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第1章:グゥスカ王国の薬剤師
5.イジワル妖精の要求
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祖父に別れを告げ、グゥスカ王国を出たダミ子とマースは早速次の旅の目的地を設定することにした。
というか、マースは次にどこへ向かうのか知らずに王国を出ていた。
「薬を調合するのに必要になってくるのは製法……調合の方法だ」
ダミ子が告げる。
「最初の目標は薬の製法レシピを得ること。それがないと始まらない」
「しかしその製法レシピはどうやって?」
「グゥスカ王国から出て北側の森……【全知の森】に精霊が棲んでいる。まずはソイツに薬の調合法を聞く」
「行くあてがあったんですね」
ほっと安堵の息を漏らす隣の助手にダミ子は不満の表情を浮かべる。
「なんだその反応は」
「いや、ダミ子さん何も考えずに勢いで突っ走ってるんじゃと思ってたんで、安心しました」
「失礼な奴だな君は」
そうこう話しているうちに薄暗い森の入口に着いた。
「着いたな」
「鬱蒼としていますね……とても精霊がいるとは思えない」
森に足を踏み入れるといっそう薄暗さが増す。
快晴だった青空は鬱蒼と生い茂る木々に覆い隠され見上げれば濃い緑一面。陽の光も届かない。
目の前はただ暗く、踏みしめる草も湿っていて陰気さを感じる。
「本当にこんなところに精霊なんているんですか」
「こんなところだから精霊はいるんだよ。神秘の精霊は隠れ家が好きだからな」
「さいですか」
「そう」
森を歩いていると小さな泉が出てきた。
森の木で天井は覆われているはずなのに、水面は陽の光を浴びたかのようにキラキラと輝いている。
「不自然に光ってるな」
「そうですね。ここだけ暗い森と相反して輝いてますし」
「これはいるな」
全知の精霊が。
ダミ子はその辺に転がっていた小石を泉に投入した。
「ダダダ、ダミ子さん!? 何やってんですか!!」
「? 精霊を呼んでるんだが。家と違って呼び鈴がないからさ、ドアノック代わりに」
「そんな乱暴なドアノックありますか! 捉え方によっちゃカチコミですよこれ!」
ブクブクブク……
泉の水面から気泡が沸く。
大きくなる泡と共に小さな頭部が出てきた。
その頭部にはタンコブがついていた。
「妾を呼んだのはどこのどいつじゃ……」
森の精霊は投石によって頭を腫らしていた。
完全にやっちまった。
「暇だったから森の泉で水深浴してたら石が降ってきた」
痛い……と頭をさする精霊。涙目だ。
「すいません。お昼寝中のところ急に呼び出しちゃって。全知の精霊さんであってる?」
「いかにも。妾が全知の精霊である」
精霊はキリッとした表情で威厳ありそうな低めの声で答える。
背中に生えた蝶のような透明な羽をはばたかせながら、短い腕と足を組んでいる。
しかし頭のタンコブの主張が激しいため、威厳はない。
「お願いがあるんだ。今、世界中で永眠病っていう奇病が流行ってる。それを治す薬を作りたい。全知の精霊ならレシピを知ってるだろ? どうか教えてくれないか」
「お願いします」
ダミ子とマースは精霊に頭を下げる。
「ダメじゃ」
精霊はぺっと唾を吐き捨てた。
「永眠病の治療薬のレシピは教えん」
「ええ!?」
「なんでさ!」
「お主らの態度が気にくわん」
精霊は言った。
「お主らの、態度が、気にくわん」
もう一回言った。
「ほら~! ダミ子さんが石なんて投げるからぁ!」
マースがダミ子に詰め寄る。
「だ、だってそれが一番手っ取り早いかと」
二人が言いあっていると、精霊が間に入る。
「違う。石じゃない。妾が気にくわんのは」
ピタリ、と止まる二人。
「石が原因じゃない?」
「というと?」
精霊は親指と人差し指で円を作る。
菩薩のポーズじゃない……これは。
「偉大なる精霊をタダ働きさせるとは何事か」
「なるほど金か」
「お賽銭的なものが欲しいんですね」
「図々しい精霊だな(ですね)」
聞こえるようにため息。
「物を頼んでおいて文句を言われる筋合いはないわ!」
怒る精霊。
たしかに言われてみればそうだ。失敬。
「妾だって何か貰えないとやる気でんもん。モチベーションが上がらないもん」
「世界を救う以上に上がるモチベーションがあるかよ」
ダミ子が言うと精霊は「ふん」と鼻で笑った。
「世界と言っても困るのは人間だけだろう? 妾たち精霊は人間がどうなろうと知ったことではない。妾は呑気に泉で暮らすだけじゃ」
「こやつめ! じゃあどうすればレシピを教えてくれるのじゃ?」
「ダミ子さん、喋り方うつってる……」
精霊は森の奥を指差し言う。
「この森の最深部に咲いている“厄除けの花”を採ってこい。それをここに持ってきたらレシピを教えてやっても良い」
「本当だな?」
「あぁ。だが気をつけろよ? 森の奥には魔物がうじゃうじゃおる。迂闊に入って帰らぬ者になった奴も多いからの」
精霊は意地悪そうに笑った。
精霊の試すような態度は気に入らないが、頼み事をする相手の要望は聞かなければならない。
