緑色の箱庭

秋月流弥

文字の大きさ
上 下
2 / 4

しおりを挟む
 次の日もカナタくんは原っぱにいた。
 私たちは一緒に四つ葉のクローバーを探す。

 カナタくんは喋らない。
 首を縦に振ったり横に振ったりするだけ。だから返事も「はい」か「いいえ」で答える。
 喋るのが恥ずかしいのかな?
 カナタくんの声を聞くことは出来ないけど、その分カナタくんは表情で答えてくれる。
 大人しいと思っていたカナタくんだけど、思っていた以上に表情は豊かだ。
 嬉しい時は笑ったり、嫌な時は思いきり顔をしかめたり。
 だから、彼が喋らないのなんて何も気にならなかった。
「あ! あった!!」
 私は四つ葉を発見し、声をあげた。
 私が四つ葉のクローバーを掴もうとすると、ちょうどカナタくんも同じように取ろうとして二人の手が重なった。

 その手の温度を感じ、私はゾッとした。

 カナタくんの手は驚く程冷たかった。
 私は驚いて手を引っ込めた。
 私の反応を見てカナタくんは少し悲しそうな顔をする。
「あ……」
 傷つけてしまった。
 ごめん、と謝ろうとした時、私の手のひらがポンと重力で沈んだ。
 手を見ると四つ葉のクローバーが置かれていた。
 カナタくんはにこりと笑った。
 彼は私に四つ葉のクローバーを渡すつもりで採ってくれたんだ。
 それなのに、私は。
「カナタくん、ごめんね。ありがとう……」
『いいよ』
 カナタくんは細い枝で返事を書いてくれた。
 四つ葉が見つかってからも私たちは一緒に原っぱで遊んだ。
 もう私とカナタくんは立派な仲良しの友達になっていた。


 カナタくんの手は相変わらず冷たい。
 私は温かくなれとカナタくんの手を包んで温めたけど、カナタくんの手から温かさを感じることはなかった。
 どうして?
 泣きそうになる私をカナタくんは白詰草の冠を作り、頭に乗せてくれた。
    それから私の頬を口角を上げるように優しく上へ摘まんだ。
『笑って』
 そう口で言っているように聞こえた。
 カナタくんの手は冷たかったけど、彼の優しさがうんと伝わってきて、ひんやりとした手の温度は心地好く感じた。


 次の日もカナタくんを待っていると、先に園長先生に会った。
「あらエミさん。また会ったわね」
 園長先生は嬉しそうににこにこと笑っている。
「カナタくんって男の子を待ってるの」
 友達になったんだ! 私が喋ると園長先生は不思議そうな顔をした。
「今の幼稚園の生徒でここを知っているのはエミさんだけだと思ったわ」
「そうなの? でもカナタくんは……」
「ねぇエミさん。もしかして、その子は部外者かもしれないわ。カナタって名前の子は今この幼稚園にはいないもの」
 部外者の子供が勝手に園に入ってくるのは良くないわ、困ったように園長先生はそう言った。
「エミさんも危ないから、そのカナタくんって子にはあまり関わらない方がいいわ」
「そんな……」
 とても彼がそんな危険な子には見えなかった。
 それに、カナタくんは初めて出来た友達だったのに。
「ごめんなさいね。でも、大事な生徒のエミさんに何かあったら大変だもの」
 園長先生が私を抱きしめた。その温度は温かい。
「それとね、エミさん。この場所のことは他の子には内緒にしておいてね」
「どうして?」
「エミさんの大好きなお花たちが誰かにとられちゃうのは嫌でしょ?」
 少し意外だった。
 優しい園長先生のことだから、私が他のみんなと仲良く出来ると知ったら喜んでくれると思ったのに。

 園長先生がいなくなってから遅れてカナタくんがやって来た。

 あんな話をした後だから、何となくカナタくんと顔が会わせづらい。
 ぎこちない様子の私を見て、カナタくんは『大丈夫?』と心配してくれた。
 こんなに優しいカナタくんが悪い子な筈がない。
「あ、これ! この間励ましてくれたお礼っ」
 私は二つ結びにしていた青色のリボンを一つ解き、カナタくんの手首に結んであげた。
「これあげる!」
『いいの?』
 カナタくんは戸惑うように首を傾げる。
「いいよ! おそろいだね」
 私が笑うとカナタくんも照れ臭そうに微笑んだ。


 園長先生には悪いけど、私はカナタくんの友達だ。
 カナタくんを信じたいし、これからも一緒に遊び続けたい。
 私はこの幼稚園で問題児なのかもしれない。

 でも、それは大切な友達を守るためだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一会のためによきことを

平蕾知初雪
ライト文芸
――8月、僕はずっと大好きだった〇〇ちゃんのお葬式に参列しました。 初恋の相手「〇〇ちゃん」が亡くなってからの約1年を書き連ねました。〇〇ちゃんにまつわる思い出と、最近知ったこと、もやもやすること、そして遺された僕・かめぱんと〇〇ちゃんが大好きだった人々のその後など。 〇〇ちゃんの死をきっかけに変わった人間関係、今〇〇ちゃんに想うこと、そして大切な人の死にどう向き合うべきか迷いまくる様子まで、恥ずかしいことも情けないことも全部書いて残しました。 ※今作はエッセイブログ風フィクションとなります。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

会社をクビになった私。郷土料理屋に就職してみたら、イケメン店主とバイトすることになりました。しかもその彼はーー

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ライト文芸
主人公の佐田結衣は、おっちょこちょいな元OL。とある事情で就活をしていたが、大失敗。 どん底の気持ちで上野御徒町を歩いていたとき、なんとなく懐かしい雰囲気をした郷土料理屋を見つける。 もともと、飲食店で働く夢のあった結衣。 お店で起きたひょんな事件から、郷土料理でバイトをすることになってーー。 日本の郷土料理に特化したライトミステリー! イケメン、でもヘンテコな探偵とともに謎解きはいかが? 恋愛要素もたっぷりです。 10万字程度完結。すでに書き上げています。

五月に囚われる

秋月流弥
現代文学
紫色の花が揺れる。 この季節になると、私は君を思いだす。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうに掲載しています。

降霊バーで、いつもの一杯を。

及川 輝新
ライト文芸
主人公の輪立杏子(わだちきょうこ)は仕事を辞めたその日、自宅への帰り道にあるバー・『Re:union』に立ち寄った。 お酒の入った勢いのままに、亡くなった父への複雑な想いをマスターに語る杏子。 話を聞き終えたマスターの葬馬(そうま)は、杏子にこんな提案をする。 「僕の降霊術で、お父様と一緒にお酒を飲みませんか?」 葬馬は、亡くなった人物が好きだったお酒を飲むと、その魂を一時的に体に宿すことができる降霊術の使い手だったのだ。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

処理中です...