闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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「ごめんね。春陽くんに会えて嬉しくて叫んじゃった。あはは・・・。」

「春陽くん顔色が良くなって良かった。この間は夜だってのもあったけど、あまり顔色は良いようには見えなくて一寸心配だったから・・・。」

「すいません・・・。」

「春陽、そういう時は‟有難う”でいいんだよ。別に謝って欲しいわけじゃないからね。」

「はい、あっあの、有難う御座います。」

お礼を言う春陽の頭を撫でると少し照れくさそうに笑った。
最初に比べて表情が豊かになって来ている、もっと笑顔が増えたらいいんけどもう少し時間が掛かるかな?

「眞一君はいいなぁ・・・。」

「浜本さん?」

「いやぁ、私はβだけど君が優秀なαだって事は判る。だけどね!君の周りには可愛らしいΩがいっっっっっぱい居るじゃないか!!」

ゴン!

「いっ痛い!?」

鋭いツッコミが入る。
まッまな板!?それでツッコんだら下手したら死ぬぞ・・・。春陽も怯えてしがみ付いているけどこれは、旦那の心の叫びに怯えているのか、奥さんのツッコミに怯えているのか・・・両方か。

「本当にごめんねぇ。春陽くんは駿二くんと違って可愛らしいわね駿二くんは美人さんだから、本当に可愛いなぁ小動物みたい♪小さい頃の駿二くんもこんな感じでよく眞一君にくっ付いていたのが懐かしいわ。」

駿二も小さい頃から可愛くてよく狙われていた(浜本さんではないよ)。だから外を歩く時は俺達の側を離れずくっ付いていた、高校に入っても俺と腕を組んだりしていたが恋人が出来てからは俺と腕を組んでくれなくなったのが淋しかった。

「いてて・・・、それで今日は何だい?」

「今日は干物が欲しいんですが何があります?」

「干物は・・・今日は鯵に金目に、あっそうそう!マスターが好きなほうぼうもあるよ。どうする?」

「じゃあ、ほうぼう4枚でお願いします。」
「あいよ。」

「ほうぼう?」

「知らないかい?ほうぼうはこれだよ。」

奥さんが実物を見せてくれた。

「これはね、カサゴ分る?カサゴの仲間でこのヒレを使って海底を歩く様に移動するんだよ。これの干物がじぃさんが大好きでねぇ有れば必ず買う様にはしている。」

春陽は不思議そうにほうぼうを見ている確かに不思議な魚ではあるな、美味いけど。不細工な魚は美味いのが多い様な気がする。

ここの干物は浜本さんの手作りで前日に上がった魚によって毎回違うがどれも美味い、俺は洋食も好きだがやはり日本食の方が好きなので、朝食は必ず米を食う!

干物を買い、次はお肉屋さんに向かう。
途中ジョンが子供に捕まってたが相手はいつもの子なのでジョンに任せて肉屋に向かった。

「こんにちは。」

「いらっしゃいませ。あら眞一君と春陽くんだったかしら?2人でお買い物?」

「はい。今夜は春陽が作ってくれるので材料を買いに。ね。」

「まぁ、いいわね。春陽くん何を作るの?」

「えっと、あの、・・・白菜と豚バラのお鍋。」

「あぁ!あれね、美味しいわよね。私も白菜の時期はよく作るわよ、簡単でカサがあるから食べ盛りの息子が居るから助かるのよ。っで豚バラでいいのかしら?量は4人・・・αが2人にΩが2人だとこれで足りる?」

「春陽?」

「あっはい。お願いします。えっと・・・はい。」

俺が頷くとおどおどしているけど何とか注文出来た。これならこれから一人で買い物に来ても大丈夫だろう、後は俺が淋しさに耐えるだけだ!頑張れ俺!!

「ほい、待ってる間これでも食べてな。」

旦那さんがコロッケをくれた。
ここのコロッケは地元で大人気のコロッケだ。ここの子供達はこのコロッケで育ったと言っても過言ではない位だ、今が3代目だから親の世代からきっとこれで育っているだろう。

春陽は困った顔をして俺を見ている、貰っていいのか判らないのだろう。

「春陽、貰っていいよ。ここのは美味しいよ、お花見の時に食べただろ?あれはここのコロッケなんだよ。」

「あれは美味しかったです。」

「そうかい?嬉しいなぁ。ほらこれどうぞ。」

「えっと、有難う御座います。」

「どういたしまして。」

貰ってどうしようかと俺を見たら食べてたのにビックリしたのだろう、春陽の中ではその場で食べる事は考えてなかったみたいだ。しかし、驚いた顔も可愛いなぁ。

買った肉を荷車に乗せたクーラーボックスに入れてぶらぶらと商店街を見ながら帰る。春陽は見る物見る物が全て初めての様で終始目を輝かせていたが、未だ未だそれを表に出すのは苦手そうだ。


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