上 下
7 / 39
第2章:【ナマケモノの爪の垢】

7.ナマケモノの町

しおりを挟む
  全知の森を抜け、ダミ子たちは森から西にある長い砂利道を歩いていた。
「砂利道って妙に体力奪われるんだよなぁ」
「一本道っていうのは迷う必要がなくていいんですけどね……」

ダミ子の発言にマースはうなずく。
道は馬車が通るのか若干舗装してあり、大きな石や尖った石などは無いが、それ以外の部分は手入れなせてなく道を両脇を囲む雑草は伸び放題だ。

スリーピング・ホリックを治す治療薬・メザメールの製法レシピを手に入れたダミ子たちだが自分たちが集めようとしている材料に猜疑心しかなかった。

「こんなんで世界が救われるのだろうか」
「もうその台詞七回目ですよダミ子さん」

誰それの爪の垢や涙などと記されているが、本当にこんなものの集まりで未知の病に対抗する治療薬が完成するのか。
「……完成させるしかなんいんだけどさ」
疑問は無理やり頭の片隅に追いやり材料集めモードに切り替える。

「とりあえず、まず何の材料から集めたらいいんでしょう?」

マースが聞く。

「一番手頃に入りそうなのは【ナマケモノの爪の垢】だろう」

「やっぱりそうですよね。ドラゴンや魔女って響きに比べると一番穏やかそうですし」
「ていうかナマケモノってどこにいるんだ」
二人して頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
爪の垢を採取するのは簡単でもナマケモノ本体がどこにいるのかわからない。

「山とか森とか?」
「木にぶら下がっているイメージですよね」
「だがあの動物泳ぐらしいぞ」
「川や海もあり……なんかいたるところにいる感じがしますよ」
「いっそ普通に町とかに住んでいてくれたらな」
「もう、そんなことあるわけないじゃないですか」

冗談まじりに言うダミ子とそれに呆れた様子で返すマースの目の前を一台の軽トラックが走っていった。

車にしてはゆっくりなスピードでガタゴトと細かい砂利にいちいち車体を上下に震わせている。

あまりにものんびりと通りすぎるそれにダミ子とマースは運転席を見ると二人は驚愕した。

ハンドルを握っていたのはナマケモノだった。
ナマケモノがトラックを運転していたのだ。

トラックはそのまま時速十キロくらいの速さで砂利道を走っていく。その先には看板があった。

よく目を凝らして見ると看板にはこう書いてあった。

『この先まっすぐ~ナマケモノの町~』

「……やっぱりナマケモノも町に住んでるじゃないか」
「……」

***

  軽トラを追いダミ子たちはその先に見えたナマケモノの町に入ることにした。
「これが、ナマケモノの町?」
「人間たちが住む町と全く同じじゃないですか」
驚いたことに、ナマケモノの町は人間の住む町そのものだった。

まず家が建っている。
木製の家が並び、そのなかには丸太を使ったログハウス的なものもある。立派な煙突付き。

町の奥にある広い畑にはこの時期に採れる野菜がたくさん実り、その隣には彩り豊か果物が実をぶら下げていた。なんなら田んぼもあった。水路がちゃんと引かれている。

「ナマケモノの町はちゃんと町だった」
「なんですかその語彙力のない説明は」
「いや、ナマケモノって凄ぇんだなって」
ここが人間の町だと言っても信じられる程の出来だった。

ただ一つだけ気になる点があった。

「なんか、物凄く静かなんだけど」

「外に誰もいない……誰も家からも出てきませんね」

まだ明るいというのに広い町には誰一人いない。物音も一切なく町は静まり返っている。

「まあナマケモノだから昼間っからウロウロしないか」
「いやでも静かすぎません?  生きものの気配がしないっていうか、これ誰も住んでないんじゃないですか?」
「さっき軽トラ運転してた奴いたじゃんか。それに空き家ならもっと家はボロくなるし畑の作物だってこんなたわわに実りっぱなしにならないだろ」

たしかに住民の生活音が聞こえない。
しかしダミ子はこの町の家が空き家とは思えなかった。
空き家にしては住んでいた者たちの温もりが多すぎる。そう、ついこないだまでここで生活していたような。

「おやお客さんかい」

声をかけてきたのは先ほど軽トラを運転していたナマケモノだった。
しおりを挟む

処理中です...