スイーツ・トリップ~やっぱりオカシなティーパーティー~

秋月流弥

文字の大きさ
上 下
4 / 6

しおりを挟む
(……あぁ~ダルい。帰りたぁい。早くこんな奴らとは別の場所でスイーツ食べたい)

 メルトは味のしないスイーツを一口、紅茶を一ミリずつ吸いながらメルトはそんなことばかり考えていた。

 先ほどから高笑いに加え自分に対する攻撃的な言葉が増えてきた。言葉の弾丸はメルトの右耳から左耳へ、あるいは左耳から右耳へ突き抜けていく。
 突き抜けているので対してダメージは受けてないがそれにしたって気が滅入る空間だ。
 そもそも同年代のかしましい集まりがメルトは一番苦手だ。

「フィナンシェあと今何分」
「三時二十分です。メルト様まだ始まったばかりですよ」
「地獄すぎる」
「あと二時間の辛抱です。どう過ごしたって時は平等、お茶会も必ず終わります」
「だから死ぬほど長く感じるのが苦痛なんだってば……」

 あーやっぱり来るんじゃなかった。
 こういう時あいつのバカな顔が浮かぶ。ビターとの訳もない憎まれ口の応酬がどれ程気楽か。
「やっぱビターたちについて来てもらえばよかった、なんてことは絶対思わないけど」

 あいつらのことだ。メルトがお願いすれば例え制限ありの会場でも草むらに隠れてでも潜入してくれただろう。
「あいつらが来たらろくなことにならないもん」

 ふ、とメルトが鼻で嗤った先に、


「遅れてごめぇんあそばァせェェぇ~ッ!」


 なんか走ってきた。

 金髪縦ロールに厚化粧がヤバい出で立ちの姫らしき者と不自然なくらいくるくるパーマのかかる牛乳の瓶底眼鏡(髭つき)をかけた燕尾服を着た執事らしき者がやって来た。

「待たせたな!  俺たちトッピング王国の」
「俺たちって言うなバカ者!!」

 執事が金髪ロールの頭をぶった。
「いでェ!  テメー姫に向かって何すんだアア!?」
「バカか貴様は!  どこにそんな挨拶する姫君がいるのだ!!」

 あ。ビターとカヌレだ。

 メルトは不審者が変装した二人であることに秒で気づいた。

「なにこの不審者たち!?」
「怪しすぎるわ!」
「貴方たち何者ですの!?」
 またもや阿鼻叫喚の姫たちにビター(金髪ロール)は怯まない。
「あァ~らご存じなくて?」
 明らかに不自然な膨らみを持つ胸の部分をぶるんッと震わせて金髪ロールの姫(ビター)は裏声で高らかに叫ぶ。

「私《ワタクシ》たちデコレート王国と親交のある由緒正しき離島にある島国【トッピング王国】の者ですわ!」


『はあ?  トッピング王国?』
 その場にいる者たち全員が首を傾げる。

「そう!  私はトッピング王国姫“ヌガー”。隣にいるのは執事の“クグロフ”よ!」

 ぺこりとクグロフと呼ばれた方が一礼する。

「そんな国聞いたことないわ!」
「どこにそんな国があるのよ!  でっち上げじゃないの!?」
 強気に言い返すホイップ姫とアラザン姫に、
「あァらぁぁ?  貴方たち一国の姫なのにトッピング王国の存在を知らないなんてさすが小国。井の中の蛙でげすわねぇ」
 語気も時々怪しいが、プライドをつつかれた姫たちはそれどころでなく、

「は?  し、知ってるわよ。ト、トッピング王国でしょ」
「あぁ!  そんな国あったわね!」

 チョロかった。とんでもなくチョロいわこの人たち。
 姫たちはまんまとビターのノリにのってしまっていた。

「そしてお待たせ、これが私たちトッピング王国の自慢の品【ギリギリシャヨーグルト】ですわ」

 ドーン!
 でっかい容器にただ盛っただけのヨーグルトを出す。僅かにジャム。明らかに市販のヨーグルトにジャムをのせただけだった。

「ちょっと!  何がギリギリシャヨーグルトよ!  ただのヨーグルトじゃないの!」
「適当なこと言わないでちょうだい!」

「オーホッホッホ!  食べてみたらこの美味しさ分かるんじゃなくて?  これが市販と思うなら一国の姫の舌もたかが知れてますわね」

 そう言ってスプーンを渡す。
「そ、そう言われれば」
「市販よりも美味しい気もしなくもないわ……」
 本当に扱いやすい人たちで助かった。プライドが高すぎるのも問題だなとメルトは彼女らを見て学んだ。

「ということで私たち途中からですがお茶会に参加することになったので夜露死苦ゥ!!」
「「「ひいいぃぃぃ!」」」
 がに股でテーブル席まで足を運ぶビターに姫たちは一歩退いた。

***

 よし成功成功!

 姫たちや執事たちの目は怪しんではいるもののなんとか潜入には成功した。
「よ、元気か」
 一番隅に座るメルトの隣に椅子を持ってきて腰かけると、隣のメルトに「アホが」と冷たい目で睨まれた。ええぇー。

「同じ島国なのに存在知らなくてゴメンヨー。仲良くしようナ」
「お、おう」

 グラニュー島の王女がこちらへ来て握手を求めてきた。やべ、こいつも島国だった。
 ほんわかしてるがいまいち油断できない相手だな。敵意がないようだが要注意。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

染まりやすい君へ

秋月流弥
大衆娯楽
変わったTシャツを拾った友人。なんと気分によってTシャツの色が変わるらしく!? ※エブリスタ掲載作品。

聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています

白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。 エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。 早紀に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

7人のメイド物語

モモん
ファンタジー
理不尽な人生と不自由さ…… そんな物語を描いてみたいなと思います。 そこに、スーパーメイドが絡んで……ドタバタ喜劇になるかもしれません。

王子との婚約が決まりましたのでお近付きのしるしにタオルセットを持っていきます。

雪野原よる
ファンタジー
王子と、とても不本意な婚約(仮)の話。  ありそうで絶対にない状況を考えたらこうなりました。  ※表題が全てですが、王子視点です。 

お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰
ファンタジー
村長代理として出かけた アンデッドのジャック。 一晩 野宿して村に帰ろうとしたのだが、 目が覚めると 何故か 人間の女の子が自分の腕枕で寝ていて・・。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...