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ディアナside③

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 フローラの次の婚約者に白羽の矢が立ったのがレイニー。
 わたしが推薦したんだけれどもね。ローズ様もすぐに乗り気になってくれたわ。だからガーデンパーティーも急遽開催してくれたのよ。その日に二人を会わせる目的でね。それとエドガーに会うことも目的の一つだった。

 それにしてもまさか、わたしたちの与り知らぬところでフローラとレイニーが知り合いになってるなんて思いもしなかったわ。これって、まさしく運命の赤い糸よね。
 レイニーなんて、愛称で呼ばせたあげく、次の日なんて二人で昼食を取る手筈を整えていたんだもの。ちゃっかりしてるわ。

 わたしはあの日のことを思い出しながら、紅茶を飲んでナッツがのった豪華なチョコレートケーキを頂いた。フローラも落ち着いたのか紅茶を手にしている。

「これ、すごくおいしいわ」

 チョコレートケーキだから重そうに見えたけれど、口に入れたらふわっとクリームが蕩けていった。

「このチョコレートケーキ、新作なのよ」

 ケーキの断面を見るとココアのスポンジケーキと二種類のクリームの層がいくつも重なっている。表面はチョコレートでコーティング、トッピングにはアーモンドとキャラメリゼされた三種のナッツ。そのうえに金箔があしらわれている。ゴージャスすぎるわ。

「新作? まだ何かやってるの?」

 ちょっと自信ありげに微笑んでいるフローラに疑問を投げかける。

 テンネル家との契約は解消になったと聞いていたはずだけど。
 彼女がテンネル家のために複数の仕事を引き受けていたことは知っている。すでに出来上がって商品化するだけに準備されていたものもあったとか。
 
「ええ、今度お母様がスイーツとカフェのお店をオープンするんですって、だからそれのお手伝いをすることになったのよ。このチョコレートケーキは一度作ったものをアレンジしたものなの」

「シャロン様が?」

「そうなのよ。なんでもケーキ好きが高じて、自分の好みのケーキが食べたくなったらしくて。それでね、カフェも一緒にオープンして、私が開発した商品も出してくれることになったの」

「そうだったのね。それにしてもシャロン様、バイタリティーあるわね。ドレスのアトリエだって忙しいって聞いているのに」

「でしょう? お母様ってば、大張り切りなのよ。今日は店舗を探してくると言って出かけているの。テンネル家との話がなくなってすべて白紙になってしまったから、私が開発した商品の行き場がなくなってしまったけど、お父様とお母様が居場所を作ってくれたからとても感謝しているの」

 フローラは少し寂し気で嬉しそうで複雑な気持ちが交錯したような表情で語ってくれた。
 彼女の努力が報われるのならばよかったわ。
 
 自分の研究の傍ら、嫁ぎ先のテンネル家のために身を粉にして働いていた。時には現地にも足を運んで領民や従業員とも交流を図っていると聞いていた。
 エドガーも同行していたけれど、一緒に頑張るどころか全部フローラに丸投げして遊んでいたとか……サイテーの男よね。
 
 濃紺の髪に深みのある翡翠の瞳。それと透明感あふれる白い素肌。
 真珠のように輝いているすっぴん素肌は、実際見てみないとわからないから残念ね。

 目鼻立ちがはっきりしているタイプではないけれど。
 例えばローズ様が艶やかに咲く大輪の薔薇ならば、フローラは森に咲く可憐な野ばら。派手で目立つわけではないけれど、姿を見れば瑞々しい清楚な美しさにみんな目を止めるのよ。大輪の薔薇と清らかな野ばら。どちらも美しい。美しさの種類が違うだけ。

 その魅力に気づかなった哀れな人間がエドガーよね。
 地味やら暗いやら、華がないやら、散々馬鹿にしていたものね。聞くに堪えなかったわ。フローラもよく我慢してたと思うわ。わたしだったら、とっくに自分の方から婚約破棄を突きつけているわよ。

 エドガーとリリア。あの二人わかっているのかしらね。
 国の宝、宝玉と謳われている天才少女フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢との婚約破棄の件で王家の心証は最悪でテンネル侯爵家の評判はがた落ちなのに、ガーデンパーティーでの度重なる失態。
 ちょっとやそっとでは挽回は無理だと思うわよ。これから思い知るんじゃないかしら。

 一気に奈落の底に突き落とすことは簡単だけれど、それだけではちっとも面白くないしね。しばらくはあなたたちの様子をじっくりと見させてもらうわ。来たる日のためにね。楽しみにしておくといい。

 
 そんなことよりもフローラのことが大事だわね。
 幸せになってほしいもの。
 レイニーのこと、全力で応援するわ。
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