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第二部
王族の責任Ⅷ
しおりを挟む「本が好きな事はいいことだと思いますよ」
「それはわかっているし、本を読むのは否定はしないけど……」
「でしたら、いいのではないのですか?」
「まあ……」
どこかしら煮え切らない態度で、言葉を濁すレイ様。何が問題なのかしら?
「レイ様が読んでいらっしゃるのはどんな本なのですか?」
気分を変えるつもりで別の話題を振りました。
「これは、我が国の歴史の本。忘れないように時々読み返すんだ」
「歴史ですか?」
表紙には一と記されているので、まだ何冊もありそうです。
「国の成り立ちや貴族の関係。その時代に起きた様々な事件や出来事を知っておくことも大事だからね。そのほかにも勉強しなきゃいけないことはたくさんあるから、いろんなものに目を通しておくんだ」
「勉強家なのですね」
仕事もお忙しいでしょうに、勉強もしていらっしゃるんですね。一通りの知識習得ではよししない方なのでしょう。
「俺は王子として王宮に残ることが決まっているし、エドワード兄上が即位した後は王弟として補佐する役も決まっている。だから、知識を蓄えておかないとね」
「そうなのですね」
国王を補佐する役って大役だわ。
現国王陛下の退位の話は聞こえてこないので、王太子殿下が即位するまでは、まだ期間はあるのでしょうけれど。確かに付け焼刃の知識では通用しないこともあるでしょうし。勤勉なだけではなくて責任感も強い方なのね。
今までとは違ったレイ様を知ったようで新鮮な気持ちになりました。
「今度はこれ」
選び終えたのかリッキー様が私の膝の上に本をのせました。エイブは四、五冊の本を抱えています。
もしかして、あれを全部読んでほしいのかしら。
レイ様はリッキー様を見つめ、エイブの腕の中の本を見つめ、さらにさらに大きな溜息をつきました。
「申し訳ございません」
何かを察したらしいエイブが、レイ様に、そして私に頭を下げます。
ここはとことんまでリッキー様につきあうしかないのでしょう。本を読むのは好きですから、苦になることはありません。
「レイ様?」
調子に乗ってとか、子供の特権が、とか、ブツブツと独り言を呟いていますが、大丈夫かしら。
「レイ様」
もう一度呼ぶと、やっと気づいてくれたようです。
「ああ、ごめん。しょうがない、リッキーのわがままにつきあってくれる?」
何を言っても引かないであろうリッキー様に、渋々ながらも折れたようです。子供のおねだりには勝てませんものね。
「私も本は大好きですから、お気になさらなくても大丈夫ですよ」
笑顔で答えると、レイ様は少しだけ複雑そうな顔をした後、頷いてくださいました。
二冊目はどうやら図鑑のようです。海の生き物がたくさん描かれていて、それぞれ説明書きがあります。
自領は海に面していないので、行ったことはありません。どんな生物が住んでいるのでしょう。初めて見る図鑑を二人で楽しみます。
珍しい生き物に興味を惹かれつつ夢中になっているときでした。
「レイニー殿下。よろしいでしょうか?」
セバスの声がしました。彼は執務室にいたはずですが、ここに来るということは急用なのでしょうか。
「なんだ」
少し不機嫌な声を出したレイ様でしたが、人前では話せないことなのでしょう。立ち上がると見えないところへとセバスとともに行ってしまいました。
気になりながらも、リッキー様と図鑑を眺めていました。しばらくして、やってきたレイ様は渋い顔をしています。
「ちょっと仕事が入って、三十分後に人と会うことになったから、しばらく席を外すけど、すぐに終わると思うから、帰って来るまで待っててほしい」
そう言い残してレイ様は図書室を出て行きました。
ポツンと一人取り残されていたように、レイ様がいなくなった部屋はなぜだか広く感じてしまいます。
本当は仕事が立て込んでいたのではないかしら。私の相手をするために、無理に時間を空けてくださっていたのかもしれません。
このまま待つのも申し訳なくて、これからどうしようかと悩みました。
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