ダミ子はマースに目を向ける。マースは頷いた。
「行きましょう。僕も魔法使いです。魔物くらい追い払ってみせます」
彼の返答に今度はダミ子は頷くと、二人は森の奥へ入っていった。
というか、マースは次にどこへ向かうのか知らずに王国を出ていた。
「薬を調合するのに必要になってくるのは製法……調合の方法だ」
ダミ子が告げる。
「最初の目標は薬の製法レシピを得ること。それがないと始まらない」
「しかしその製法レシピはどうやって?」
「グゥスカ王国から出て北側の森……【全知の森】に精霊が棲んでいる。まずはソイツに薬の調合法を聞く」
「行くあてがあったんですね」
ほっと安堵の息を漏らす隣の助手にダミ子は不満の表情を浮かべる。
「なんだその反応は」
「いや、ダミ子さん何も考えずに勢いで突っ走ってるんじゃと思ってたんで、安心しました」
「失礼な奴だな君は」
そうこう話しているうちに薄暗い森の入口に着いた。
「着いたな」
「鬱蒼としていますね……とても精霊がいるとは思えない」
森に足を踏み入れるといっそう薄暗さが増す。
快晴だった青空は鬱蒼と生い茂る木々に覆い隠され見上げれば濃い緑一面。陽の光も届かない。
目の前はただ暗く、踏みしめる草も湿っていて陰気さを感じる。
「本当にこんなところに精霊なんているんですか」
「こんなところだから精霊はいるんだよ。神秘の精霊は隠れ家が好きだからな」
「さいですか」
「そう」
森を歩いていると小さな泉が出てきた。
森の木で天井は覆われているはずなのに、水面は陽の光を浴びたかのようにキラキラと輝いている。
「不自然に光ってるな」
「そうですね。ここだけ暗い森と相反して輝いてますし」
「これはいるな」
全知の精霊が。
ダミ子はその辺に転がっていた小石を泉に投入した。
「ダダダ、ダミ子さん!? 何やってんですか!!」
「? 精霊を呼んでるんだが。家と違って呼び鈴がないからさ、ドアノック代わりに」
「そんな乱暴なドアノックありますか! 捉え方によっちゃカチコミですよこれ!」
ブクブクブク……
泉の水面から気泡が沸く。
大きくなる泡と共に小さな頭部が出てきた。
その頭部にはタンコブがついていた。
「妾を呼んだのはどこのどいつじゃ……」
森の精霊は投石によって頭を腫らしていた。
完全にやっちまった。
「暇だったから森の泉で水深浴してたら石が降ってきた」
痛い……と頭をさする精霊。涙目だ。
「すいません。お昼寝中のところ急に呼び出しちゃって。全知の精霊さんであってる?」
「いかにも。妾が全知の精霊である」
精霊はキリッとした表情で威厳ありそうな低めの声で答える。
背中に生えた蝶のような透明な羽をはばたかせながら、短い腕と足を組んでいる。
しかし頭のタンコブの主張が激しいため、威厳はない。
「お願いがあるんだ。今、世界中で永眠病っていう奇病が流行ってる。それを治す薬を作りたい。全知の精霊ならレシピを知ってるだろ? どうか教えてくれないか」
「お願いします」
ダミ子とマースは精霊に頭を下げる。
「ダメじゃ」
精霊はぺっと唾を吐き捨てた。
「永眠病の治療薬のレシピは教えん」
「ええ!?」
「なんでさ!」
「お主らの態度が気にくわん」
精霊は言った。
「お主らの、態度が、気にくわん」
もう一回言った。
「ほら~! ダミ子さんが石なんて投げるからぁ!」
マースがダミ子に詰め寄る。
「だ、だってそれが一番手っ取り早いかと」
二人が言いあっていると、精霊が間に入る。
「違う。石じゃない。妾が気にくわんのは」
ピタリ、と止まる二人。
「石が原因じゃない?」
「というと?」
精霊は親指と人差し指で円を作る。
菩薩のポーズじゃない……これは。
「偉大なる精霊をタダ働きさせるとは何事か」
「なるほど金か」
「お賽銭的なものが欲しいんですね」
「図々しい精霊だな(ですね)」
聞こえるようにため息。
「物を頼んでおいて文句を言われる筋合いはないわ!」
怒る精霊。
たしかに言われてみればそうだ。失敬。
「妾だって何か貰えないとやる気でんもん。モチベーションが上がらないもん」
「世界を救う以上に上がるモチベーションがあるかよ」
ダミ子が言うと精霊は「ふん」と鼻で笑った。
「世界と言っても困るのは人間だけだろう? 妾たち精霊は人間がどうなろうと知ったことではない。妾は呑気に泉で暮らすだけじゃ」
「こやつめ! じゃあどうすればレシピを教えてくれるのじゃ?」
「ダミ子さん、喋り方うつってる……」
精霊は森の奥を指差し言う。
「この森の最深部に咲いている“厄除けの花”を採ってこい。それをここに持ってきたらレシピを教えてやっても良い」
「本当だな?」
「あぁ。だが気をつけろよ? 森の奥には魔物がうじゃうじゃおる。迂闊に入って帰らぬ者になった奴も多いからの」
精霊は意地悪そうに笑った。
精霊の試すような態度は気に入らないが、頼み事をする相手の要望は聞かなければならない。
ダミ子はマースに目を向ける。マースは頷いた。
「行きましょう。僕も魔法使いです。魔物くらい追い払ってみせます」
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