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街へ出かけましょうⅠ
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馬車の窓から風景が次から次へと移り変わっていく。
クリスティアとシフォナードはいつもよりも簡素な服に着替えて馬車に乗り込んでいた。立て込んでいた仕事がひと段落し落ち着いたので気分転換も兼ねてシフォナードと街の様子を見て回ろうと思ったのだ。
母親のテレジアは今頃は王妃とお茶会をしている頃だろう。
「にぎやかだね」
馬車から下り、店舗が軒を連ねる通りをたくさんの人々が行きかう様子を見ていたシフォナードが声をもらす。
ここは王都の中でも特に繫栄している街でいろいろな専門店がずらりと並んでいる。当然人通りも多い。
「そうですわね」
ちょっと物珍しそうにあたりを見回すシフォナードにふっと笑みを零したクリスティアは声をかけた。
「シフォン様はどこか行きたいところはありますか?」
「僕は初めてだからね。あまりよくわからないからクリスに任せてもいいかな?」
「わかりました。では歩きながら気になったお店に入るというのはどうでしょうか?」
「いいね。そうしよう」
クリスティアの提案にシフォナードは即座に頷いた。
ウィンドウショッピングをしながら通りを歩いていく。
窓越しに商品を眺めていると窓に映ったシフォナードの横顔に気付く。優し気でとろけるような表情でクリスティアを見つめるシフォナードに、とくんと心臓が高鳴ったと思ったらクリスティアの顔がカァと赤く染まった。
(やだ、どうしましょう)
火照った頬が恥ずかしくて手で隠していると
「どうしたの?」
不思議そうに首を傾げたシフォナードの顔がすぐ横にあった。至近距離で見つめられてドキドキする。
「いいえ、なんでもありませんわ」
クリスティアは何事もないかのように気持ちを取り繕ろうとしたけれど。
外に出た解放感なのか、やけにシフォナードの仕草に目を奪われる。銀色の髪が太陽の光に照らされてキラキラと輝いている。整っている柔和な顔がいつもよりも神々しく見えてまぶしい。
「クリス?」
立ち止まったまま、ぼぅーと見惚れていたクリスティアにシフォナードが名前を呼んだ。
「……」
「クリス」
「あっ……」
何度か名前を呼ばれてやっと我に返ったクリスティア。
(こんなところで、見惚れるなんて)
「すみません。ボーとしておりました」
「珍しい。クリスでもそんなことがあるんだね」
自分に見惚れていたとは思いもしないシフォナードはクスクスと笑った。
「わたくしも人間ですから、そういうこともございますわ」
人々が行きかう街中でシフォナードに見惚れていたとはいえず、自分の気持ちを悟られたくなくてクリスティアはごまかすように澄まして答えた。
「ところで気になったお店はあったかい?」
「いいえ、ありませんわ」
通りを歩きながら店先を眺めていてもここぞという店舗は見つかっていない。
「じゃあ、もう少し見て回ろうか?」
そう言って差し出された手。
目の前に差し出された手をクリスティアはジッと見つめて、それからシフォナードに視線を向けた。
(ここは手を取るべきよね?)
そうは思うもののクリスティアは迷う。人前で手をつなぐのはちょっと恥ずかしい。周りを見ればちらほらと手をつないでるカップルは見かけてはいた。ラブラブなのねとは思ったものの、まさか自分がその対象になるとは思わなかった。
「迷子になるといけないから」
「迷子? ですか?」
手を差し出したままシフォナードはにっこりと笑っている。からかっているわけではないのだろう。
(ラブラブなカップルくくりではなく、迷子を心配する小さい子ども扱い……ですか?)
