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第二部
ディアナside⑪
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「えっ……そんな……ば、かな……」
驚愕に目を見開いたビビアン様の掠れた声。極限まで開いた瞳には困惑と少しばかり怯えた色が見える。
「あら、公爵家が無関係とでも思っていたの? 赤の他人のメイドの仕業。自分達には関係がない。責任もないと?」
しっかりと見据えたアンジェラは蔑んだ瞳で見つめながら、おかしそうに微笑んだ。
「公爵達は今回の処罰を受け入れたわよ。爵位があるだけでも有難いと頭を下げていたわ」
信じられないという顔をして唇を噛みしめたビビアン様にこちらの方が信じられないのだけれども。まだ、自分の罪を理解していない。
「まさか、公爵家も自分も関係ないと本気で思っていたの?」
アンジェラは大仰に驚いてビビアン様に問いかけた。
ちょっと芝居がかっていて吹き出しそうになったわ。でも我慢我慢。せっかくの雰囲気が台無しになるものね。
「い、え……そ、それ……は」
言葉にならないそれが答え。
メイドの犯行が公爵家に及ぶとは考えもつかなかったのかもしれないわね。なんて、能天気。
メイドの完全なる私怨であれば公爵家とは無関係と言えるかもしれないけれど、今回の件はビビアン様、あなたが関わっているのよ。いつになったら理解してくれるのかしらね。
「フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢誘拐未遂事件はビビアン・シュミット公爵令嬢、つまりあなたのついた嘘が発端なのよ。あなたがメイドに嘘をつかなければ起こらなかった事件なの。まずそれを頭に叩き込んでおいてちょうだいね」
スッと立ち上がったアンジェラは力なく座り込んでいるビビアン様を氷の如く冷たく見下ろした。
「でも、でも、わたくしは……何も……」
半ば放心した状態でブツブツと呟くビビアン様。
「主犯格のメイドと盗賊達は極刑。近いうちに刑は執行されるでしょう。シュミット公爵夫妻と兄家族はそのあとに新しい領地に送られるわ。確か五才の息子と三才の娘がいたわよね。息子の方はリチャードと同い年だから側近になれたかもしれないのに、残念だったわね。男爵では取り立ててあげられないもの」
「あっ……」
「そうでしょう? リチャードは未来の王太子。側近も優秀な高位貴族から選ばれる。爵位を考えればあなたの甥は筆頭候補。わたくしも期待していたのに、本当に残念よ。あなたのお兄様だって期待していたのではないかしらね。それなのに、あなたの愚かなふるまいが甥の明るい未来を閉ざしてしまった。嘆かわしいことね」
「そ、そんな……」
ショックを受けたのか顔を伏せ小刻みに肩が震えている。
少しは事の重大さが分かったのかしらね。本人にとってはたわいもない嘘が犯罪を呼び大きく波紋を広げていく。
「シュミット公爵は男爵に降爵だけれど、でもね、あなたは大丈夫よ。公爵令嬢のまま、籍を置いてあげるわ」
アンジェラの瞳が冷たく輝く。
ここからが本題ね。
「えっ?」
ビビアン様の顔が若干の戸惑いを含んで瞳が揺れた。
自分も男爵令嬢となるのだろうと思っていたでしょうからね。話の流れからすればそれは当然の事。しかし、男爵令嬢では価値が半減してしまうもの。美貌と豊満な体だけでも十分に価値はあるけれど、教養も兼ね備えている極上品。身分が高ければもっと価値が上がる。
「何を驚いているの? わたくしも鬼ではないのよ。さっきも言ったでしょう? あなたが直接事件に関わっているわけではないとわたくしは理解していると。だから、身分はそのままにしておいてあげるわ」
「えっ……あっ……」
許されるとでも思ったのか、戸惑いと喜びが綯い交ぜになった複雑な表情でアンジェラを見つめている。希望の光でも見出したのかしらね。そんなわけはないのに。
「ねえ、あなたの作った夢物語とても良くできていたわ。すごく面白かった。あなたはフローラちゃんのようになりたかったのよね。フローラちゃんに成り代わってレイニーと結ばれる。それを夢見ていたのでしょう?」
「……」
頬に朱が差す。
可愛らしいこと。一途にずっと思い続けていたのかもしれないわね。
「続きを体験してみたくないかしら?」
ビビアン様は訳が分からず目を瞬かせる。
「あの物語の続きを考えてみたのよ。視点を変えて。あなたとレイニーの恋愛が悲恋に終わるかに見えたけれど、あのあと悪役令嬢のフローラちゃんの悪事がばれて断罪されるの。そして、二人は本物の愛で結ばれる。どうかしら?
