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《第1話》
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「ねぇ、貴方は覚えてるかしら」
とある森の中の一軒家で、一人の魔女が老人に話しかけた。
日の傾く夕暮れ時、話しかけられた老人は椅子に座りながら優しい表情で魔女を見つめている。
その顔は、何度も見たあの頃の 面影を残していて懐かしい気持ちにさせる。
窓から入る夕日の輝きは薄れていき、微かな淡い光となる。
時期に夜が訪れることを告げられているようだ。
「そうね、どこから話そうかしら……」
魔女は想いを馳せるように、語りだした。
***
評価されることが嫌いだった。
自分がやってきた行いに点数をつけられることが嫌いだった。
他人が他人のことを数値化して採点する。なんて傲慢なことだろう。
能力や肩書き、才能で全てが決まってしまう。
ロイナは魔法学校にいることがとても息苦しかった。
ロイナは落ちこぼれの魔女だ。
筆記も実技も才能も、ほぼ一般の人間と変わらない。試験もいつも赤点で、補習には皆勤賞。魔女としての能力は皆無だった。
それなのに、魔女として魔法学校に通っているのは、ロイナが魔女の家系に生まれ、今は亡き魔法使いの両親を持っているため。それだけだった。
両親は優秀な魔女と魔法使いだった。
だから、生まれてきた子供、ロイナには周囲からの期待が集まる。
しかし、ロイナは教えられた魔法を上手く使うことが出来なかった。
呪文を覚えるのも他の者より時間がかかり、やっと覚えたとしても効果が発揮されなかったり、不発で終わる。
周囲からの期待の眼差しは侮蔑の視線に変わっていった。
「なんであの子が子供なの?」
「あの両親の子供とは思えない」
ロイナはいつの間にか魔法学校の人たちから忌み嫌われるようになった。
深い緑色の木々が囲む森の中にいた。
ロイナは落ち込む時はいつもここへ来る。
この森は魔法学校から離れた所にあり、ここなら生徒たちに見つかることはない。
近くには人が住む町があり、時々薪になる材木を調達しに来た人とすれ違う。
ロイナはそれに何となく安心感を覚える。かえって一人きりでいるより、心地よい。自分と関係のない人が風景となって溶け込むことによって、自分もその風景の一部に溶け込めるような気がしたから。
学校だと、嫌でも落ちこぼれという個人として目立ってしまう。
いつも認識される時は嫌悪という感情が含まれている。それだったら、透明人間のように、認識されずにいる方がマシだった。
「私って、このまま一人きりなのかな……」
一人は寂しい。
透明に、背景として生きたいと願ってしまうのは、負の感情を向けられたくないから。嫌悪を含む視線が怖いから。
本当は誰かと関わりたい。
誰かに愛され、誰かを愛する。
ロイナが一番欲しいものは、そんな普通で当たり前のことだった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
うつむくロイナに声をかけてきた少年がいた。
年はロイナより五つ程離れているくらいか。飴色のふわふわの髪に大きな青色の瞳が幼いながらも美しい。
少年がふわりと笑う。
ロイナは自分に向けられた笑顔に戸惑ってしまう。
「どうして、声をかけてくれたの?」
やっと出た声は緊張していて掠れたようなものだった。
「何でだろう……寂しそうだったから?」
少年はうーん、と考えるように首を傾げる。
ロイナは思った。きっとこの子は考えたりなどせず、ただ眼前の私を心配して声をかけてくれたのだろう、と。
「悲しいことがあったなら聞いてあげる」
初めて純粋な優しさを受け、ロイナの瞳からは涙が零れた。
それが少年マルロとの出会いだった。
とある森の中の一軒家で、一人の魔女が老人に話しかけた。
日の傾く夕暮れ時、話しかけられた老人は椅子に座りながら優しい表情で魔女を見つめている。
その顔は、何度も見たあの頃の 面影を残していて懐かしい気持ちにさせる。
窓から入る夕日の輝きは薄れていき、微かな淡い光となる。
時期に夜が訪れることを告げられているようだ。
「そうね、どこから話そうかしら……」
魔女は想いを馳せるように、語りだした。
***
評価されることが嫌いだった。
自分がやってきた行いに点数をつけられることが嫌いだった。
他人が他人のことを数値化して採点する。なんて傲慢なことだろう。
能力や肩書き、才能で全てが決まってしまう。
ロイナは魔法学校にいることがとても息苦しかった。
ロイナは落ちこぼれの魔女だ。
筆記も実技も才能も、ほぼ一般の人間と変わらない。試験もいつも赤点で、補習には皆勤賞。魔女としての能力は皆無だった。
それなのに、魔女として魔法学校に通っているのは、ロイナが魔女の家系に生まれ、今は亡き魔法使いの両親を持っているため。それだけだった。
両親は優秀な魔女と魔法使いだった。
だから、生まれてきた子供、ロイナには周囲からの期待が集まる。
しかし、ロイナは教えられた魔法を上手く使うことが出来なかった。
呪文を覚えるのも他の者より時間がかかり、やっと覚えたとしても効果が発揮されなかったり、不発で終わる。
周囲からの期待の眼差しは侮蔑の視線に変わっていった。
「なんであの子が子供なの?」
「あの両親の子供とは思えない」
ロイナはいつの間にか魔法学校の人たちから忌み嫌われるようになった。
深い緑色の木々が囲む森の中にいた。
ロイナは落ち込む時はいつもここへ来る。
この森は魔法学校から離れた所にあり、ここなら生徒たちに見つかることはない。
近くには人が住む町があり、時々薪になる材木を調達しに来た人とすれ違う。
ロイナはそれに何となく安心感を覚える。かえって一人きりでいるより、心地よい。自分と関係のない人が風景となって溶け込むことによって、自分もその風景の一部に溶け込めるような気がしたから。
学校だと、嫌でも落ちこぼれという個人として目立ってしまう。
いつも認識される時は嫌悪という感情が含まれている。それだったら、透明人間のように、認識されずにいる方がマシだった。
「私って、このまま一人きりなのかな……」
一人は寂しい。
透明に、背景として生きたいと願ってしまうのは、負の感情を向けられたくないから。嫌悪を含む視線が怖いから。
本当は誰かと関わりたい。
誰かに愛され、誰かを愛する。
ロイナが一番欲しいものは、そんな普通で当たり前のことだった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
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「どうして、声をかけてくれたの?」
やっと出た声は緊張していて掠れたようなものだった。
「何でだろう……寂しそうだったから?」
少年はうーん、と考えるように首を傾げる。
ロイナは思った。きっとこの子は考えたりなどせず、ただ眼前の私を心配して声をかけてくれたのだろう、と。
「悲しいことがあったなら聞いてあげる」
初めて純粋な優しさを受け、ロイナの瞳からは涙が零れた。
それが少年マルロとの出会いだった。
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