緑色の箱庭

秋月流弥

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 次の日もカナタくんは原っぱにいた。
 私たちは一緒に四つ葉のクローバーを探す。

 カナタくんは喋らない。
 首を縦に振ったり横に振ったりするだけ。だから返事も「はい」か「いいえ」で答える。
 喋るのが恥ずかしいのかな?
 カナタくんの声を聞くことは出来ないけど、その分カナタくんは表情で答えてくれる。
 大人しいと思っていたカナタくんだけど、思っていた以上に表情は豊かだ。
 嬉しい時は笑ったり、嫌な時は思いきり顔をしかめたり。
 だから、彼が喋らないのなんて何も気にならなかった。
「あ! あった!!」
 私は四つ葉を発見し、声をあげた。
 私が四つ葉のクローバーを掴もうとすると、ちょうどカナタくんも同じように取ろうとして二人の手が重なった。

 その手の温度を感じ、私はゾッとした。

 カナタくんの手は驚く程冷たかった。
 私は驚いて手を引っ込めた。
 私の反応を見てカナタくんは少し悲しそうな顔をする。
「あ……」
 傷つけてしまった。
 ごめん、と謝ろうとした時、私の手のひらがポンと重力で沈んだ。
 手を見ると四つ葉のクローバーが置かれていた。
 カナタくんはにこりと笑った。
 彼は私に四つ葉のクローバーを渡すつもりで採ってくれたんだ。
 それなのに、私は。
「カナタくん、ごめんね。ありがとう……」
『いいよ』
 カナタくんは細い枝で返事を書いてくれた。
 四つ葉が見つかってからも私たちは一緒に原っぱで遊んだ。
 もう私とカナタくんは立派な仲良しの友達になっていた。


 カナタくんの手は相変わらず冷たい。
 私は温かくなれとカナタくんの手を包んで温めたけど、カナタくんの手から温かさを感じることはなかった。
 どうして?
 泣きそうになる私をカナタくんは白詰草の冠を作り、頭に乗せてくれた。
    それから私の頬を口角を上げるように優しく上へ摘まんだ。
『笑って』
 そう口で言っているように聞こえた。
 カナタくんの手は冷たかったけど、彼の優しさがうんと伝わってきて、ひんやりとした手の温度は心地好く感じた。


 次の日もカナタくんを待っていると、先に園長先生に会った。
「あらエミさん。また会ったわね」
 園長先生は嬉しそうににこにこと笑っている。
「カナタくんって男の子を待ってるの」
 友達になったんだ! 私が喋ると園長先生は不思議そうな顔をした。
「今の幼稚園の生徒でここを知っているのはエミさんだけだと思ったわ」
「そうなの? でもカナタくんは……」
「ねぇエミさん。もしかして、その子は部外者かもしれないわ。カナタって名前の子は今この幼稚園にはいないもの」
 部外者の子供が勝手に園に入ってくるのは良くないわ、困ったように園長先生はそう言った。
「エミさんも危ないから、そのカナタくんって子にはあまり関わらない方がいいわ」
「そんな……」
 とても彼がそんな危険な子には見えなかった。
 それに、カナタくんは初めて出来た友達だったのに。
「ごめんなさいね。でも、大事な生徒のエミさんに何かあったら大変だもの」
 園長先生が私を抱きしめた。その温度は温かい。
「それとね、エミさん。この場所のことは他の子には内緒にしておいてね」
「どうして?」
「エミさんの大好きなお花たちが誰かにとられちゃうのは嫌でしょ?」
 少し意外だった。
 優しい園長先生のことだから、私が他のみんなと仲良く出来ると知ったら喜んでくれると思ったのに。

 園長先生がいなくなってから遅れてカナタくんがやって来た。

 あんな話をした後だから、何となくカナタくんと顔が会わせづらい。
 ぎこちない様子の私を見て、カナタくんは『大丈夫?』と心配してくれた。
 こんなに優しいカナタくんが悪い子な筈がない。
「あ、これ! この間励ましてくれたお礼っ」
 私は二つ結びにしていた青色のリボンを一つ解き、カナタくんの手首に結んであげた。
「これあげる!」
『いいの?』
 カナタくんは戸惑うように首を傾げる。
「いいよ! おそろいだね」
 私が笑うとカナタくんも照れ臭そうに微笑んだ。


 園長先生には悪いけど、私はカナタくんの友達だ。
 カナタくんを信じたいし、これからも一緒に遊び続けたい。
 私はこの幼稚園で問題児なのかもしれない。

 でも、それは大切な友達を守るためだから。

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