変に意識してしまった自分が恥ずかしくなった。
「うん。こんなに人が多くては僕が迷子になりそうだから、手をつないでくれる?」
優しい懇願。クリスティアの反応を窺うような少し緊張した面持ちで言われたら断ることなどできない。
「はい」
差し出された手に恋情はないのかもしれない。それをちょっと残念に思いながらクリスティアはシフォナードの手のひらにそっと自分の手をのせた。
クリスティアとシフォナードはいつもよりも簡素な服に着替えて馬車に乗り込んでいた。立て込んでいた仕事がひと段落し落ち着いたので気分転換も兼ねてシフォナードと街の様子を見て回ろうと思ったのだ。
母親のテレジアは今頃は王妃とお茶会をしている頃だろう。
「にぎやかだね」
馬車から下り、店舗が軒を連ねる通りをたくさんの人々が行きかう様子を見ていたシフォナードが声をもらす。
ここは王都の中でも特に繫栄している街でいろいろな専門店がずらりと並んでいる。当然人通りも多い。
「そうですわね」
ちょっと物珍しそうにあたりを見回すシフォナードにふっと笑みを零したクリスティアは声をかけた。
「シフォン様はどこか行きたいところはありますか?」
「僕は初めてだからね。あまりよくわからないからクリスに任せてもいいかな?」
「わかりました。では歩きながら気になったお店に入るというのはどうでしょうか?」
「いいね。そうしよう」
クリスティアの提案にシフォナードは即座に頷いた。
ウィンドウショッピングをしながら通りを歩いていく。
窓越しに商品を眺めていると窓に映ったシフォナードの横顔に気付く。優し気でとろけるような表情でクリスティアを見つめるシフォナードに、とくんと心臓が高鳴ったと思ったらクリスティアの顔がカァと赤く染まった。
(やだ、どうしましょう)
火照った頬が恥ずかしくて手で隠していると
「どうしたの?」
不思議そうに首を傾げたシフォナードの顔がすぐ横にあった。至近距離で見つめられてドキドキする。
「いいえ、なんでもありませんわ」
クリスティアは何事もないかのように気持ちを取り繕ろうとしたけれど。
外に出た解放感なのか、やけにシフォナードの仕草に目を奪われる。銀色の髪が太陽の光に照らされてキラキラと輝いている。整っている柔和な顔がいつもよりも神々しく見えてまぶしい。
「クリス?」
立ち止まったまま、ぼぅーと見惚れていたクリスティアにシフォナードが名前を呼んだ。
「……」
「クリス」
「あっ……」
何度か名前を呼ばれてやっと我に返ったクリスティア。
(こんなところで、見惚れるなんて)
「すみません。ボーとしておりました」
「珍しい。クリスでもそんなことがあるんだね」
自分に見惚れていたとは思いもしないシフォナードはクスクスと笑った。
「わたくしも人間ですから、そういうこともございますわ」
人々が行きかう街中でシフォナードに見惚れていたとはいえず、自分の気持ちを悟られたくなくてクリスティアはごまかすように澄まして答えた。
「ところで気になったお店はあったかい?」
「いいえ、ありませんわ」
通りを歩きながら店先を眺めていてもここぞという店舗は見つかっていない。
「じゃあ、もう少し見て回ろうか?」
そう言って差し出された手。
目の前に差し出された手をクリスティアはジッと見つめて、それからシフォナードに視線を向けた。
(ここは手を取るべきよね?)
そうは思うもののクリスティアは迷う。人前で手をつなぐのはちょっと恥ずかしい。周りを見ればちらほらと手をつないでるカップルは見かけてはいた。ラブラブなのねとは思ったものの、まさか自分がその対象になるとは思わなかった。
「迷子になるといけないから」
「迷子? ですか?」
手を差し出したままシフォナードはにっこりと笑っている。からかっているわけではないのだろう。
(ラブラブなカップルくくりではなく、迷子を心配する小さい子ども扱い……ですか?)
変に意識してしまった自分が恥ずかしくなった。
「うん。こんなに人が多くては僕が迷子になりそうだから、手をつないでくれる?」
優しい懇願。クリスティアの反応を窺うような少し緊張した面持ちで言われたら断ることなどできない。
「はい」
差し出された手に恋情はないのかもしれない。それをちょっと残念に思いながらクリスティアはシフォナードの手のひらにそっと自分の手をのせた。
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