19 / 39
第3章:【世界で一番働き者の爪の垢】
19.夢叶う時
しおりを挟む
睡眠をとり早朝作業場へ戻るとディルたちは机に向かっていた。
「あんたら寝なくていいの……?」
「俺たちに熟睡という概念はねー。仮眠はとるけど」
「さすがテツヤ村の住人ですね……」
「永眠病とは無縁そうだ」
「スリー……? なんだそれは」
「世界を揺るがす眠り病だよ。これにかかるとずっと眠り続けてしまう。それを覚ますための治療薬を作るのにあんたの爪の垢が必要なんだって」
「あ~言ってたな」
だって出会った時に説明したもん。
その時、バタン! と慌てた様子のアシスタント(アフロ)が作業場に入ってきた。
「おい! ディル先生大変だ! “タン・トー”がここに向かってる!」
「先生って言うな! なに!? タン・トーが!? 」
ディルの顔が青褪める。
「締切はまだ先だろ!?」
「奴の伝書鳩が来まして! 午前七時にここに来るって 」
「今六時だぞ!? あと一時間後じゃねーか!!」
「あのすまん、タン・トーとは?」
慌て腐るディルに質問するも奴は心ここに在らずてんてこ舞い。
代わりに通りがかりのアシスタント(モヒカン)が教えてくれた。
「タン・トー、あいつは恐ろしい奴だぜ……」
タン・トー。
村に住む漫画家たちの作業場に締切前に現れ完成原稿を奪い去る死神のような奴ら。
奴らというのは、タン・トーは役職の総称で個人名ではないため。
タン・トーは複数に存在し各漫画家に各一人つき、漫画家の原稿の締切管理や作品のアドバイスをする。
凄腕のタン・トーは一人で何人もの漫画家を受け持ちヒット作を何本も立ち上げている。
漫画がとても好きなので質の悪い原稿を渡すと銃口を突きつけるかコンクリートの海に沈められる。
要約・超怖い。
「なんか裏の世界の香りを感じる人間だな」
「やべェよ……なんで奴が締切関係ない日に……」
「ピンポーン」
ドアの向こうから人の声が聞こえた。
「もう来た! アイツ時間厳守とか言うクセに自分は一時間前に来やがる!!」
「ピンポーン、ピンポ、ピンポ、ピンポーン」
呼び出し音が早くなってる。
狂気を感じめっちゃ怖い。
「はいはーいッ! 今出ますよ!」
ガチャ! とドアを開ける。
「ヨオ」
ドアの先にサングラスをかけた強面の男が立っていた。
ちょび髭にスキンヘッドが光り硝煙の香りが漂う。
奥に一際大きいのが立ってるし。ボディーガードか? こんなの二人いたら確かに怖い。
……ん? “二人”?
「ヨオヨオ」
「なッ!? 貴方は“ヘン・シューチョウ”!?」
奥に立つもう一人を見てディルが驚いた声をあげた。
「嘘だろ!? なんで漫画雑誌を取り締まるボス、ヘン・シューチョウまで!?」
「ヨオヨオ」
ヘン・シューチョウと呼ばれた人物は黒スーツにサングラス、更にはスキンヘッドでキメており、正直タン・トーが小者に思えてしまうくらい裏の住人感が凄かった。
関わりたくない人種殿堂入り決定。
「ヘン・シューチョウ、いったい何の用で……」
「ディル。聞イテ驚ケ」
ヘン・シューチョウの前歯がキラリと光る。金歯!
「デケデケデケデン」
後ろに下がったタン・トーが口でドラムロールを鳴らす。
ごくり。
唾を呑む一同。
「【デビル・ハーベスト】舞台ショー化決定ダ!」
「……え?」
一瞬静まり返る職場……からのディルが悲鳴をあげる。
「ええーーッ!? 舞台ショー化!?」
「なんだそれ凄いのか」
顔を覗かし聞くとディルは興奮気味にダミ子の肩を掴み揺さぶる。
「バッキャロー! 凄いなんてもんじゃねーッ! 漫画だけでなく別の業界からも注目されるんだぞ!? それこそ舞台役者の目にも留まる。役者のファンからも注目される。漫画家にとってショー化は超ステータスなんだよ!」
「そ、そうなのか」
「ウン」
ヘン・シューチョウも満足そうに首肯く。
「オ前、コレカラ我ガ社ノ看板。頑張レヨ」
「信じられない……俺の漫画が……ついにこの日が来たんだ」
いつも強気なディルの瞳が潤む。
「やりましたね坊っちゃん!」
「ショー化で益々評価うなぎ登りですぜ!!」
アシスタントたちが彼に駆け寄り胴上げする。
「凄いですねディルさん。頂点に登り詰める日も近いんじゃ」
「今のうちにサイン貰っとこ」
「二枚よろしくお願いします」
止めるかと思ったら助手もその気だった。
「トイウコトデ。諸々ノ書類提出ト舞台化ノ進行作業。オ前、死ヌホド忙シクナル」
ドサア!
