五仕旗 3rd Generation

旋架

文字の大きさ
上 下
17 / 56
§1 六繋天邂逅編

固有ターン#7 Part1

しおりを挟む
「今日は来てくれてありがとう」

「おう…」

「…」

充快と知介は風増に話があると言われ、彼の家に招かれていた。
無論、先日金貨が言っていたことについての話である。

「話が長くなるから、誤魔化さずに結論から言う。
俺が層上と知介さん、二人の六繋天りくけいてん目当てで近づいたのは本当のことだ」

二人はかすかに反応した。

「六繋天が古くから人々と闘ってきた悪意あるモンスターだっていうのも本当のこと…と俺は子どもの頃から嫌というほど聞かされてきた」

「聞かされてきた?」

知介がたずねる。

「うん。ウチは、鞍端家は代々、六繋天を監視してカードに秘められたモンスターが暴走しないようにするのが家業なんだ。
俺は物心ついたころから、その使命のために英才教育を受け、五仕旗だけでなく、武道や学問の道も極めてきた。
カードゲームのために人生をかける一家なんて、笑っちゃうだろ?」

二人は表情を変えず聴いている。

「世間で五仕旗は単なるゲームの一つとしかとらえられていないけど、その実、五仕旗ははるか昔に人間とモンスターが共存していた時代を元にしたゲームなんだって」

「人間がモンスターと共存?」

「人間はモンスターをカード化して、より住みやすい環境を与えることで、人間にはないモンスターの力を借りていたそうだ。
その時代の五仕旗は、現代でいうスポーツと同じような感じで、人々の娯楽として浸透していたんだって」

「俺が五仕旗を始めた頃、鞍端が話してたことも本当だったんだ」

「資料や言い伝えは時代とともに風化して、はっきりしたことは分からないからあくまで推測だけどな。
現代のルール、3rd Generationだって、時代の中で形を変えていった結果だって聞いてる」

「じゃあ、このデッキのモンスター達も実際に生きてるっていうのか?」

「誰も本当のことは分からない。少なくとも鞍端家には、そういう話が語り継がれてる。
たとえ事実だとしても、カードの販売元はそれを否定するだろうけどな」

「それで、それと六繋天とどう関係があるっていうんだ?」

「さっき言ったように、人とモンスターはある程度は協調する関係にあった」

「ある程度は?」

「モンスターの中には、人間との協力を好まないモンスターも居たんだよ。人間の中にだって、自分勝手な奴はいるだろ?」

「確かに」

「やがてそれらの悪意あるモンスターと人間との戦いが始まった。人がモンスターを鎮めても、モンスターはまた復活を遂げ、また人との戦いが始まった。そうやって封印と再生を繰り返し、俺たちが生きている現代の封印の形が、二人や金貨が持っている六繋天。
六繋天はモンスターの悪意が6枚に分散した状態。
一堂に会すれば、人はその力に対抗できず、やがて世界は滅ぼされる」

「!?」

「最後に人がモンスターを封印したのがいつかは分からない。だがその時も、六繋天が再び災いを招かないように、厳重な対策がなされていたはずなんだ。それなのに、六繋天はバラバラになり、何も知らない人の手に渡ってしまっている。
モンスター達が再び出会い、凶悪な力を使おうとしているからだ」

「でも、それだけ厳重に管理しているのに散り散りになるっておかしくないか?」

「俺の家のように、六繋天を監視する家系が他にあったとして、時代の中で徐々に危機意識が薄れていくのか、それとも六繋天が封印の中で何らかの力を得て発揮しているのか…
俺だって、昔のことを全部知ってるわけじゃないから、人のことばかり言えないけど…」

風増が続ける。

「六繋天を持つ者は、いつしかその悪意に染められ常軌を逸した行動をとるようになる。行く行くは人が人を滅ぼすことになりかねない。だから、六繋天は人の手に渡ってはならないものだと俺は言われ続けてきた。
どこにあるかも分からない六繋天を探すことは容易なことではなかったけど、ここにきてやっと見つけることができた」

「お前は俺たちを騙してカードを奪おうとしていたのか?」

「最初はそのつもりだった。
六繋天は、六繋天を手に入れようという強い意志を持ち、かつ、五仕旗で勝利したものへと移動する」

「充快が勝った時にカードが移動しなかったのは、充快が六繋天を欲していなかったから…」

「俺は二人を倒してカードを…
人のものをとることは悪いことだけど、長い目で見ればそれが正しいと思っていたんだ。
今は何もなくても、やがては六繋天の力で暴走するようになるから。
だけど今は…
俺には二人がそんなことをするようには思えないんだよ!」

「風増…」

「そして俺は思った。
六繋天が善良な人を悪意に染めていくんじゃなくて、実際は逆なんじゃないかって」

「逆?」

「六繋天はその人間が持つ悪意に反応して、それを助長させているだけなんじゃないかと。
現にこの前の勝負で、金貨のモンスターは会場を荒らすほどの力があったけど、二人のモンスターの攻撃からは、金貨のモンスターのような衝撃はなかった」

