とある落ちこぼれ魔女の記憶

秋月流弥

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《第4話》(完結)

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 甦るマルロとの日々。
 流れてくる彼との思い出にロイナは涙を溢した。

「どうしてこんな大切なことを……」
 辛い時もあった。
 過去のことを言われ、昔の落ちこぼれの自分を呪った。
 記憶を消し、過去からは離れられても心の虚無が苦しかった。
「貴方との思い出をなくした時の方が何よりも辛かった!」

 ロイナは家を飛び出した。
 マルロに会いに行く。
 時間は大分過ぎてしまったけれど、彼ならまだ私を覚えていてくれる。

 自分を手放した私を怒ってくれてもいい。今さらだって恨んでいてくれてもいい。

 それでも、ロイナはマルロに会いたかった。


 辿り着いたのは懐かしき森の中の丸い屋根の一軒家。ロイナは深呼吸をしてから、ドアをノックした。
「はい」
 中から返事聞こえ、ドアが開いた。
 開いたドアから出てきたのは、一人の男の老人だった。
「どなた?」
 老人はロイナを見てそう問いかける。
 ロイナは目を見開いた。
 そして、時の流れの残酷さ、自分の愚かさを思い知った。
 この老人が誰なのかはすぐにわかった。
 飴色だった髪は真っ白になっているが、青く澄んだ瞳はあの時から何も変わっていない。

「……久しぶりね、マルロ」

    マルロはロイナが誰かもわからないまま家に迎え入れてくれた。

    何から話していいか、迷っていたロイナだったが、やがてかつての彼との思い出を語りだした。


***


「素敵だねぇ」

    全てを話し終えたロイナを見て、マルロはにこにこと優しい笑みを浮かべ、まるで自分のことではないように呟いた。
 彼は経過した時の流れと共に、ロイナとの記憶も失ってしまった。
 話を聞いて微笑む彼に、ロイナは涙ぐみながらも笑顔を見せた。

 おしゃべりに疲れたのか、彼はうとうとと船を漕ぎ始めたのでベッドへ寝かせてあげた。
 子供のようにすやすやと安らかに眠る彼は当分起きそうにない。

 もう、彼がロイナを思いだすことはないだろう。

 例えそうだとしても、彼との日々はロイナの中でいつまでも輝き続ける。
 そのことに変わりはないのだ。
 夕日が沈みかけ、淡い光が二人の頬を優しく照らす。
 温かく柔らかな光を受け、ロイナは優しく彼を見つめる。
「また来るわね」
   そう言い、彼の家を出た。

   小さくなる丸い屋根を見て、ロイナは夜の空に姿を消していった。
   空には星が輝いていた。

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