君の瞳に映る未来

きさらぎ

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出会いは必然?!

歩夢side 2

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「んっ……」

 肌寒さにブルリと震え、僕は目を覚ました。
 目をこすりながら、あたりを見回してみると、机とベッドと本棚と、パイプハンガーには制服とコート。
 いつもの見慣れた部屋の中。
 フローリングに敷かれた絨毯の上で、僕は寝ていた。
 そして、僕の傍らには陽菜の姿。

 何していたっけ?

 まだ、ぼんやりとした意識の中、記憶を手繰り寄せる。
 ふと隣に目をやると、陽菜の手元にスマホが転がっていた。

 あっ!
 そうだ。思い出した。

 新しいゲームアプリを手に入れたから、陽菜に教えたくて来たんだった。
 そしたら、珍しく陽菜の趣味に合ったらしくて、二人で夢中になって遊んでいるうちに、いつの間にか、眠ってしまったらしい。
 記憶が戻って落ち着くとふぅと小さく吐息がもれた。
 そんな僕のことなど気づきもしないで、隣ですやすやと眠っている陽菜。
 眠りが深いのか、一度寝てしまったら、大抵のことでは起きない。
 
 陽菜のスマホを手に取って、画面を開く。
 数件の電話の着信履歴とメールの着信履歴。

 航太かな? それとも部活関係? 
 陽菜の交遊関係はよく知っているから、大体予想はつくけれど、一応確かめてみる。
 一つ、二つと辿っていくと馴染みのある名前が並ぶ。いつものメンバー。
 よし、変化なしかな。
 名前が増えていないことに安堵して画面を閉じようとした瞬間、飛び込んできた名前。タッチしてた指を離してよく目を凝らして見てみる。
  
 白河悠斗
 
 記憶にない、見覚えのない名前。
 誰だ? こいつ。
 字の感じからして……男、だよな。
 知らない男。

 いつの間に、新しい男をスマホに入れたんだよ。

 速攻、着信履歴を消す。
 それから……アドレスと電話番号も消しておく。

 ぐっすりと眠っている陽菜を恨めしい気持ちで、軽く睨んだ。
 
「ったく、高校入った途端、これかよ。ホント、目ぇ、離せねえな」

  あおむけになって、赤ん坊のように、手をあげて眠っている陽菜を見下ろす。
 しっかりと閉じられた瞳。微かにあいた唇。 呼吸と共に上下する胸。

 パジャマ姿で寝息まで聞こえるほどにそばにいる。

 「警戒心なさすぎ。小さい頃から一緒にいるからって、無防備に寝顔をさらしたらダメじゃん。誘っているようにしか見えないよ」

 勝手な理屈をつけて。陽菜のせいにして……
 
 陽菜の力ない指に自分の指を絡めて、顔を近づけて、その唇に触れた。
 ほんのり温かくて柔らかい。

 目を覚まさないように、ゆっくりと唇を離して、若干ドキドキしながら陽菜を見つめる。けれど、瞼も睫毛の一本さえ動かない。起きる気配もない。相変わらず眠ったまま。

「うーん。相変わらず。しっかし、こんな状況でよく起きないよなぁ」

 自分の所業は棚に上げて、勝手なことを言う。

 整った顔立ちに派手さはないけれど、美人というよりは、かわいいという言葉がぴったりの陽菜。
 明るくて、優しくて、僕にはとことん甘い性格。

 僕はもう一度、顔を近づけて口づける。
 さっきよりもしっかりと、唇の甘い感触を何度も味わった。
 
「ホント、よく眠れる。どんだけ、熟睡してんだろ?」

 かなり鈍感な陽菜の唇を指でなでながら、ちょっとがっかりしたりもする。
 いつ気づかれるか、ドキドキ冷や冷やしながらキスをするけれど、今まで一度たりとも起きたためしがない。

「・・・・・・」

 でも、まあ、起きてもらっても困る……けど。
 
 男としての警戒心ゼロ。僕は男のうちには入らない。
 弟だからね。仕方ないけど。
 そんな風に陽菜を育てちゃったからね。今はそれを有効活用する。

 弟だから―― 

 陽菜の部屋にも入り浸れるし、一緒に眠っていても許される。 
 それにしても、陽菜にキスをしているなんて誰も思わないよね。陽菜のファーストキスの相手が僕なんてね。 

 誰も知らない。
 これは、僕だけの秘密。

 僕だけの楽しみ。


 時計を見ると、午前三時近く。もう一眠りできる。
 ベッドから毛布を一枚はぎとって、陽菜に着せ掛ける。電気を消して、僕も同じ毛布にくるまった。
 弟の特権。
 陽菜の身体の温もりが気持ちいい。

「おやすみ」

 僕はぐっすり眠る陽菜の額にキスをして、そっと目を閉じた。  
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