「使う人間によって変わるってことか」

「だから…だから、勝手なのは分かってる。
けど、二人には俺と一緒に六繋天を集めるのに協力してほしいんだ!
金貨の【ケルベクロスブリード】。
あのモンスターの固有ターンは7だった。
俺は今まであんなカードを見たことはない。
もしかしたら、モンスターの悪意はこれまでにないほど強くなっているのかもしれない!
六繋天に対抗するためには、どうしても六繋天が必要なんだ!
だから、頼む!」

風増が頭を下げる。

少し考えた後、知介が口を開いた。

「俺は別にいいよ。世界が滅ぶとかモンスターが実在するとか、いきなりで意味わかんねぇってのが正直なところだけど、大企業のボンボンが血眼になってカードを奪おうとしたり、カードを探すために子どもに英才教育を受けさせたり、嘘と決めつけるにはあまりにも規模がデカいからな」

「ありがとう」

「そんなの勝手だよ…」

ずっと黙っていた充快が話し始めた。

「結局、鞍端は俺に嘘ついてたってことじゃん。
カードやろうって、一緒に遊ぼうって誘って、用が済んだら自分が欲しいものだけって、居なくなるつもりだったんでしょ?
結局は俺からカードるために、俺に五仕旗を始めさせたってことじゃん!」

「充快、そんな言い方…」

充快が声を荒らげる。

「仮に俺が六繋天を全部集めるのに協力したって、それは最後に俺の【蒼穹の弓獅】がお前にとられるってことだろ!
この前の金貨との勝負だって、もし俺が負けてたらどうなってたか分からないじゃないか!」

「だからそうならないように、一緒に六繋天を鎮めてくれって頼んでるんだろ!」

風増が言い返す。

「俺はただ五仕旗を楽しみたいだけなんだ!
そんな危険な争いに巻き込まないでよ!」

そう言うと充快は家から出て行ってしまった。

「つい熱くなってしまった…」

「気にするなよ。お前も今までたいへんだったんだろ?」

「…」

しばらくして風増が切り出した。

「子どもの頃からずっと六繋天は危ないって教え込まれて、最近になってようやくそのカードを見つけて。
高校生でカードゲームが好きって言うだけでも笑われることがあるのに、カードが世界を滅ぼすかもしれなくて、それと戦うために生きているなんて誰にも言えなかったし…
今まで黙っててごめん。知介さんは怒ってないの?」

「怒ってない。気持ちは複雑だけどな。
俺さ、初めてお前と五仕旗で勝負した時、嬉しかったんだよな」

「え?」

「【ドランチャー・サブマリンド】は、ガキの頃、小さな大会の賞品として手に入れたカードだった。俺はそれが嬉しくて、デッキに入れて使ってたんだけどさ。
負けなしの俺に、周囲の目は冷ややかだった。連中いわく、そんなカードに勝てるわけがないらしい。
今思えば、世界を脅かすほどのカードなんだから、当然といえば当然だな。
でも俺は、あいつらのそういう態度が気に入らなかった。自分が強いカードを手に入れれば万々歳のくせに、他人のこととなると途端にひがむ」

風増は黙って聴いている。

「だから俺は、他人と距離を隔てることにした。
表向きは人の輪を広げながら、他人との関係は自分が生きるためにだけあればいいと言い聞かせて、自分の思いや考えを人に分かってもらおうとすることをやめた。
五仕旗は一人じゃできなくても、デッキは一人でも作れるしな。
【ドランチャー・サブマリンド】は好きだからデッキに入れてるんじゃなくて、強いから入れてるんだって、表面上はそう振る舞った。
その方が周囲の聞き分けもいいし、角も立たない。
だけどあの日…」

風増と初めて会った時のことを回想する知介。

「お前は【サブマリンド】を見ても、俺の強さをカードのせいにはしなかった。俺に負けたのを自分の弱さだと受け入れていた。
確かに、お前は【サブマリンド】のことを元々知っていたのかもしれない。
それでも、世の中にはこういう人間もいるんだってことが分かって、救われたんだよな」

「六繋天をすべて探し出すことができたその時、知介さんは【ドランチャー・サブマリンド】を俺に渡してくれる?」

「ああ、いいよ。
別れは辛いだろうけど、平和のためなら割り切るしかないからな」

「あんた、大人だな」

「大人だもん」

「層上は、もう俺たちとは…」

「あいつは驚いただけだよ。
ただ楽しいだけのゲームが、一転して世界の命運どうのこうのだ。
前の金貨との勝負のこともあるし、今は整理する時間が必要なんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五仕旗 Media=II Generation

旋架
ファンタジー
人とモンスターがともに生き、支え合うその時代。 人がモンスターをカード化し、力を借りるようになった時代から長い時が流れ、両者の関係はさらに強くなった。 五仕旗。 モンスターを召喚し競い合うそのカードゲームは、人とモンスターの生活の一部として当然のものになっていた。 流導類清は、とある目的のため、モンスター達とともにそれぞれの国を巡る旅をしていた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...