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「早く来すぎちゃったな……」
次の日。私はいつも遊んでいる時間より早めに原っぱへ来ていた。
カナタくんと会うのが楽しみでしょうがなかった。
前は一人で遊ぶことが当たり前だったが、カナタがいない原っぱに一人でいると寂しさが募った。
私が一人静かに白詰草の冠を作る練習をしていると、近くから声が聞こえてきた。
「本当なのお母さん?」
「あんたの教え子なんだろう。しっかり指導しなさいよ!」
楓先生の声だ。
怒鳴っているもう一人は誰?
……あれ?
お母さんって楓先生が呼んでるってことは……あの声は園長先生?
そんな、あんな怖い声の持ち主があのいつも優しい園長先生だなんて信じられない。
私は向かってくる足音に警戒しながら原っぱから体育倉庫の裏へ隠れた。
(絶対違うよ、あの声が園長先生なわけない)
でも、私の期待は裏切られてしまう。
体育倉庫の前にやって来たのは園長先生と楓先生の二人だった。
二人は私が倉庫裏に隠れているのに気付いていないため会話を続ける。
「ああ、だからこの倉庫にこれ以上あの園児を来させるわけにはいかない」
あの生徒って……私のこと?
「あのガキは確かにカナタって言っていた。もし、そのカナタって奴があの時殺したガキと同じだとしたら……」
信じられなかった。
園長先生が生徒を殺していた。
しかも殺されたのはカナタという名前の生徒。
あり得ない情報の多さに頭がグルグルする。吐き気さえしてきた。
それでも、私は震える膝を抱え先生たちの会話を聞こうとする。
「こんな倉庫に近づく物好きのせいでこっちが大変だ」
「この倉庫に生徒が入ってるなんて知ったら騒ぎ出すに決まってるわ」
倉庫の中にカナタくんが!?
その時、私は転がっていた木の枝に体重をかけてしまった。
パキン、と乾いた音が二人に周囲に人がいると知らせる合図になるには充分だった。
「誰だい!?」
「ひっ」
思わず声をあげてしまう。
「!! エミちゃん?」
楓先生が私を発見する。
園長先生もそれを聞いてこちらへ向かってくる。
私は恐怖で震えながらも園長先生を睨み付ける。
「カナタくんをこ、殺した……ってどういうこと?」
今なら分かる。
園長先生がいつも倉庫に来ていた理由も。
園長先生は私が心配で様子を見に来ていたわけじゃなかった。
「園長先生が毎日この倉庫に来るのは、隠してるカナタくんを見つけさせないため?」
真実を知って、私はガンガンと体育倉庫の扉を叩いた。
鉄で出来ている扉は当たり前だけど硬く、強く叩きつけた手からは血が滲む。
「カナタくんッ! 返事して! カナタくん!!」
「無駄だよ!! もう何十年も前に死んでるんだ」
「だって! ここで一緒に遊んだもんッ! カナタくん!!」
「いいからこっちへ来い! このクソガキ」
園長先生は鬼のような形相で私を無理矢理ドアから引き剥がす。
私は嫌だと必死で抵抗した。
でも大人の力には敵わない。
園長先生は更に引っ張る力を強くした。
「わッ」
引っ張られた勢いで私は宙へ放り出された。
時間にしたら一瞬だったかもしれないけど、宙に浮く浮遊感は永遠のように長く感じられた。
私が落ちる先には硬く尖った大きな岩があって、あれに当たったら私死んじゃうな、なんて一瞬のうちにそう思った。
避けることの出来ない私は目を閉じることしか出来ない。
全てを諦めた、その時ーー。
頭に来る筈の衝撃はいつまでも来なかった。
その代わり、自分の体を包むのはいつか触れた冷たい体温。
「カナタくん……」
岩の衝撃から守ってくれたのはカナタくんだった。
カナタくんは私を抱えたまま先生たちの方を向いている。
彼がどういう表情で先生たちを見ているか分からない。
カナタくんが来てくれた。
私は緊張の糸が切れたように、そのまま意識を失ってしまった。
次の日。私はいつも遊んでいる時間より早めに原っぱへ来ていた。
カナタくんと会うのが楽しみでしょうがなかった。
前は一人で遊ぶことが当たり前だったが、カナタがいない原っぱに一人でいると寂しさが募った。
私が一人静かに白詰草の冠を作る練習をしていると、近くから声が聞こえてきた。
「本当なのお母さん?」
「あんたの教え子なんだろう。しっかり指導しなさいよ!」
楓先生の声だ。
怒鳴っているもう一人は誰?