ベタな展開だけれど、わたくしは恋愛小説はハッピーエンドが好きなのよ」
うふっと微笑むアンジェラに困惑の色を深めるビビアン様。真意を測りかねているよう。これだけでは言いたいことはわからないものね。
「あなたには疑似体験では味わえない本物の体験をさせてあげようと思うのよ。さすがに、レイニーとの恋愛は無理だけれどもね」
地味にビビアン様の心を抉っていないかしら? ちょっと泣きそうな顔をしているわ。
こういうところは可愛らしいのね。恋する乙女っていうのかしら。
ちょっとどうしよう。ビビアン様が可愛く思えてきたわ。いつも高飛車で尊大な彼女ばかりを見てきたから、余計に新鮮に感じてしまう。
だからといって、同情はしませんけどね。
「わたくしね、素敵な娼館を見つけたのよ。あなた、そこに行ってみない?」
驚愕に目を見開いたビビアン様の掠れた声。極限まで開いた瞳には困惑と少しばかり怯えた色が見える。
「あら、公爵家が無関係とでも思っていたの? 赤の他人のメイドの仕業。自分達には関係がない。責任もないと?」
しっかりと見据えたアンジェラは蔑んだ瞳で見つめながら、おかしそうに微笑んだ。
「公爵達は今回の処罰を受け入れたわよ。爵位があるだけでも有難いと頭を下げていたわ」
信じられないという顔をして唇を噛みしめたビビアン様にこちらの方が信じられないのだけれども。まだ、自分の罪を理解していない。
「まさか、公爵家も自分も関係ないと本気で思っていたの?」
アンジェラは大仰に驚いてビビアン様に問いかけた。
ちょっと芝居がかっていて吹き出しそうになったわ。でも我慢我慢。せっかくの雰囲気が台無しになるものね。
「い、え……そ、それ……は」
言葉にならないそれが答え。
メイドの犯行が公爵家に及ぶとは考えもつかなかったのかもしれないわね。なんて、能天気。
メイドの完全なる私怨であれば公爵家とは無関係と言えるかもしれないけれど、今回の件はビビアン様、あなたが関わっているのよ。いつになったら理解してくれるのかしらね。
「フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢誘拐未遂事件はビビアン・シュミット公爵令嬢、つまりあなたのついた嘘が発端なのよ。あなたがメイドに嘘をつかなければ起こらなかった事件なの。まずそれを頭に叩き込んでおいてちょうだいね」
スッと立ち上がったアンジェラは力なく座り込んでいるビビアン様を氷の如く冷たく見下ろした。
「でも、でも、わたくしは……何も……」
半ば放心した状態でブツブツと呟くビビアン様。
「主犯格のメイドと盗賊達は極刑。近いうちに刑は執行されるでしょう。シュミット公爵夫妻と兄家族はそのあとに新しい領地に送られるわ。確か五才の息子と三才の娘がいたわよね。息子の方はリチャードと同い年だから側近になれたかもしれないのに、残念だったわね。男爵では取り立ててあげられないもの」
「あっ……」
「そうでしょう? リチャードは未来の王太子。側近も優秀な高位貴族から選ばれる。爵位を考えればあなたの甥は筆頭候補。わたくしも期待していたのに、本当に残念よ。あなたのお兄様だって期待していたのではないかしらね。それなのに、あなたの愚かなふるまいが甥の明るい未来を閉ざしてしまった。嘆かわしいことね」
「そ、そんな……」
ショックを受けたのか顔を伏せ小刻みに肩が震えている。
少しは事の重大さが分かったのかしらね。本人にとってはたわいもない嘘が犯罪を呼び大きく波紋を広げていく。
「シュミット公爵は男爵に降爵だけれど、でもね、あなたは大丈夫よ。公爵令嬢のまま、籍を置いてあげるわ」
アンジェラの瞳が冷たく輝く。
ここからが本題ね。
「えっ?」
ビビアン様の顔が若干の戸惑いを含んで瞳が揺れた。
自分も男爵令嬢となるのだろうと思っていたでしょうからね。話の流れからすればそれは当然の事。しかし、男爵令嬢では価値が半減してしまうもの。美貌と豊満な体だけでも十分に価値はあるけれど、教養も兼ね備えている極上品。身分が高ければもっと価値が上がる。
「何を驚いているの? わたくしも鬼ではないのよ。さっきも言ったでしょう? あなたが直接事件に関わっているわけではないとわたくしは理解していると。だから、身分はそのままにしておいてあげるわ」
「えっ……あっ……」
許されるとでも思ったのか、戸惑いと喜びが綯い交ぜになった複雑な表情でアンジェラを見つめている。希望の光でも見出したのかしらね。そんなわけはないのに。
「ねえ、あなたの作った夢物語とても良くできていたわ。すごく面白かった。あなたはフローラちゃんのようになりたかったのよね。フローラちゃんに成り代わってレイニーと結ばれる。それを夢見ていたのでしょう?」
「……」
頬に朱が差す。
可愛らしいこと。一途にずっと思い続けていたのかもしれないわね。
「続きを体験してみたくないかしら?」
ビビアン様は訳が分からず目を瞬かせる。
「あの物語の続きを考えてみたのよ。視点を変えて。あなたとレイニーの恋愛が悲恋に終わるかに見えたけれど、あのあと悪役令嬢のフローラちゃんの悪事がばれて断罪されるの。そして、二人は本物の愛で結ばれる。どうかしら?
ベタな展開だけれど、わたくしは恋愛小説はハッピーエンドが好きなのよ」
うふっと微笑むアンジェラに困惑の色を深めるビビアン様。真意を測りかねているよう。これだけでは言いたいことはわからないものね。
「あなたには疑似体験では味わえない本物の体験をさせてあげようと思うのよ。さすがに、レイニーとの恋愛は無理だけれどもね」
地味にビビアン様の心を抉っていないかしら? ちょっと泣きそうな顔をしているわ。
こういうところは可愛らしいのね。恋する乙女っていうのかしら。
ちょっとどうしよう。ビビアン様が可愛く思えてきたわ。いつも高飛車で尊大な彼女ばかりを見てきたから、余計に新鮮に感じてしまう。
だからといって、同情はしませんけどね。
「わたくしね、素敵な娼館を見つけたのよ。あなた、そこに行ってみない?」
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