スーツケースから紙の束が床に滑り落ちる。これ全て提出書類らしい。
「締切ト同ジ日提出ナ」
「これ全部、俺の仕事……だと……?」
「マア頑張レヤ」
タン・トーがディルの肩を叩くと、二人は速やかに職場を去っていった。嵐のような人たち。
「……」
無言で床に落ちた資料の束を拾うディルに声をかける。
「これ私らも死ぬほど忙しくなるやつだよな」
「察しの良いヤツは大好きだよ」
この後めちゃくちゃ働かされた。
「あんたら寝なくていいの……?」
「俺たちに熟睡という概念はねー。仮眠はとるけど」
「さすがテツヤ村の住人ですね……」
「永眠病とは無縁そうだ」
「スリー……? なんだそれは」
「世界を揺るがす眠り病だよ。これにかかるとずっと眠り続けてしまう。それを覚ますための治療薬を作るのにあんたの爪の垢が必要なんだって」
「あ~言ってたな」
だって出会った時に説明したもん。
その時、バタン! と慌てた様子のアシスタント(アフロ)が作業場に入ってきた。
「おい! ディル先生大変だ! “タン・トー”がここに向かってる!」
「先生って言うな! なに!? タン・トーが!? 」
ディルの顔が青褪める。
「締切はまだ先だろ!?」
「奴の伝書鳩が来まして! 午前七時にここに来るって 」
「今六時だぞ!? あと一時間後じゃねーか!!」
「あのすまん、タン・トーとは?」
慌て腐るディルに質問するも奴は心ここに在らずてんてこ舞い。
代わりに通りがかりのアシスタント(モヒカン)が教えてくれた。
「タン・トー、あいつは恐ろしい奴だぜ……」
タン・トー。
村に住む漫画家たちの作業場に締切前に現れ完成原稿を奪い去る死神のような奴ら。
奴らというのは、タン・トーは役職の総称で個人名ではないため。
タン・トーは複数に存在し各漫画家に各一人つき、漫画家の原稿の締切管理や作品のアドバイスをする。
凄腕のタン・トーは一人で何人もの漫画家を受け持ちヒット作を何本も立ち上げている。
漫画がとても好きなので質の悪い原稿を渡すと銃口を突きつけるかコンクリートの海に沈められる。
要約・超怖い。
「なんか裏の世界の香りを感じる人間だな」
「やべェよ……なんで奴が締切関係ない日に……」
「ピンポーン」
ドアの向こうから人の声が聞こえた。
「もう来た! アイツ時間厳守とか言うクセに自分は一時間前に来やがる!!」
「ピンポーン、ピンポ、ピンポ、ピンポーン」
呼び出し音が早くなってる。
狂気を感じめっちゃ怖い。
「はいはーいッ! 今出ますよ!」
ガチャ! とドアを開ける。
「ヨオ」
ドアの先にサングラスをかけた強面の男が立っていた。
ちょび髭にスキンヘッドが光り硝煙の香りが漂う。
奥に一際大きいのが立ってるし。ボディーガードか? こんなの二人いたら確かに怖い。
……ん? “二人”?
「ヨオヨオ」
「なッ!? 貴方は“ヘン・シューチョウ”!?」
奥に立つもう一人を見てディルが驚いた声をあげた。
「嘘だろ!? なんで漫画雑誌を取り締まるボス、ヘン・シューチョウまで!?」
「ヨオヨオ」
ヘン・シューチョウと呼ばれた人物は黒スーツにサングラス、更にはスキンヘッドでキメており、正直タン・トーが小者に思えてしまうくらい裏の住人感が凄かった。
関わりたくない人種殿堂入り決定。
「ヘン・シューチョウ、いったい何の用で……」
「ディル。聞イテ驚ケ」
ヘン・シューチョウの前歯がキラリと光る。金歯!
「デケデケデケデン」
後ろに下がったタン・トーが口でドラムロールを鳴らす。
ごくり。
唾を呑む一同。
「【デビル・ハーベスト】舞台ショー化決定ダ!」
「……え?」
一瞬静まり返る職場……からのディルが悲鳴をあげる。
「ええーーッ!? 舞台ショー化!?」
「なんだそれ凄いのか」
顔を覗かし聞くとディルは興奮気味にダミ子の肩を掴み揺さぶる。
「バッキャロー! 凄いなんてもんじゃねーッ! 漫画だけでなく別の業界からも注目されるんだぞ!? それこそ舞台役者の目にも留まる。役者のファンからも注目される。漫画家にとってショー化は超ステータスなんだよ!」
「そ、そうなのか」
「ウン」
ヘン・シューチョウも満足そうに首肯く。
「オ前、コレカラ我ガ社ノ看板。頑張レヨ」
「信じられない……俺の漫画が……ついにこの日が来たんだ」
いつも強気なディルの瞳が潤む。
「やりましたね坊っちゃん!」
「ショー化で益々評価うなぎ登りですぜ!!」
アシスタントたちが彼に駆け寄り胴上げする。
「凄いですねディルさん。頂点に登り詰める日も近いんじゃ」
「今のうちにサイン貰っとこ」
「二枚よろしくお願いします」
止めるかと思ったら助手もその気だった。
「トイウコトデ。諸々ノ書類提出ト舞台化ノ進行作業。オ前、死ヌホド忙シクナル」
ドサア!
スーツケースから紙の束が床に滑り落ちる。これ全て提出書類らしい。
「締切ト同ジ日提出ナ」
「これ全部、俺の仕事……だと……?」
「マア頑張レヤ」
タン・トーがディルの肩を叩くと、二人は速やかに職場を去っていった。嵐のような人たち。
「……」
無言で床に落ちた資料の束を拾うディルに声をかける。
「これ私らも死ぬほど忙しくなるやつだよな」
「察しの良いヤツは大好きだよ」
この後めちゃくちゃ働かされた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる