇り高きネムーニャ人」
「貴様もネムーニャ人だろう!?  俺に喧嘩売ってるのか貴様!?」
「売ってないよ。楽させてやるから箒くらい貸せってこと。ほら貸せ」
「むむむ」
「ちょっと待って!」
今度はオレガノが食いかかってきた。
「あ、オレガノ貸してくれるのか」
「ちっがーう!  なんで箒一本!?  一人一本ずつでいいじゃん?  なんでメガ子と二人乗り?  デート気分なの!?」
「あ、たしかに。ダミ子だし」
「ダミ子さん人間だろ。魔力がない人間は箒乗りこなせないから」
「じゃあ私がメガ子乗っけて飛ぶ! マースは一人兄さんの箒で乗ればいい」
「おい!」
自動的に一人だけ留守番にされたタイムがツッコむ。
「一般人を乗せての飛行はかなり難解だ。オレガノには難しい」
「私ってそんなに信用できないっ?」
「違うよ」
諭すような口調でオレガノの頭を優しく撫で言う。
「危険ことだから、二人危ない目に逢わせたくないんだ。オレガノもダミ子さんも、怪我なんてしてほしくない。でも協力を申し出てくれて嬉しいよ。ありがとな」
背景に薔薇の花が舞うような少女漫画張りの甘い雰囲気。知らんけど。
オレガノは「しあわせ~」と卒倒した。
天然たらしによる効果は抜群だった。
「はあ~。いいよ、持ってけ」
一部始終を見ていたタイムは諦めるようにため息を溢すと、手にした箒を投げるようにマースに渡した。
「話が進むなら交通手段くらい援助してやる」
「サンキュ、タイム」

渡された箒に脚をかけ後ろに乗るダミ子に声をかける。
「しっかり掴まっててください。一般の人にも飛べるように、浮遊の魔法かけます」
「ああ」
詠唱が始まる。途端、足元がふわりと浮いた。慌ててマースにしがみつくように腕をまわす。
「それじゃ!  飛びますよ!」
途端に自分たちの身体は地上から空中へ糸で吊られたように上へ上へ昇っていく。
「う、わ、わ」
みるみるドラゴンの頭上までの高さまで上がっていった。タイムとオレガノが豆粒サイズになっている。
「た、高!」
「絶対僕から手を離さないで。怖かったら目瞑ってていいです。では、いきます!」

ゴー!  

言った瞬間、山の斜面を急降下。
頬にバンバン風が叩くようにあたる。雲を突き抜け眼鏡が曇る。
白衣が空気を吸い羽のように暴れていた。
滑るように頂上から飛んだ斜面は五号目辺りを境に離れ、一気に大空の海に放り出された。
周りは空だけだった。雲がミストのように顔にかかり冷たい。
自分は今、空を翔んでいる。
「すっごいな!  私たち、空を飛んでるのか!?」
「はい!」
「すっっっごいな!?」
「あはは!  すっごいです!」
「すげーっ!!」
興奮気味に叫んでしまう。叫びすぎて笑ってしまう。
空を飛ぶなんて初めてだ。未知の領域だ。
「風がいてーっ!  眼鏡くもる!」
「ダミ子さん珍しく叫んでますね!」
「人を珍獣みたいにいうな!」
吹く風の轟音でかき消されてしまう。マースも大声で返事する。
「このまま町までひとっ飛びです!」
「あーもっと飛んでいたいー!」

「ちょっとー!  なあにアオハルモード入ってんのよあんたたち!!」
隣からたなびくリボンが目に入った。
「オレガノ!?」
「嬢ちゃんついてきたのか!?」
「二人きり上空デートなんて羨ま~し~い~!  私も一緒に飛ぶんだからあ!」
自分たちに並走するようにオレガノが隣に並ぶ。
「えへへへーこれで私も一緒にデート~」
器用に手を離し隣のマースに腕に自身の腕を絡め頬擦りに及ぶ。
「すりすり」
「ちょ、オレガノ、近い近い危ない!」
「あーなんで先行くのよ~!」
「ちょ、早い早い早い!!」

追いかけ追いつかれ。
まるでカーチェイスな空の旅になった。

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