……あれ?
お母さんって楓先生が呼んでるってことは……あの声は園長先生?
そんな、あんな怖い声の持ち主があのいつも優しい園長先生だなんて信じられない。
私は向かってくる足音に警戒しながら原っぱから体育倉庫の裏へ隠れた。
(絶対違うよ、あの声が園長先生なわけない)
でも、私の期待は裏切られてしまう。
体育倉庫の前にやって来たのは園長先生と楓先生の二人だった。
二人は私が倉庫裏に隠れているのに気付いていないため会話を続ける。
「ああ、だからこの倉庫にこれ以上あの園児を来させるわけにはいかない」
あの生徒って……私のこと?
「あのガキは確かにカナタって言っていた。もし、そのカナタって奴があの時殺したガキと同じだとしたら……」
信じられなかった。
園長先生が生徒を殺していた。
しかも殺されたのはカナタという名前の生徒。
あり得ない情報の多さに頭がグルグルする。吐き気さえしてきた。
それでも、私は震える膝を抱え先生たちの会話を聞こうとする。
「こんな倉庫に近づく物好きのせいでこっちが大変だ」
「この倉庫に生徒が入ってるなんて知ったら騒ぎ出すに決まってるわ」
倉庫の中にカナタくんが!?
その時、私は転がっていた木の枝に体重をかけてしまった。
パキン、と乾いた音が二人に周囲に人がいると知らせる合図になるには充分だった。
「誰だい!?」
「ひっ」
思わず声をあげてしまう。
「!! エミちゃん?」
楓先生が私を発見する。
園長先生もそれを聞いてこちらへ向かってくる。
私は恐怖で震えながらも園長先生を睨み付ける。
「カナタくんをこ、殺した……ってどういうこと?」
今なら分かる。
園長先生がいつも倉庫に来ていた理由も。
園長先生は私が心配で様子を見に来ていたわけじゃなかった。
「園長先生が毎日この倉庫に来るのは、隠してるカナタくんを見つけさせないため?」
真実を知って、私はガンガンと体育倉庫の扉を叩いた。
鉄で出来ている扉は当たり前だけど硬く、強く叩きつけた手からは血が滲む。
「カナタくんッ! 返事して! カナタくん!!」
「無駄だよ!! もう何十年も前に死んでるんだ」
「だって! ここで一緒に遊んだもんッ! カナタくん!!」
「いいからこっちへ来い! このクソガキ」
園長先生は鬼のような形相で私を無理矢理ドアから引き剥がす。
私は嫌だと必死で抵抗した。
でも大人の力には敵わない。
園長先生は更に引っ張る力を強くした。
「わッ」
引っ張られた勢いで私は宙へ放り出された。
時間にしたら一瞬だったかもしれないけど、宙に浮く浮遊感は永遠のように長く感じられた。
私が落ちる先には硬く尖った大きな岩があって、あれに当たったら私死んじゃうな、なんて一瞬のうちにそう思った。
避けることの出来ない私は目を閉じることしか出来ない。
全てを諦めた、その時ーー。
頭に来る筈の衝撃はいつまでも来なかった。
その代わり、自分の体を包むのはいつか触れた冷たい体温。
「カナタくん……」
岩の衝撃から守ってくれたのはカナタくんだった。
カナタくんは私を抱えたまま先生たちの方を向いている。
彼がどういう表情で先生たちを見ているか分からない。
カナタくんが来てくれた。
私は緊張の糸が切れたように、そのまま意識を失ってしまった。
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