闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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ジョンは尻尾を楽しそうに振りながら荷車を引ている。
ジョンは賢い仔だから商店街に行くと言えばリードを着けなくても自分で向かう。

「あのー、ジョンさんはどこに行くか解っているのですか?」

「んっ?あぁ、荷車を引いている時は買い物に行く時だから行く場所は限られている、それに家を出る時に商店街に行くと伝えてあるから真っ直ぐ向かうよ。」

「ジョンさんは本当に賢いですね。」

ジョンは自分の事を話してるのが分るのか更に尻尾を振って嬉しそうだ。そんなジョンを何故か尊敬の眼差しで見ている春陽が面白かった。

そんなこんなで商店街に到着。
普段なら荷車を着けたジョンは入口に待機だが、この時間なら空いていて周りに迷惑にならないので連れて行く。

商店街に入ると母親に連れられた小さな子がジョンを見付けてはしゃいでいる、ジョンは大人しく賢いので商店街でも人気者なので見かけると皆が寄って来て挨拶をする。今日は人が少ないので荷車に乗せてあげる、子供を乗せるとジョンはゆっくりと子供に気を遣いながら5m程進みUターンして来る。荷車は50Kg位なら耐えられるしジョンも余裕で引っ張れる、だが安全性を考えて小さい子供だけにしている。春陽は余裕で乗れてしまうが。

先ずは痛まない八百屋に行く。
八百屋に行くと店頭に多恵子さんが果物を並べていた。

「いらっしゃい!おや、眞ちゃんに春ちゃんいらっしゃい。今日は二人でお買い物?」

ワン!

「あらあらごめんね。ジョンも一緒ね。」

自分を認められてご満悦なジョン。
何でこいつは自己主張が激しいんだ?

「春ちゃん今日は顔色がいいわね。眞ちゃんに美味しい物いっぱい食べさせてもらってるんでしょ。」

「えっと、はい。」

「は~可愛い♪眞ちゃんが大事にするのが解るわ!春ちゃん凄い可愛いもんね。」

多恵子さんは春陽を抱き締めて頬づりしている。
春陽は多恵子さんの腕の中でおろおろしているのが可愛い・・・っが!

「多恵子さん、駄目ですよ。たとえ多恵子さんでも春陽をハグしちゃ、春陽が怯えてるでしょ。」

多恵子さんから春陽を奪い返す。晴陽を抱き締め多恵子さんに文句を言うが

「よく言うわ。春ちゃんが怯えてるだけじゃなくて眞ちゃんのただのヤキモチでしょうが。」

バレバレでした。
小さい頃から自分を知っている相手に敵うはずがなかった。

「えっえっ?あのぉ」

腕の中でオロオロしている春陽は可愛い。

「春陽、今日は何を買うんだっけ?」

春陽を多恵子さんの方に向け背中を押す、胸の前で手を握り意を決して多恵子さんに向かい

「あっあっあの、はっ白菜をください!」

叫ぶ形になったが何とか欲しい物を言えた。俺の方に振り向てくるので頷くと安心したのかほっとした顔をした。そんな俺達を見て多恵子さんは嬉しそうに1番いい白菜を渡してくれた。

「はい、どうぞ。他は何かあるかしら?」

「春陽何かある?」

フルフル

「んじゃあ、何かお勧めはあるかな?」

「白菜を買ってくれたけど、今日は美味しそうな眞ちゃんが好きな春キャベツがあるよ。後はバナナが安いからおやつにどう?」

「春キャベツ!是非!バナナかぁどうしようかな・・・。お願いします。あと、そこのオクラも。」

「あいよ。」

買った野菜を荷車に乗せ、次はお肉屋さんに向かうが途中の乾物屋で五月蠅い奴に捕まった。

「おっ!眞一!!買い物か?」

「はぁ~。それ以外商店街に来るかよ。」

「えぇ!俺に逢いにとか?「絶対にない!!」冷てぇな・・・嘘でもうんって言えよ。」
「嫌だ。」

「真史は眞一さん発見器なの?いつもいつも眞一さん眞一さん眞一さん・・・眞一さん眞一さん眞一さん」
「落ち着け!!篤史!俺を見ろなっ?」

「今の内に行こう。」
「いいんですか?」

「あいつには関らなくていいから。」
「はい。」

足早に乾物屋を過ぎる。
魚屋が見えて来たので寄る。

「朝ご飯のおかずいい?」
「はい。」

魚屋を覗くと奥で浜本さんが魚を捌いていた。
お願いすれば切り身にしてくれるし刺身までやってくれる。俺は自分で出来るのではらわただけお願いしている、ゴミが大変じゃん臭いし。

「今日は。」
「へい!らっしゃい!おっ?眞一君きょ!はっはっ春陽くん!!」

大きな声で呼ばれて驚いて俺にしがみ付き怯える春陽に、それを見て落ち込む浜本さんにツッコミを入れる奥さん。

「ごめんね、春陽くん。大きな声でビックリしたよね?ほら謝って!」
「ごめんよ、春陽くん・・・。」

「えっ、あっあの大丈夫です。」

未だ震えているけど頑張った春陽を後ろから抱き締め頭を撫でる。
良く頑張りました。見上げて来る春陽に頷く、すると震えが収まったみたいだ。怯えても落ち着く時間が段々短くなっている様だ。


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